サマーキャンプ中止問題、無事解決!~旅行業法施行要領が改正~/西川治(事務所だより2019年8月発行第59号掲載)

 たより55号(2017年9月発行)で取り上げたサマーキャンプ中止問題について、原因となっていた旅行業法違反の旅行業法施行要領が改正され、同様の事態が今後起こる心配はほぼなくなりました。

*サマーキャンプ中止問題とは

 2017年夏に、川崎市内の小中学生を対象にしたサマーキャンプ(主催・川崎市教育委員会等で構成する実行委員会)が、「旅行業法に抵触する」という理由で中止に追い込まれたものです。
 このサマーキャンプは1990年から毎夏行われ、長野県、和歌山県など各地で地元の子どもたちと交流しながら自然体験活動を行うというもので、この夏も81人が参加予定でした。
 同様の事例は、神奈川県平塚市、二宮町、開成町などをはじめ、全国各地で発生しました。

 理由は、登録した旅行業者以外が、サマーキャンプを行うにあたり、参加費を徴収して往復の交通手段や現地での宿泊先を確保すること(電車やバス、宿泊施設の手配など)を繰り返すと、旅行業にあたり、旅行業法違反(無登録営業)だから、というものでした。
 実際には、営利目的がなければ登録不要というのが判例(高松高等裁判所平成25年1月29日判決)ですが、観光庁が定める旅行業法施行要領に、営利目的の有無を問わず登録が必要であると読める記載があったため、誤った法解釈によりサマーキャンプが相次いで中止に追い込まれたのです。
 私は、一連の事態を踏まえ、2017年7月25日、26日と自然体験活動の推進に熱心な国会議員に陳情し、観光庁の担当者にも高裁判決を紹介して適切な対応を求めており、観光庁も同月28日に営利性が要件になることを認める通知を発しました。

*旅行業法施行要領改正(平成30年7月)

 それでも、誤った法解釈が広まった元凶である旅行業法施行要領はそのまま維持されていましたが、平成30年7月にようやく改正がなされ、

国、地方公共団体、公的団体又は非営利法人が実施する事業であったとしても、報酬を得て法第2条第1項各号に掲げる行為を行うのであれば旅行業の登録が必要である。
【改正前第一、1、2)】

との定めが廃止され、代わりに

法第2条第1項各号に掲げる行為を行うにあたり、当該行為が旅行業に該当するかは、旅行業務に関する対価の設定、募集の範囲、日常的に反復継続して実施されるものであること等を踏まえ、総合的な判断を要するものである。【改正後第一、1、1)】

との定めが置かれることとなりました。
 「旅行業法施行要領の一部改正(平成30年7月改正)に関する参考資料」(*1)においても、旅行業法の構造・枠組みについて誤った解釈・解説をしている部分はあるものの、

例 実費だけ受け取るつもりが、収入が経費を上回り、最終的に黒字になってしまった場合、営利性があることになるのか。
答 最終的に黒字になってしまったというだけで即営利性があるとは言えない。例えば、一回のツアーの実施で黒字になったとしても、長期的に見ると全体として収入と経費が均衡している又は経費が収入を上回る場合は、利益が構造的に出ないようになっているため、営利性はないと言える。

のような問答が用意されるなど、構造的に利益を生み出すものでなければ営利性がなく、旅行業法上の登録は不要であることが示されています。
 また、「本改正は旅行業の解釈を明確にするものであり、規制緩和にはあたらない」とされ、サマーキャンプ中止問題が誤った法解釈によって生じたことも明らかにされました。
 これにより、非営利で行われる子どもの自然体験活動を始め、被災地へのボランティアツアーなども旅行業法上の登録なくして実施できることが明確化されました。

*「営利」「非営利」について誤解しないように!

 今回、「非営利」であれば旅行業法上の登録が不要であることが明確にされたとはいえ、ここでいう「非営利」は「非営利法人である」(主体が非営利である)ことをいうのではなく、旅行業にあたる行為・事業が「非営利で行われている」ことをいうものであることに注意が必要です。
 何が違うのか、例を挙げてみましょう。

例1 環境保全活動を目的とするNPO法人甲は、子ども向けの自然体験活動事業Aを実施しているが、この事業Aでは収支トントンで利益が上がらないよう参加費を設定している。
例2 環境保全活動を目的とするNPO法人乙は、子ども向けの自然体験活動事業Bを実施しているが、この事業Bでは毎年100万円程度の利益が出るよう参加費を設定している。NPO法人乙は得られた利益をすべてNPO法人乙の行う植林活動の費用に充てている。
例3 環境保全活動を目的とする株式会社丙は、子ども向けの自然体験活動事業Cを実施しているが、この事業Cでは毎年100万円程度の利益が出るよう参加費を設定している。株式会社丙は得られた利益の半分を株式会社丙の行う植林活動の費用に充てているが、残りは株主に配当として配っている。

 いかがでしょうか。
 まず、「非営利法人」かどうかについてみると、例1・2のNPO法人甲、NPO法人乙は、いずれも「非営利法人」ですが、例3の株式会社丙は「営利法人」です。判断のポイントは、例3では得た利益の一部を株主に配当として配っているのに対し、例1・2では利益を社員(*2)に配ることはできない点です(特定非営利活動促進法2条2項1号)(*3)。
 「非営利法人」とは、その団体の活動を通じて利益が得られたときは、その団体の活動のために使う、という意味であって、その団体の個別の活動では利益を上げていても「非営利法人」ということがあります。
 他方、行為・事業が「非営利で行われている」かどうかについてみると、「非営利で行われている」といえるのは例1の事業Aだけです。判断のポイントは、事業Aは利益が上がらないような参加費設定であるのに対し、事業B・Cは一定の利益が出るように参加費を設定しているという点です(*4)。利益を最終的にどのように使うかは、問題ではありません。

主体が非営利法人か 事業が非営利で行われているか
○(NPO法人甲) ○(事業A)
○(NPO法人乙) ×(事業B)
×(株式会社丙) ×(事業C)

*なぜ「非営利で行われている」ことが大事なのか

 お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、非営利法人かどうかは、実施主体である法人に注目する区分、事業が非営利で行われているかどうかは、実施される事業に注目する区分です。
 旅行業法で問題となるのは、当該行為・事業が「非営利で行われている」ことです。なぜならば、営利目的なく旅行業にあたる事業を行う場合には、そもそもお金を儲けようという動機がないため、お金だけ受け取って手配をしないとか、ピンハネをするとかいった不正の可能性が乏しいのに対し、営利目的の場合には、どうしてもそのような不正な業者が紛れ込んでくる危険があるためです(*5)。
 国や地方自治体の実施する企画であれば儲ける必要はありませんから、通常「非営利で行われている」といえるでしょうし、公益法人の公益目的事業も利益を上げることが禁止されているため(公益法人認定法14条)、同法に基づいて運営されている限り「非営利で行われている」といえるでしょう。
 しかし、NPO法人や一般法人、任意団体などが実施主体の場合、個々の行為や事業について利益を上げることは禁止されていませんから、「非営利で行われている」かどうかは参加費の設定、収支の計画や実情などを踏まえて個々に判断することになります。
 子どもの自然体験活動の実施団体は多岐にわたりますが、一部ではNPO法人が前面に出て、自らが実施主体であるかのように広報しつつ、実際に活動への参加申し込みをしようとするとNPO法人とは異なる株式会社(有限会社を含む。旅行業者として登録をしている。)に対して申し込むようになっており、申込や代金のやり取りなどはすべてこの会社と行う形になっている場合がありました。
 私は、これは旅行業法上の無登録営業にならないようにするための方便であり、全体としては非営利(「非営利法人」の「非営利」です。)で運営されていると信じたいところですが、「非営利」を前面に押し出したNPO法人を通じて広報しながら、「営利」法人の代表的存在である会社が実は実施主体になっているというのは、若干気になります。
 しかし、旅行業法で問題となる「非営利」が上記のとおりである以上、NPO法人等が実施主体の場合、参加費の設定がどうかという微妙な問題を回避するために、この体制を続けざるを得ないと考える実施主体があってもやむを得ないでしょう。最も大事な活動内容(安全確保の体制を含む。)の面で、切磋琢磨する方向に進んでいってほしいと願っています。

*1 http://www.mlit.go.jp/common/001253410.pdf
*2 正会員など。会社の従業員をいう「社員」とは異なります。NPO法人における株主に相当する人たちと考えていただければ構いません。
*3 働いた分だけ、役職員に給与として支払うのは構いません。ただし、役員については、役員の3分の2以上は無報酬でなければなりません(特定非営利活動促進法2条2項1号ロ)。
*4 実際に利益が出たかどうかは直接には影響ありませんが、毎年利益が出ている状況が続いているのに参加費を引き下げない状況が続けば、「利益が出るように参加費を設定している」(=非営利とはいえない)と判断される可能性があります。
*5 昭和27年の旅行業法制定時(制定時は「旅行あっ旋業法」)の提案理由でも、「悪質業者も少くなく、各地に旅行費用の詐取、客の携帯する主食、宿泊交通費等の一部の着服等々の被害を生じ、又外客に対するあつ旋の強要、あつ旋料の不当なる要求等の好ましからぬ事件を惹起している状態」(参議院運輸委員会昭27.5.22)とされています。
  2017年に破産した「てるみくらぶ」が、旅行代金を受け取りながら、ホテルや航空会社に支払いをしていなかった例などはまさにその典型でしょう。

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