労働者の「抗う力」と「理不尽校則」/嶋﨑量(事務所だより2023年1月発行第66号掲載)

 私は、弁護士として、社会に出て直ぐに理不尽な使用者の仕打ちによる労働問題に直面する労働者の事件を多数扱ってきました(いわゆる「ブラック企業」問題)。そこで感じるのは、「抗う力」の重要さです。

 長時間労働、ハラスメント、有給休暇が使えないなど、職場での使用者の理不尽な対応に異を唱え、労働者が自分の権利を主張する力(「抗う力」)がなければ、労働問題の解決が難しいのです。
 労働者が、単に自分に権利があることを知っているだけでは、その権利を実現するには不十分で、権利を実現を実現する過程で、この「抗う力」が求められることが多いのです。
 職場の現実の力関係は必ずしも労使対等ではなく、使用者が圧倒的に強い力をもつ中で(とくに職場経験の乏しい若者)、労働者は職場で「会社の命令は絶対だ」と誤解をし、違法な場合も含め理不尽な仕打ちを、問題があると感じていても受け入れているケースが多いです(「ウチの会社は残業代とかないから」「人手が足りないのに、ウチの会社に育休取る余裕は無いから辞めて貰うしかない」など)。
 その解決策の一つとして、子ども達に対するワークルール教育で「抗う力」を培って社会に巣立って欲しいと考え、学校への出前事業などワークルール教育にも取り組んできました。

 そんな中、学校現場において気になっているのが、学校で子ども達が直面する「理不尽校則」の問題です。
 標準服(制服)の強制、下着の色の指定、持ち物の指定、ツーブロック禁止、黒髪強要、髪型規制、放課後の行動規制など、何ら合理的な必要性を感じない規制が多く残っています。
 LGBTQの子ども達などが典型ですが、理不尽校則は、適応できない子ども達を学びの場から排除したり、標準服強制や指定品の規制により経済的な負担を強いているという問題もあります(*1)。
 理不尽でも「校則だから守れ」という指導をうけてきた子ども達が社会にでたら、一転、使用者の理不尽に対して「抗う力」が必要だと言われても、対応するのは難しいでしょう。
 そもそも、理不尽でもルールだから守るべきなどという発想自体、創造性のある教育現場に相応しくないし、人権課題という視点でも大いに問題があります。
 実は2022年12月、12年振りに「生徒指導提要」が改定されています。この「生徒指導提要」は、「生徒指導に関する学校・教職員向けの基本書」とされ、校則についても次のような指摘があります。

「校則を守らせることばかりにこだわることなく、何のために設けたきまりであるのか、教職員がその背景や理由についても理解しつつ、児童生徒が自分事としてその意味を理解して自主的に校則を守るように指導していくことが重要です。」
「学校や地域の状況、社会の変化等を踏まえて、その意義を適切に説明できないような校則については、改めて学校の教育目的に照らして適切な内容か、現状に合う内容に変更する必要がないか、また、本当に必要なものか、絶えず見直しを行うことが求められます。さらに、校則によって、教育的意義に照らしても不要に行動が制限されるなど、マイナスの影響を受けている児童生徒がいないか、いる場合にはどのような点に配慮が必要であるか、検証・見直しを図ることも重要です。」

 子ども達が、校則の問題に自律的に向き合うことができれば、その過程自体、子ども達の「抗う力」を育てるだけでなく、社会の問題を自ら考え判断し行動していく力を養うことに繋がり、貴重な主権者教育の実践となるでしょう。
 そして、子ども達のこういった経験が、職場で労働問題に直面した際に、労働組合などを通じた対応につながるでしょう。
 学校関係者の皆さんには、ぜひこの「生徒指導提要」を踏まえた対応を期待したいです。

*1 無償であるはずの義務教育で保護者が大きな経済的な負担を負っている問題は、福嶋尚子氏(千葉工業大学准教授)等が「隠れ教育費」として指摘されており参考になります。