大学等修学支援制度の課題/西川治(事務所だより2024年1月発行第68号掲載)

 住民税非課税世帯やこれに準ずる世帯に対し、大学等の入学金・授業料免除と奨学金の給付をセットで行う大学等修学支援制度のスタートからまもなく4年が経過しようとしています(*1)。
 同制度の導入により低所得世帯出身者や児童養護施設で育った子への支援は大幅に充実しました。 しかし、この制度を利用する学生や、この制度を利用して進学しようとする高校生、その親の相談を受けていると、やはり課題があると言わざるを得ません。

1 入学手続で入学金等を一度負担する必要があること

 入学金免除制度があるものの、入学金を一旦納付させることは禁止されていません。入学しないと大学等に免除相当額が入らないため、入学金等を納付するよう求める大学等が少なくありません。
 そのため、別の貸付制度も利用する必要があります(*2)。
 同制度の対象となる大学等の要件として、入学金免除が内定している受験生には入学金免除相当額を納入猶予とすることを義務付けるくらいしてもよいはずです(*3)。

2 学生の収入が増えると減額・打ち切りになること

 学生本人の住民税(所得割)額も考慮されるため、学生本人が月10万円強を稼ぐと、支援が減額・打ち切りになりえます(*4)。
 同制度の支援額と平均的な学生生活費(*5)を比較すると、不足額は年20~80万円程度ですから、一般の世帯では、アルバイトで差額を得ても、住民税が課税されることはあまり想定できません。
 問題は生活保護世帯で自宅通学の場合です。平均的な学生生活費の算定では、自宅通学者の自宅での食費や水道光熱費などはゼロとされています(家計にお金は入れなくてよいという前提)。
 一般の世帯では、子どもが大学生になって収入が減ることはまずありませんから、これらは引き続き親が負担する家庭が大半と思われ、妥当な処理でしょう。

 他方、生活保護世帯では、学生本人が生活保護から外れるため、保護費が減額されます(*6)。つまり、子どもが大学生になると親の収入が大きく減ります。母1人子1人の母子家庭では、子の進学時に約8万円の減額です(*7)。自宅での食費や水道光熱費として家計にある程度入れてもらわないと生活できないのです。
 学校納付金や修学費を平均的な額とし、授業料免除や給付奨学金を満額で計算しても、この生活保護費の減額分を考慮した不足額は下表のとおり月約12万円(*8)。
 これを全部アルバイトで得ると、住民税(所得割)が課税され、次年度の授業料免除や給付奨学金が減額されてしまいます。
 これを踏まえて貸与奨学金を併用するように、という案内が十分されているようには思えません。

3 無利子奨学金との併給調整

 当然、不足分は貸与奨学金で賄いたいのですが、給付奨学金+授業料免除の合計額だけ、無利子奨学金の上限額が減額されます。
 結局、生活保護世帯出身者等では、無利子奨学金は事実上利用できなくなります(*9)。

* * *

 このほか、適格認定や留年等により打ち切られた後の返還請求の問題、授業料免除上限額が学部系統を問わず同額で理系進学のハードルとなる問題、住民税非課税世帯に準ずる世帯の給付水準や対象者の範囲の問題などもあります。
 修学支援制度は大きな制度改善ではありますが、まだまだ課題は山積しています。

*1 導入時の評価については、たより60号 (2020年1月発行)で取り上げています
*2 主に母子父子寡婦福祉資金、生活福祉資金、国の教育ローン、労働金庫のつなぎ融資があります。日本学生支援機構の貸与奨学金には、入学時特別増額という制度がありますが、入金は入学後のため、労働金庫のつなぎ融資を併用する必要があります。
*3 「滑り止め」にされ、入学金が入らないのは困るという大学側の気持ちも分かりますが、免除対象者は受験生の一部であり、そのうち入学辞退する学生などわずかなはずです。
  現状では、国立大を併願するような学力の受験生に対し、入学金の負担から本命の国立大・滑り止めの私立大のどちらかを諦めさせることになります。このような犠牲のもとでまで、私立大の入学金収入を保護する必要などありません。
*4 学生が扶養親族なし、社保料なしで勤労学生控除の適用があるとすると、給与収入が124万円程度を超えた程度から支援に影響が生じえます。
*5 日本学生支援機構の令和2年度学生生活調査
*6 「世帯分離」といい、同じ家に住んでいても、学生のみ保護費の算定対象から外し、1人分の保護費が減額となります。
  なお、家賃(住宅扶助)の上限額も以前は減額されていましたが、いまは世帯分離中、減額しないこととされています。
*7 1級地-1(横浜市など)に住む50歳母と17歳子の2人世帯の子が進学と同時に18歳になるとして試算すると、生活扶助が157,118円から79,516円に減額となります。
  世帯分離のほか、児童養育加算や母子加算(18歳になった年度末まで)がなくなる影響もあります。
*8 私立大学の授業料平均額で計算していますから、理系学部に進学しているとさらに不足額が増加します。
*9 有利子奨学金は利用できますが、所得連動返還など近時導入された返還支援・返還困窮時の救済制度の一部が利用できません。