アスベストは、石綿ともいわれ、細長い天然の鉱物繊維です。
耐熱性、耐薬品性、熱や電気の絶縁性などの特性をもつことから、建材、摩擦材、シール材、断熱材、保温材など様々な製品の材料として使われてきました。
しかし、アスベストが空気中に放出され、人が呼吸とともにそれを吸い込むと、微細なものは肺の奥まで到達します。アスベストは丈夫で変化しにくい鉱物繊維であるため、そのまま肺の組織に刺さるように蓄積され、数十年ともいわれる潜伏期間を経て、肺がんや中皮腫などの疾病の原因となります。 現在では、法令によってアスベストの使用が規制され、飛散防止などの対策がとられていますが、かつてアスベストを取り扱う職場で働いていた方々は多く、時を経てそれらの方々にアスベスト由来の疾病が発症するという事態が起きています。
この場合、就労していた業務に起因する疾病ですから、労災保険による補償の対象となります。 続きを読む
「労災」カテゴリーアーカイブ
過労死防止法の施行/野村和造(事務所だより2015年1月発行第50号掲載)
平成26年11月1日、過労死等対策防止推進法(過労死防止法)が施行された。
この法律は、次のような内容を持つ。
・国、地方公共団体の、過労死等防止対策対策推進の責務
・国による実態調査、調査研究等
・国や地方公共団体による啓発活動
・被災者や遺族の声の反映(過労死等防止大綱作成にあたり、意見を述べる協議会メンバーに被災者や遺族が加わる)
この法律だけで過労死・過労自殺の予防や救済が大きく変化するわけではない。しかし、大きな第一歩である。
神奈川過労死対策弁護団は、この施行の日、過労死防止を考える集いを持った。
これまでの集会では考えられなかった神奈川労働局からの挨拶の後、過労死弁護団全国連絡会議事務局長の玉木弁護士の講演、家族の会の方たち、あるいは母親が過労で脳出血を起こしそのため介護士の資格をとった息子さんからの切実な話が続いた。
災害の記憶 -ある公務災害事件- /大塚達生(事務所だより2014年1月発行第48号掲載)
平成16年10月23日、新潟県中越地方を震度7の地震が襲い、深刻な被害が発生しました。
神奈川県内のA町では、町長の発案で職員を被災地に派遣することになり、当時55歳だった部長職のBさんは、町長及び3名の幹部職員とともに、3日間、被災地に派遣されました。
町長が幹部職員4名を率いて被災地入りしたことからも分かるように、この派遣には、被災地に応援の人手を出すという意味だけにとどまらず、町長と幹部職員が実際に被災地に入って被災状況を実体験することにより、A町の防災体制を考えることに役立てるという意味がありました。 続きを読む
あるファーストフード店店長の過労死/大塚達生(事務所だより2010年1月発行第40号掲載)
あるファーストフードチェーンの店長が、社内研修の最中にクモ膜下出血で倒れ、亡くなりました。
「労災ではありません。」という会社担当者の説明に疑問を感じた遺族が、会社から勤務記録を取り寄せたところ、遺族の実感から程遠い残業時間数しか記録されていませんでした。また、おかしなことに、社内研修中に倒れたにもかかわらず、会社の勤務記録には、その日が「公休日」と記されていました。
遺族が、労働組合の支援を受けて、労災保険給付請求の手続を準備していたところ、亡くなった店長が通勤時に使っていた市営駐車場の磁気カードが見つかりました。そして、それをもとに駐車場の入出庫記録を入手することができました。
この駐車場は店長が勤務していた店舗のすぐ近くにあり、労働組合が入出庫記録に基づいて、店舗に着く時刻と店舗を出る時刻を割り出したところ、元店長の残業時間数は会社の記録よりもはるかに多くなりました。この時間数は、遺族の実感に合致するとともに、元店長の携帯電話に残されたメールの送受信記録とも内容的に符合しました。
労災が「自己責任」とされないように/小宮玲子(事務所だより2009年8月発行第39号掲載)
Kさんは、業務用電化製品の訪問修理・メンテナンス業務に従事するサブカスタマエンジニア(サブコン)として働いていました。サブコンは、顧客に対する迅速な対応の名のもとに担当地域ごと一人ずつ24時間拘束されて働いていました。会社は、サブコンを会社に拘束して専属的に働かせていましたが、人件費削減のため、社員としては処遇せず、会社との間で「業務委託契約」を結ばせ、完全歩合制で支払いをおこなっていました。
Kさんは、入社して7年目の平成13年、過労のため脳内出血で倒れました(当時55歳)。今でも半身麻痺、言語障害等の後遺症が残ったままです。
会社はサブコンに関しては、労働時間管理は一切おこなわず、健康診断も受けさせず、経済面でも健康面でもサブコンの「自己責任」は徹底されていました。
Kさんは、家族と支援者に支えられ、労災を申請しました。しかし本件では、会社との間で「業務委託契約」を結ばされ働いていたKさんの労働者性がまず認められるのか、そして本件のように、労働時間の管理・記録がまったくない場合、実労働時間をどうみるのかという問題がありました。同じような問題は、本件のように、形式上「業務委託」とされている場合のほか、「請負」とされている場合や、非正規社員、正社員の場合でも労働時間管理がまったくおこなわれていない同様の事案でも多く見られます。