外国人児童in日本/青柳拓真(事務所だより2024年1月発行第68号掲載)

 先日栃木県の鬼怒川温泉に行ってきました。プライベートな観光旅行・・・ではありません。2023年12月1~2日に開催された、関東弁護士会連合会(関弁連)の外国人に関係する委員会の交流会に参加し、外国人児童に関する講演をさせていただきました。今回はこの交流会についてご紹介します。

 関弁連という言葉に聞きなじみのない方も多いかと思いますが、関弁連は、東京の三弁護士会(東京、第一東京、第二東京)と、関東地方の弁護士会(神奈川、埼玉、千葉、茨城、栃木、群馬)のほか、甲信越の弁護士会(山梨、長野、新潟)及び静岡県弁護士会(つまり東京高裁管内の全弁護士会)の連合団体です。日弁連は日本全国の弁護士が加入する団体で、神奈川県弁護士会は神奈川県の弁護士が加入する団体ですが、関弁連はその中間的な、会の連合団体ということになります。私は、自身が外国人としてシンガポールにいた経験もあって外国人に関する問題に強い関心があり、外国人の方の労働事件(解雇、労災等)や相続事件、在留資格問題(入管対応)等に取り組んでおり、神奈川県弁護士会でも人権擁護委員会外国人部会に所属しています。

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 外国人に関する問題は2種類に大別できます。在留資格の問題と、在留資格以外の問題で、「在留資格」が極めて重要なキーワードです。
 在留資格とは、外国人が日本に適法に滞在するために必要な資格で、外国人が関係する事件では常に細心の注意を払って対応する必要があります。在留資格がなくなると日本に適法に滞在することができず、退去強制等の対象になってしまうからです。
 例えば、解雇された場合、日本人であれば当面の生活に困ることはあっても、日本から追い出されることを心配する必要はありません。しかし、外国人の場合は、仕事をすることを前提とする在留資格の場合、解雇された後どのように在留資格をどのように維持するかを早急に検討・対応する必要があります。私が外国人の方の相談をお受けする際、最初に必ず聞くのは在留資格の有無及び内容です。

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 今回の交流会のテーマであった「外国人児童生徒の現状と弁護士からの関与」に即して問題を整理すると、外国人児童は、在留資格の観点では、①元々在留資格がない場合(例:親がオーバーステイ等で在留資格を持っておらず、その子として出生)と、②在留資格があったがなくなった場合(例:家族滞在の在留資格で滞在していたが、親が職を失うなどして家族滞在の在留資格が維持できなくなる場合等)が主な問題になります。また、在留資格があっても、学習面・生活面等に苦労を抱える児童も少なくないため、その点の配慮も必要となります。
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 交流会では、初めに、宇都宮大学名誉教授・とちぎに夜間中学をつくり育てる会代表の田巻松雄教授から、ある1人の児童(在留資格「定住者」)が、親と日本に来て、学校に馴染むことができず不登校になり、非行に走り、在留資格を失い、帰国に至るまでについてお話しいただきました。このような事態になった原因(言語の壁、学ぶ場の欠如、居場所の不存在等)を多角的に分析した上、「外国人児童特有の転落パターンがあり、それをいかに防止できるかを考えなければならない」旨のお話をされていたのが印象的でした。
 続いて、茨城NPOセンター・コモンズの高橋香南子様から、外国人児童への教育支援についてお話いただきました。学校は受け入れ体制が不十分。児童本人は将来の目的意識の形成が難しく(「どうせ俺たちガイジンだから普通に働けないし」)中退する子も多い。保護者も日本の学校に関する情報収集が困難で、学校に入れたら入れたっきり等の様々な課題があり、それらの課題解決のためNPOとして進学ガイダンス等の様々な事業を実施していることをご報告いただきました。また、学齢超過(オーバーエイジ)の児童について、中学校が受け入れてくれないため居場所が得られずに家にこもり切りになってしまう等の課題があることもわかり、大変学びになりました。

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 最後に、私から、弁護士として、主に在留資格がない外国人児童を念頭に、私が関わっている外国人一家(在留資格なし)に関する報告をしました。
 この一家は在留資格がなく、「仮放免」(本来入管に収容されるが、外で生活することを許されている)という状態にあります。仮放免者は働くことも禁じられており、医療等の社会保険に入ることもできません。生活保護も受けられず、法テラスの利用もできません。家賃や光熱費が払えず野外生活に追い込まれる人も多く、座して死を待てと言われているかのような状態にあります(実態についてより詳しくは佐々涼子『ボーダー 移民と難民』や中島京子『やさしい猫』等がおすすめです)。
 この一家の子供たちは日本の公立学校に通うことはできていますが、そこから先の展望を抱くことができないという状況に陥っていました。
 このようなケースでは、「帰ればいい」という言葉がぶつけられることも多いです。しかし、両親が日本に来たのは、出身国での宗教的な争いに巻き込まれ身の危険を感じたという経緯があり、帰国はできません。さらに、子供たちは皆日本生まれで、日本語もペラペラ、出身国に帰れと言われても知り合いもいない。みんな日本が好きで日本で暮らしていきたいが、親は働くことすら許されず当面の生活すら大変で、全く先が見えないという状況でした。
 私は、このままこの一家を放置することはできないと感じ、NPO等と連携しつつ、この一家の生活面の支援や、在留資格を得るための手続に関与しています。私は、仮放免状態の一家を支援することには様々な困難があること、弁護士だけでなくNPO等の市民との連携が支援に不可欠であること、弁護士・弁護士会としてもいかに市民の活動を支援・後押しすることができるかという観点も考えなければならないといった話をさせていただきました。

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 今回の交流会では、こういった講演に加え、各弁護士会での活動の報告等もなされ、実際に顔をあわせて外国人に関する問題に取り組んでいる弁護士と知り合うことができ、多大な刺激を得ることができました。以後関弁連の活動、そして外国人児童の現状にもご注目いただけますと幸いです。