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  借地契約Q&A

弁護士大塚達生


このページでご説明する事項は次のとおりです。

Q1 借地権とはなんですか。
Q2 借地権の存続期間はどのくらいですか。短い期間を定めてしまった場合、どうなりますか。
Q3 存続期間が満了したら、借地権は消滅しますか。
Q4 更新に対して異議を述べるための「正当の事由」とは、どのようなことですか。
Q5 借地契約を更新する場合は、必ず更新料を支払わなければいけないのでしょうか。
Q6 どのような場合に地代の値上げを請求できますか。値上げのための手続はありますか。
Q7 どのような場合に地代の値下げを請求できますか。値下げための手続はありますか。
Q8 借地上の建物を第三者に譲渡(売却)する場合、地主の承諾は必要ですか。
Q9 建物の増改築をする場合、地主の承諾は必要ですか。
Q10 借地権の最初の存続期間中で、残存期間が少なくなってきたのですが、建物が老朽化したため、取り壊して建て替えようと考えています。建て替え後の建物は、残存期間を超えて存続することが確実ですが、問題ないでしょうか。
Q11 借地権の更新後の存続期間中で、残存期間が少なくなってきたのですが、建物が老朽化したため、取り壊して建て替えようと考えています。建て替え後の建物は、残存期間を超えて存続することが確実ですが、問題ないでしょうか。
Q12 借地人に契約違反行為があったとき、地主は借地契約を解除できますか。
Q13 この度、借地を立ち退くことになりました。借地上にある建物は、必ず撤去しなければいけないのでしょうか。
Q14 定期借地権とは何ですか。普通の借地権とどう違うのですか。


Q1 借地権とはなんですか。

 建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権です。
 借地権は、借地契約(地上権設定契約または土地賃貸借契約)によって、発生します。
 平成3年に借地借家法が制定され、平成4年8月1日に施行されました。
 借地借家法施行前に成立した借地契約による借地権を既存借地権と呼んでいます。
 借地借家法施行後に成立した借地契約による借地権は、普通借地権定期借地権に分類されます。
 定期借地権は、期間満了時に契約が更新されずに消滅する借地権ですが、借地借家法によって創設された制度で、旧借地法の時代にはありませんでした。
 定期借地権には、一般定期借地権、建物譲渡特約付借地権、事業用借地権があります(借地借家法22条~24条)。


Q2 借地権の存続期間はどのくらいですか。短い期間を定めてしまった場合、どうなりますか。

 【既存借地権】平成4年7月31日以前に成立した契約の場合

 石造、土造、煉瓦造又は之に類する堅固な建物かどうかで違いがあります。
 堅固な建物については60年ですが、契約で30年以上の存続期間を定めたときはその期間になります(旧借地法2条)。
 契約で30年未満の存続期間を定めても、それは借地権者に不利な約定として定めなかったものとみなされ(旧借地法11条)、60年になると解されています。
 非堅固な建物については30年ですが、契約で20年以上の存続期間を定めたときはその期間になります(旧借地法2条)。
 契約で20年未満の存続期間を定めても、それは借地権者に不利な約定として定めなかったものとみなされ(旧借地法11条)、30年になると解されています。

 普通借地権】平成4年8月1日以後に成立した契約の場合

 建物の構造に関係なく30年です。
 もし契約で30年より短い期間を定めても、30年になります。
 契約で30年より長い期間を定めることはできます。(借地借家法3条)

 定期借地権や一時借地権の場合は、これと異なる扱いです(借地借家法22条~25条)。


Q3 存続期間が満了したら、借地権は消滅しますか。

 【既存借地権】平成4年7月31日以前に成立した契約の場合

 借地人が更新を請求すれば、借地上に建物がある場合に限り、借地契約は更新されます。しかし、地主が「正当の事由」にもとづいて「遅滞なく」異議を述べた場合には更新されません(旧借地法4条1項)。
 また、借地人が期間満了後も土地使用を継続し、地主が遅滞なく異議を述べなかった場合は、借地契約は更新されます(旧借地法6条1項)。
 借地上に建物がある場合、地主が異議を述べるには、「正当の事由」が必要になります(旧借地法6条2項)。
 更新後の契約期間は、堅固の建物については30年、その他の建物については20年です(旧借地法4条3項、5条1項、6条1項)。ただし、当事者が合意により更新する場合、これより長い期間を定めることは可能です(旧借地法5条2項)。

 普通借地権】平成4年8月1日以後に成立した契約の場合

 借地人が更新を請求すれば、借地上に建物がある場合に限り、借地契約は更新されます。しかし、地主が「正当の事由」にもとづいて「遅滞なく」異議を述べた場合には更新されません(借地借家法5条1項、6条)。
 また、借地人が期間満了後も土地使用を継続すれば、借地上に建物がある場合に限り、借地契約は更新されます。しかし、地主が「正当の事由」にもとづいて「遅滞なく」異議を述べた場合には更新されません(借地借家法5条2項、6条)。
 更新後の契約期間は、1回目の更新にあっては20年、2回目以降の更新にあっては10年ですが、当事者が合意により更新する場合、これより長い期間を定めることは可能です(借地借家法4条)。
 なお、一時借地場合は、これらの規定の適用はありません(借地借家法25条)。
 また、定期借地権の場合は、契約の更新はありません(借地借家法22条~24条)。


Q4 更新に対して異議を述べるための「正当の事由」とは、どのようなことですか。

 【既存借地権】平成4年7月31日以前に成立した契約の場合

 既存借地権に適用される旧借地法4条1項は、「土地所有者カ自ラ土地ヲ使用スルコトヲ必要トスル場合其ノ他正当ノ事由アル場合」と定めています。
 この条文の解釈ですが、地主に自己使用の必要があれば直ちに正当事由が認められるということではありません。
 正当事由の有無は、地主と借地人のそれぞれの事情、特に地主と借地人が土地の使用を必要とする事情を比較して判定されています。
 また、補完的に、(1)契約のいきさつ、(2)土地の有効利用、(3)代替地または立退料の提供、(4)借地人の態度なども加味して判定されています。

 普通借地権】平成4年8月1日以後に成立した契約の場合

 普通借地権に適用される借地借家法6条は、「借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。以下この条において同じ。)が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合」と定めています。
 つまり、(1)地主と借地人が土地使用を必要とする事情を主たる判定要素とし、(2)従前の経過、(3)土地の利用状況、(4)立退料支払いの申し出の有無を補完的な判定要素として、正当事由の有無が判定されることになります。
 ただし、借地借家法施行日以後(平成4年8月1日以後)に成立した普通借地権の存続期間は建物の構造に関係なく30年ですので、それが更新時期を迎えるのは早くても平成34年です。


Q5 借地契約を更新する場合は、必ず更新料を支払わなければいけないのでしょうか。

 借地契約の中で更新料支払いについての約定をした場合は、その額が暴利でない限り、支払い義務があります。
 約定をしていない場合は、支払い義務はありません。
 ただし、約定をしていなかった場合でも、地主と借地人が新たに更新料支払いを合意し、支払いが行われることはあります。


Q6 どのような場合に地代の値上げを請求できますか。値上げのための手続はありますか。

【値上げを請求できる場合】
 地主が地代の値上げを請求できるのは、
  (1)土地に対する税金が高くなったことにより地代が不相当に安いと認められる場合、
  (2)土地価格の上昇などの経済事情の変動により地代が不相当に安いと認められる場合、
  (3)付近の類似の土地の地代等に比較して不相当に安いと認められる場合
です。
 ただし、地代等を増額しない旨の特約がある場合には、できません。(借地借家法11条1項)

【値上げの手続】
 交渉で解決しない場合、地主としては、自分が相当であると信じる地代額に値上げする旨、借地人に請求することになります(記録を残すために配達証明付き内容証明郵便で)。
 これにより、地代は相当な額に値上げされたことになります。

【不服のある借地人はどうするか】
 この値上げに不服のある借地人は、値上げを正当とする裁判が確定(裁判上の和解成立や調停成立も含みます)するまでは、相当と認める額の地代を支払えば足ります。
 ただし、裁判が確定した場合、それまでの支払額に不足があれば、その不足額に年1割の利息を付けて支払わねばなりません。(借地借家法11条2項)

【相当な地代額は最終的にどう決めるのか】
 地主と借地人の話し合いがまとまらない場合、相当な地代額を決定するための手続は、まずは民事調停です(地代に関する紛争については、訴訟を提起する前に民事調停を申し立てなければならないと、法律が定めています。)。
 調停では、要件が整えば、調停委員会が調停条項を定めたり、裁判所が適正な増減額の決定を行うこともできます。
 しかし、調停が成立しないときや、裁判所のこの決定に対して当事者が異議を述べたときは、訴訟によって相当な地代額を決めることになります。


Q7 どのような場合に地代の値下げを請求できますか。値下げための手続はありますか。

【値下げを請求できる場合】
 借地人が地代の値下げを請求できるのは、
  (1)土地に対する税金が安くなったことにより地代が不相当に高いと認められる場合、
  (2)土地価格の下落などの経済事情の変動により地代が不相当に高いと認められる場合、
  (3)付近の類似の土地の地代等に比較して不相当に高いと認められる場合
です。(借地借家法11条1項)
 なお、地代等を減額しない旨の特約があっても、上記の事由があれば、減額請求できます(大審院昭和13年11月1日判決)。

【値下げの手続】
 交渉で解決しない場合、借地人としては、自分が相当であると信じる地代額に値下げするよう、地主に請求することになります(記録を残すために配達証明付き内容証明郵便で)。
 しかし、地主は、値下げを正当とする裁判が確定(裁判上の和解成立や調停成立も含みます)するまでは、相当と認める額の地代を請求できます。借地人は、これを支払わねばなりません。
 ただし、裁判が確定した場合、それまでの支払額に超過があれば、その超過額に年1割の利息を付けて返還しなければなりません。(借地借家法11条3項)

【相当な地代額は最終的にどう決めるのか】
 Q6と同じです。
 まず民事調停の手続を行います。
 調停手続における裁判所の増減額決定に異議が出た場合や、調停が成立しない場合には、訴訟によって相当な地代額を決めることになります。


Q8 借地上の建物を第三者に譲渡(売却)する場合、地主の承諾は必要ですか。

【地主の承諾は必要】
 借地上の建物を譲渡する場合、特別の事情がない限り、借地権も一緒に譲渡されたものと扱われます。
 借地権の譲渡には地主の承諾が必要ですので(民法612条1項)、借地上の建物を譲渡する場合には、地主の承諾が必要ということになります。

【地主の承諾に代わる裁判所の許可】
 地主の承諾が得られない場合は、裁判所の許可を得るという方法があります。
 建物譲受人が借地権を取得しても地主に不利となるおそれがないにもかかわらず、地主がその借地権の譲渡を承諾しないときは、裁判所は、借地人の申立てにより、地主の承諾に代わる許可を与えることができます。
 この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、裁判所は、借地権の譲渡を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができます(借地借家法19条1項)。

【地主による買受の申立】
 ただし、裁判所が定める期間内に、地主が自ら建物の譲渡及び借地権の譲渡を受ける旨の申立てをしたときは、裁判所は、相当の対価の条件を定めて、これを命ずることができます。(借地借家法19条3項)。

【譲受人の建物買取請求権】
 地主の承諾がなく、裁判所への許可の申立もないままに、譲渡が行われてしまった場合には、譲受人は、地主に対して、譲渡を承諾するか建物を時価で買い取るよう請求できます(借地借家法14条)。


Q9 建物の増改築をする場合、地主の承諾は必要ですか。

【増改築制限の特約がない場合】
 借地契約に増改築を制限する特約がない場合、地主の承諾がなくても、増改築は可能です。
 しかし、建物の種類・構造・規模・用途を制限する特約がある場合で、増改築によってこの制限を超えることになる場合は、借地条件の変更になるため、地主の承諾が必要です。
 この場合、地主が承諾してくれないときは、借地条件変更の許可を裁判所に求めるという方法があり、許可される場合もあります(借地借家法17条1項)。
 ただし、借地条件変更が許可されても、同時に地代の増額とか一時金の支払いを命じられることがあります(借地借家法17条3項)。

【増改築制限の特約がある場合】
 借地契約に増改築を制限する特約がある場合、増改築をするには基本的に地主の承諾が必要です。
 地主が承諾してくれないときは、土地の通常の利用上相当な増改築の許可を裁判所に求めるという方法があり、許可される場合もあります(借地借家法17条2項)。
 ただし、増改築が許可されても、同時に地代の増額とか一時金の支払いを命じられることがあります(借地借家法17条3項)。


Q10 借地権の最初の存続期間中で、残存期間が少なくなってきたのですが、建物が老朽化したため、取り壊して建て替えようと考えています。建て替え後の建物は、残存期間を超えて存続することが確実ですが、問題ないでしょうか。

 【既存借地権】平成4年7月31日以前に成立した契約の場合

地主が遅滞なく異議を述べない場合
 建物を取り壊して建て替えたことに対して、地主が遅滞なく異議を述べない場合、借地権の存続期間が延長されます。
 延長後の存続期間は、建物を取り壊した日から起算し、堅固な建物についての契約の場合は30年間、非堅固な建物についての契約の場合は20年間です。(旧借地法7条)

地主が遅滞なく異議を述べた場合
 地主が遅滞なく異議を述べた場合は、このような存続期間の延長はありません。
 借地権は残存期間存続し、残存期間の満了時には、Q3で説明した更新の問題になります。

 普通借地権】平成4年8月1日以後に成立した契約の場合

地主が承諾した場合
 建物を取り壊して建て替えることを、地主が承諾した場合は、借地権の存続期間は延長されます。
 延長後の存続期間は、建物の構造に関係なく、承諾があった日または建物が建て替えられた日のいずれか早い日から20年間です。(借地借家法7条1項)

地主の承諾があったとみなせる場合
 借地人が地主に対して、建物を建て替える旨通知し、地主が2カ月以内に異議を述べない場合は、地主の承諾があったものとみなします(借地借家法7条2項)。
 この場合は、上記と同じように、借地権の存続期間が延長されます。

どちらでもない場合
 どちらでもない場合は、このような存続期間の延長はありません。
 借地権は残存期間存続し、残存期間の満了時には、Q3で説明した更新の問題になります。

 既存借地権普通借地権に共通】  

事前交渉の重要性
 このように地主が異議を述べるかどうか、地主が承諾するかどうかで、その後の存続期間に大きな違いが出てきますので、借地人は事前に地主と交渉する必要があります。

増改築制限特約等に注意
 増改築を制限する特約がある場合、建物の種類・構造・規模・用途を制限する特約があり、その制限を超えることになる場合は、地主の承諾を得る必要があります。この点はQ9の説明をご覧下さい。


Q11 借地権の更新後の存続期間中で、残存期間が少なくなってきたのですが、建物が老朽化したため、取り壊して建て替えようと考えています。建て替え後の建物は、残存期間を超えて存続することが確実ですが、問題ないでしょうか。

 【既存借地権】平成4年7月31日以前に成立した契約の場合

 更新後の存続期間中であるという点がQ10と違う点です。
 しかし、平成4年7月31日以前に成立した契約の場合(既存借地権)は、最初の存続期間中の場合も、更新後の存続期間中の場合も、区別されずに、旧借地法7条が適用されますので、結論はQ10の場合と同じです。
 詳しくは、Q10の説明をご覧下さい。

 普通借地権】平成4年8月1日以後に成立した契約の場合

地主が承諾した場合
 建物を取り壊して建て替えることを、地主が承諾した場合は、借地権の存続期間は延長されます。
 延長後の存続期間は、建物の構造に関係なく、承諾があった日または建物が建て替えられた日のいずれか早い日から20年間です。(借地借家法7条1項)

承諾があったとみなす規定の適用はない
 なお、Q10で説明した地主の承諾があったものとみなす規定は、更新後の存続期間中の建て替えの場合には適用されません。(借地借家法7条2項)

地主の承諾に代わる許可を裁判所に求めるという方法
 借地人が建物を建て替えることがやむをえない事情があるにもかかわらず、地主が承諾しないときは、借地人は、裁判所に地主の承諾に代わる許可を求める申立ができます。
 この手続では、裁判所は許可をするにあたって、借地権の延長期間を定めたり、その他の借地条件を変更したり、地代の増額や一時金の支払いを命じることができます。(借地借家法18条1項)

地主の承諾も裁判所の許可もない場合
 地主の承諾も裁判所の許可もないまま借地人が建て替えを行った場合は、地主は借地契約を解約することができます(借地借家法8条2項)。
 この場合、地主の解約申し入れから3ヵ月後に借地権は消滅します(借地借家法8条3項)。
 地主が解約しない場合は、借地権は残存期間中存続し、残存期間の満了時には、Q3で説明した更新の問題になります。


Q12 借地人に契約違反行為があったとき、地主は借地契約を解除できますか。

 問題となる主な契約違反行為としては、(1)地代の不払い、(2)用法・使用目的違反、(3)増改築制限特約がある場合の無断増改築、(4)借地権の無断譲渡・無断転貸などがあります。
 これらの契約違反行為があっても、違反が軽微な場合は契約解除は認められません。借地人の契約違反行為によって、地主と借地人の間の信頼関係が破壊されたと認められる場合にだけ、地主による契約解除が認められます(民法541条)。
 信頼関係が破壊されたと認められるか否かは、違反の程度・態様その他の事情から、総合的に判断します。
 なお、契約違反(契約上の債務の不履行)を理由に契約を解除するためには、相当の期間を定めて債務を履行するよう催告することが、原則として必要です(民法541条)。


Q13 この度、借地を立ち退くことになりました。借地上にある建物は、必ず撤去しなければいけないのでしょうか。

【借地人の建物買取請求権】
 借地権の存続期間の満了時に契約が更新されず、借地人が土地を明け渡さなければならないという場合は、借地人は地主に対して建物を時価で買い取るよう請求できます(借地借家法13条1項)。
 建物の時価には、借地権価格は含みません。

【売買代金支払いの猶予】

普通借地権の場合
 平成4年8月1日以後に成立した契約の場合で、借地権の存続期間満了前に建物がいったん滅失し(自ら取り壊した場合も含みます)、地主の承諾を得ずに、残存期間を超えて存続する建物を建てていた場合には、借地人の建物買取請求権行使により建物を買い取った地主が裁判所に請求すれば、代金の全部または一部について支払いを猶予される場合があります(借地借家法13条2項)。

既存借地権の場合
 平成4年7月31日以前に成立した契約の場合には、このような支払猶予の制度はありません。

【建物買取請求権がない場合】
 次のような場合は、借地借家法13条1項に該当しませんので、借地人には建物買取請求権がありません。

・借地人に契約違反行為があり地主による契約解除が認められた場合。
・地主の承諾も裁判所の許可もないまま借地人が建て替えを行い、地主が借地借家法8条2項に基づき借地契約を解約し、借地契約が終了した場合(平成4年7月31日以前に成立した契約に限ります)。
・借地人が発生した建物買取請求権を放棄した場合。

【まとめ】
 借地人に建物買取請求権がある場合は、それを行使すれば、借地人が建物を撤去する義務はなくなります。
 借地人に建物買取請求権がない場合は、このような手段がとれませんので、建物を撤去する義務が発生します。
 ただし、借地人が地主との間で、建物を撤去しなくてもよいという合意をすれば、撤去の義務はなくなります。


Q14 定期借地権とは何ですか。普通の借地権とどう違うのですか。

 平成4年8月1日に施行された借地借家法により、契約の更新がない借地権として、定期借地権の制度ができました。
 普通借地権や旧借地法の時代に成立した既存借地権の場合には、存続期間の満了時には契約の更新が問題になり、地主が契約更新を阻むためには正当事由が必要になります(Q3を参照)。
 これに対して、定期借地権の場合は、契約の更新は問題にならず、正当事由の存否を問題にせずに、借地契約が終了します。
 定期借地権には、一般定期借地権、建物譲渡特約付借地権、事業用借地権があります(借地借家法22条~24条)。
 一般定期借地権は、存続期間を50年以上とすることが必要で、期間満了により消滅します。借地の目的には制限がありません。一般定期借地権の設定には、公正証書等の書面による特約が必要です。(借地借家法22条)
 建物譲渡特約付借地権は、30年以上経過した日に借地上の建物を相当な対価で地主に譲渡することを、予め借地契約と一体で約した借地権で、建物譲渡の効果発生により、借地権は消滅します。借地の目的には制限がありません。(借地借家法23条)
 事業用借地権は、存続期間を10年以上20年以下とすることが必要で、期間満了により消滅します。借地の目的は事業専用建物の所有に限定されています。事業用借地権の設定には、公正証書による借地契約が必要です。(借地借家法24条)