労働」カテゴリーアーカイブ

近況報告/鵜飼良昭(事務所だより2013年1月発行第46号掲載)

news201301_small    昨年11月に日本労働弁護団の会長に就任しました。労働弁護団には、1972年4月に弁護士になったと同時に加入し、爾来40年間、労働弁護団と共に歩んできました。
 この間、1990年代後半には、司法制度改革の中で労働裁判が取り上げられたこともあって、活動のスタンスを日弁連に移しましたが、いつも私の本籍は労働弁護団だと思ってきました。
 その司法制度改革の成果として、2004年に労働審判制度が創設されました。私は難産の末に誕生したこの制度をより確かなものに成長させるためには、労働審判の実際を世に知らせることが必要だと考え、昨年9月に『事例で知る労働審判制度の実際』(労働新聞社)という本を出しました。
 今回、会長にという話があったときは、歴代会長を思い浮かべとてもその器ではないと思いましたが、次の世代への橋渡しということもあり、2年間という期限付きでお受けすることにしました。私としては、「まっとうに働く人が報われる社会を」、という初心を忘れないで、できる限り頑張ってみたいと思っています。
 以下の文章は労働委員会関係の機関誌の新年号に「年頭所感」として書いたものです。私の心境を読み取っていただければ有り難いです。 続きを読む

改正労働契約法(有期労働)を正しく理解し活用しよう/嶋﨑量(事務所だより2012年8月発行第45号掲載)

news201208_small改正の意義

  非正規雇用労働者の不安定雇用や処遇の劣悪さが問題となっていますが,実はこのような非正規雇用労働者の多くは「有期労働契約」(労働契約に期間の定めがある契約:我が国で約1200万人)です。そして,非正規雇用労働者にとって,「有期」契約であることが,その労働条件改善にとって大きなハードルとなっていました。
 というのは,「有期」契約であるが故に,次の契約更新で使用者から不利益に取扱われることを恐れて,本来認められている権利(例えば有給休暇や残業代請求)を行使できない,セクハラ・パワハラにも泣き寝入りするしかないといった状態におかれるからです。また,「有期」契約であるというだけで,賃金や福利厚生などに不合理な差別が多くの職場でみられました。
 このような状況が放置されてきた最大の原因は,我が国の労働法で,これまで「有期労働契約」に着目した法規制が存在しなかったことです。
 そんな中,2012年8月3日,この有期労働契約に関して労働契約法が一部改正されました(以下の「改正法のポイント」参照)。この改正は,我が国で増え続ける非正規雇用労働者の雇用の安定と処遇の改善を,(不十分ではあるものの)一定限度図る内容となっています。 続きを読む

国鉄国労闘争、解決へ/福田護(事務所だより2010年8月発行第41号掲載)

news1008_small 国鉄の分割民営化からまる23年が経過した去る4月9日、JR発足時の職員採用についての国労・全動労等に対する組合差別問題(国鉄清算事業団解雇者1047名問題)で、ついに政治解決がなされました。民主党・社民党・国民新党の与党三党と公明党がまとめた政治解決案を、政府が受け入れたものです。これに基づいて6月28日、最高裁で裁判上の和解が、国鉄の権利義務をいまにひき継いでいる鉄道運輸機構との間で成立しました。

 これによって、国労・全動労組織としての訴訟事件は終結し、今後、政治解決の一環として政府としても努力すると確認された、対象組合員の雇用確保の実現が課題となります。(なお、後記横浜人活事件関係の不採用者2人を含め、今回の和解を選択しなかった一部組合員の個別訴訟が残ります。)

 しかし、この歴史的闘争が大きな目標に到達したという中間総括は、してよいと考えます。この四半世紀に及ぶ長い間、神奈川総合法律事務所の関係者・関係団体の方々からも、多くのご支援、ご協力をいただきました。事件に関わってきた弁護団の一員として、心より御礼申しあげます。

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ロンドンからドイツへ/田中誠(事務所だより2005年8月発行第31号掲載)

news0508_small 鵜飼弁護士の文章の最後に出てくるT弁護士とは私のことですが、その後労働弁護団の一行はベルリンに向い、5月11日から14日までドイツ調査を行いました。
 1997年にも、日本労働弁護団では鵜飼弁護士の紹介するイギリス調査以外に、ドイツ・フランス・イタリアに別れて労使紛争解決システムの調査を行いました。私は、その際、ドイツ班で勉強しましたが、それ以来の再訪になりました。
 現在、わが国では、解雇・配転といった労働契約の諸問題を規律する労働契約法制立法の動きがありますが、厚生労働省からは「今後の労働契約法制のあり方に関する研究会中間取りまとめ」というのが出ており、そこで、厚労省サイドが目玉とするのが、解雇が無効であっても判決によって雇用関係を解消できる「金銭支払による雇用関係の終了制度」と、労働条件を労働協約や就業規則で変更できない場合に解雇とセットで労働条件を変更(不利益変更)する「雇用継続型契約変更制度」です。
 上記「取りまとめ」は、賛否両論併記のような形になってはいますが、厚労省サイドがこれを導入したいと考えていることは明らかで、労働法学者の一部にも導入を強く主張する人がいるとのことです。 続きを読む

裁判官と「立法者意思」/田中誠(事務所だより2004年8月発行第29号掲載)

news0408_small 弁護団の一員として参加した「青山会不採用事件」が、今年(2004年)2月10日、最高裁でも勝利し終了した。
 青山会不採用事件とは、経営ができなくなった県内のある病院を「青山会」という法人が買い取るにあたり、従業員については、旧経営者がいったん全員解雇し青山会において新規採用するという形をとり、その際、労働組合の組合員を不採用としたという事件であるところ、不採用の理由は、労働組合の組合員であるという、ただそれだけの、明白な採用差別事件だった。
 神奈川県地労委、中労委で組合は連勝し、青山会に対して「組合員を採用せよ」という採用命令が出されたが、青山会は平成11年に東京地裁労働部に取消訴訟を提起した。この段階から私は弁護団に参加した。
 このニュースの読者の大半の方は、「労働組合の組合員であるという、ただそれだけを理由に、能力や人格に何の問題もないのに不採用とするなんておかしいに決まっている」と感じてくださるだろうし、それが健全な市民感覚だと思うが、裁判所というのは恐ろしいところで、そうとは考えてくれないのである。
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