月別アーカイブ: 2015年1月

無罪判決を受けて/石渡豊正(事務所だより2014年8月発行第49号掲載)

news201408_small 先日、初めて刑事事件の無罪判決を獲得しました。
 事案は、交差点における自転車同士の死亡事故です。
 略式手続(簡易裁判所において公判手続を経ないで罰金又は科料を科する手続)で罰金刑の言渡しを受けた後に弁護人に就任し、異議申立後の正式裁判で無罪判決となりました。
 本件で裁判所が認定した事実は以下のようなものでした。

 被告人は前方に赤信号を認めて交差点手前で約1分停止した後、右方を確認しながら再び歩くほどの速さで徐行し始めた。そして、右方の歩道(下り坂)から被害者の自転車が向かって来るのを確認したため停止した。しかし、被害者は相当の高速度(時速25ないし30キロメートルないしそれ以上)で進行しており、被告人を認めて驚愕のため適切なブレーキ操作やハンドル操作をすることができずに自転車もろとも転倒した。被告人の自転車と被害者の自転車が衝突したとは認定できない。

続きを読む

医療の不確実性について思うこと/大塚達生(事務所だより2014年8月発行第49号掲載)

news201408_small 「医療の不確実性」という言葉をご存じでしょうか。
 この言葉を見たり聞いたりした方は、多いのではないでしょうか。
 この言葉を使う人によって意味に多少の違いがあるようですが、最大公約数的な意味としては、「医療に100%確実な診断、治療、経過予測はない。」「医療は100%の結果を保証するものではない。」といったことでしょうか。
 常識的に理解できることであり、もっともなことです。
 しかし、この言葉が濫用されていると感じることもあります。例えば、行われた医療行為が適切だったか不適切だったかを論じなければいけない場面で、この言葉が持ち出されているときです。 続きを読む

ブラック企業被害対策とワークルール教育/嶋﨑量(事務所だより2014年1月発行第48号掲載)

news201401_small 先日、日本労働弁護団主催で、ワークルール教育に関するシンポジウムが開催されました。パネリストとして、道幸哲也教授(放送大学教授・労働法)、上西充子教授(法政大学・キャリアデザイン学)、POSSE代表の今野晴貴氏、神奈川高教組の加藤はる香氏という、多彩なメンバーが参加され、私もコーディネーターとして参加させていただきました。

 このシンポジウムで一番印象深かったのは、複数のパネリストから、単なる労働法の知識だけではなく、自分の権利を主張する意識を育てることの必要性が指摘されていたことです。職場で何らかの権利侵害(解雇・賃金未払い・ハラスメントなど)を受けた労働者のうち、労働組合や弁護士に相談する方は、本当にごく少数派でしょう。今の日本で働く労働者のうち、職場での違法行為に対して権利主張するのは、残念ながら本当にごく一部の「変わった人」なのです。

 ですが、職場での違法行為に対して、当たり前の権利主張をする人が増えていき、それが「普通の人」になれば、日本の職場に蔓延する「労働法無法地帯化」が改善されていくのではないでしょうか。

続きを読む

災害の記憶 -ある公務災害事件- /大塚達生(事務所だより2014年1月発行第48号掲載)

news201401_small 平成16年10月23日、新潟県中越地方を震度7の地震が襲い、深刻な被害が発生しました。
 神奈川県内のA町では、町長の発案で職員を被災地に派遣することになり、当時55歳だった部長職のBさんは、町長及び3名の幹部職員とともに、3日間、被災地に派遣されました。

 町長が幹部職員4名を率いて被災地入りしたことからも分かるように、この派遣には、被災地に応援の人手を出すという意味だけにとどまらず、町長と幹部職員が実際に被災地に入って被災状況を実体験することにより、A町の防災体制を考えることに役立てるという意味がありました。 続きを読む

かつて派遣は禁止されていた /石渡豊正(事務所だより2014年1月発行第48号掲載)

news201401_small 若い方の中には、かつて派遣は禁止されていたということを知らない人も多いのではないでしょうか。
 1985年(昭和60年)に派遣法が制定されるまで、労働者派遣は一切禁止されていました。
 派遣法が制定された後も、当初は、常用代替のおそれのない専門的知識等を必要とする13業務のみが対象でした。
 しかし、その後、適用対象業務が徐々に拡大していき、現在では適用対象業務は一部の派遣禁止業務を除いて、原則的に自由化されるまでになりました。


 現在、厚生労働省においては、派遣労働をさらに拡大させようとする動きがあります。

 昨年12月12日に開催された労働政策審議会(第201回労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会)では、労働者派遣制度の改正について報告書骨子案(公益委員案)が公表されました(以下では、「公益委員案」とします)。 続きを読む