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  商品先物取引による損害の回復事例(1)

弁護士 大塚達生


 2006年に相談を受けたAさんの場合は、商品先物取引の経験がなかったAさんが、B社の外務員から勧誘されて取引を始めてしまい、2か月弱の間に4種類の貴金属の先物取引で多額の損失を被り、B社に預託した現金約500万円と金13㎏分の倉荷証券が戻ってこないばかりか、B社から約2700万円の差損金の支払いを請求されているということでした。

 金13㎏分の倉荷証券は、AさんがB社から勧められて購入した13㎏の金地金を元にしていました。当初は、投機性のない金の現物購入を勧め、顧客が購入すると、その金地金を倉荷証券に替えさせて預託させ、それを証拠金として先物取引に引き込むという、B社の営業手法にのせられて、多額の損失を被っているケースでした。

 B社が簡易裁判所を使って、Aさんに対し差損金約2700万円の支払を求める支払督促の手続を行ってきたので、こちらからは督促異議を申し立て、通常の訴訟に移行しました。そして、反対にこちらからB社に対して、損害賠償金約3600万円の支払を求める反訴を提起し、2つの訴訟が地方裁判所で審理されることになりました。

 B社に開示させたAさんの取引データを分析してみると、①過当取引である、②特定売買といわれる不合理な取引の割合が高い、③差引損金合計に占める手数料の割合が高いというだけでなく、利乗せ満玉(りのせまんぎょく)という極めて危険な取引内容であったことが分かりました。

 利乗せ満玉とは、委託証拠金の限度一杯の取引を行い、建玉を仕切った場合に生じた益金を顧客に返還しないでこれを証拠金に振り替え、その増加した証拠金で建玉可能な限度一杯の取引を継続することをいいます。
 相場が予想と反対に動いた場合は、それまでに預託した証拠金と生じた利益金を失うばかりか、多額の差損金が発生しかねません。
 利乗せ満玉をした後、仮に相場の予想が当たったとしても、さらに利乗せ満玉を行えば、また同じ状況になります。むしろ、建玉数が増大した分、相場の予想が外れた場合の危険の大きさは膨張することになります。

 利乗せ満玉を繰り返せば、一度相場の予想が外れただけで、それまで預託した証拠金全額と益金全額を失うことになり、さらにそれ以上の差損金が発生する場合もあります。一般の顧客にとって相場予想は困難であり、繰り返し予想を的中させることなど不可能ですから、利乗せ満玉を繰り返せば、確実にどこかで破綻することになります。
 このように、利乗せ満玉は、顧客にとって極めて危険で不合理な取引手法だといえます。

 しかも、B社の処分歴を調査してみると、2003年と2007年に主務官庁である経産省と農水省から行政処分を受けていることが分かりました。特に、2007年の処分理由は、2003年の行政処分の際に提出を求められて提出した報告書や計画書に、組織的な虚偽記載が行われていたというもので、B社に法令遵守の姿勢がないことが明瞭に現れていました。

 また、外務員に対する証人尋問では、外務員が再勧誘禁止規定(当時の商品取引所法214条5号)に違反していたことや、投資可能額変更のための手続を遵守していなかったことについて、それを認める証言が得られました。

 訴訟では、人証調べが終了した後、当事者双方が裁判所から和解を打診され、Aさんの過失割合を2割とする水準での和解が成立しました。

 これにより、AさんからB社への支払義務はないこととなり、逆にB社からAさんに2100万円の損害賠償が行われました。


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