使用者にとってのワークルール教育/石渡豊正(事務所だより2019年8月発行第59号掲載)

 先日、日本労働弁護団のワークルールPTの活動の一環として、中小企業経営者で組織する中小企業家同友会全国協議会(以下、「中同協」と言います。)の方々とお話する機会がありました。
 中同協は、47都道府県の中小企業家同友会の協議体で、設立は1969年11月、会員数は約47,000人(2019年4月現在)です。会員経営者同士の経験交流を主体にした月例会を活動の基本とする団体ですが、その他にも正規雇用を広げることを目的にJobwayという就職情報サイトを運営したり、社員をパートナーとして経営者と社員が共に育ちあう企業を目指す新人社員研修・幹部社員研修などを開催しています(ホームページhttps://www.doyu.jp/より)。

 中同協は、1975年に、「中小企業における労使関係の見解(労使見解)」というものを発表しています。
 その内容を少し紹介しますと、「1.経営者の責任」では、「新製品、新技術の開発につとめ、幹部を育て、社員教育を推進するなど、経営者としてやらねばならぬことは山ほどありますが、なによりも実際の仕事を遂行する労働者の生活を保障するとともに、高い志気のもとに、労働者の自発性が発揮される状態を企業内に確立する努力が決定的に重要です。経営の全機能を十分に発揮させるキーポイントは、正しい労使関係を樹立することであるといっても過言ではありません。」と記載されています。
 「2.対等な労使関係」では、「企業内においては、労働者は一定の契約にもとづいて経営者に労働力を提供するわけですが、労働者の全人格を束縛するわけではありません。契約は双方対等の立場で取り交わされることがたてまえですから、労働者が契約内容に不満をもち、改訂をもとめることは、むしろ当然のことと割り切って考えなければなりません。その意味で労使は相互に独立した人格と権利をもった対等な関係にあるといえます。憲法や労働三法などによって労働者は個人的にも、労働組合としても基本的権利が定められています。経営者としては、労働者、労働組合の基本的権利は尊重するという精神がなければ、話し合いの根底基盤が失われることになり、とても正常な労使関係の確立はのぞめません。」とあります。
 2019年3月には「働く環境づくりの手引き」を出版され、社員と共に就業規則を作成することなどを含む「働く環境づくりのガイドライン」を推奨しています。
 中同協経営労働委員会委員長の長林哲也さんは、「社員参加で就業規則を見直すことも、実践的な『ワークルール教育』でもあります。」、「『ガイドライン』を全社員参加で具体化・実践するためにも、企業内における『ワークルール教育』は不可欠だと言えます。」(季刊・労働者の権利Vol.326・68頁以降)と述べられております。

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 「ワークルール教育推進法」制定を目指すワークルールPTでは、労働トラブルの多くは、ワークルールに関する労使の知識・理解の不足が原因であるとの認識のもと、労働トラブルを未然に防ぐには、労働者のみならず使用者についてもワークルール教育が必要だと訴えてきました。日本労働弁護団が2015年11月に発表したワークルール教育の推進に関する法律(第1次案)でも、「基本理念」として「労働者及び使用者がそれぞれの権利及び義務について正しく理解する」ことを掲げています。
 そして、ワークルールが行われる時期としては「学齢期から高齢期まで」、場面として「学校」のみならず「職域」でも必要で、使用者の理解と協力が不可欠と考えてきました。
 もっとも、実際の労働事件に接してみた経験としては、特に中小企業については、ワークルール教育の意義を理解し、協力いただくことはかなりハードルが高いような気がしていました。
 当事務所のように労働者側のみで労働事件を担当してみると、そもそもワークルールを守ろうとする意識さえないとか、社員との信頼関係に全く無関心といった企業ばかりが目立ってしまうのです。
 しかし、今回、企業経営における労働者の人格や権利の尊重の重要性を説く中同協のような経営者団体が存在することを知り、自身の狭い経験だけで、一面的な見方をしてはいけないと気づかされました。
 ワークルール教育推進法は未だに成立していません。2017年11月には非正規雇用対策議連がワークルール教育推進法案を作成し、2018年3月中に国会提出予定との報道もありましたが、世論の後押しがあと一歩足りなかったのでしょうか。
 今後は、企業の健全な発展においてもワークルール教育が必要であるとの理解を広め、さらに幅広い運動へと展開していく必要がありそうです。

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