かつて派遣は禁止されていた /石渡豊正(事務所だより2014年1月発行第48号掲載)

news201401_small 若い方の中には、かつて派遣は禁止されていたということを知らない人も多いのではないでしょうか。
 1985年(昭和60年)に派遣法が制定されるまで、労働者派遣は一切禁止されていました。
 派遣法が制定された後も、当初は、常用代替のおそれのない専門的知識等を必要とする13業務のみが対象でした。
 しかし、その後、適用対象業務が徐々に拡大していき、現在では適用対象業務は一部の派遣禁止業務を除いて、原則的に自由化されるまでになりました。


 現在、厚生労働省においては、派遣労働をさらに拡大させようとする動きがあります。

 昨年12月12日に開催された労働政策審議会(第201回労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会)では、労働者派遣制度の改正について報告書骨子案(公益委員案)が公表されました(以下では、「公益委員案」とします)。

 現行の労働者派遣法が、派遣期間制限のない業務を専門26業務に限定して、その他の一般業務については原則1年最長3年までに派遣可能な期間を制限しているのに対し、公益委員案は、専門26業務という区分を廃止した上で、派遣禁止業務(港湾、建設、警備など)を除いて全ての職種と業務において、無期雇用派遣(派遣元と派遣労働者の雇用契約に期間の定めがない場合)については派遣可能期間の制限を撤廃し、有期雇用派遣(派遣元と派遣労働者の雇用契約に期間の定めのある場合)については派遣労働者個人単位では3年を上限としながら、人を入れ替えれば無期限に派遣労働を利用することができるものとなっています。

 公益委員案に基づく法改正がなされれば、全ての職種と業務で何の規制もなく派遣労働者を無期限に使えるようになります。使用者にとっては、これまでと比べて格段に派遣労働を利用しやすくなるのですから、日本の雇用社会に派遣労働者がこれまで以上に増大することは間違いないでしょう。


 では、かつては禁止されていた派遣労働を現在よりもさらに拡大することに問題はないのでしょうか。派遣が禁止されていた理由に遡って考える必要があると思います。

 派遣が禁止されていたのは、労働契約上の使用者たる派遣元の他に指揮命令をする派遣先が存在することで使用者責任が不明確になる、中間搾取によって労働者が手にする賃金が減少する、雇用が不安定な労働者が増えるなどという様々な弊害が予測されていたからです。派遣には、そもそもそのような弊害が生じる危険性が内在しているということです。

 そして、派遣法制定後、現在に至るまで、年越し派遣村の出現、派遣先との黙示の労働契約を求める訴訟、派遣先の労働組合法上の使用者性、正社員との待遇の格差、派遣契約解除に伴う解雇など、派遣労働に関する様々な問題が発生しています。

 これらの問題は、すべて労働者派遣に潜在する特有の危険が顕在化したものと言えます。労働者派遣法という規制をかけた上で派遣を解禁したものの、やはり派遣特有の問題が発生しているのが現状です。


 現行の労働者派遣法の下で様々な問題が発生し、それに苦しむ派遣労働者が数多く存在する以上、そのような問題を解消するための法改正をまず先行させるべきです。それをしないうちに派遣労働を拡大させるための改正を目指すのは、進むべき方向を間違えています。

 労働者派遣法が施行されてから30年弱が経過し、国民の中には派遣が特別な働き方だという意識が薄れてきているのではないでしょうか。また、現在の若い人にとって、派遣は物心ついた時から存在する雇用形態であり、そもそも例外的な働き方であるという認識自体がありません。

 “労働者派遣はかつて禁止されていた”
 派遣制度の今後を議論する際には、このことを忘れてはいけないと思います。