企業グループにおける争議行為/田中誠(事務所だより2023年1月発行第66号掲載)

 2022年10月の第139回労働法学会で、川口美貴教授(関西大学)・大塚弁護士(当事務所)と3人で「企業グループと集団的労使関係法理」をテーマとするワークショップを担当し、大塚弁護士が司会、川口教授は「企業グループにおける団体交渉」を、私は「企業グループにおける争議行為」について研究報告しました。学会での報告は5年ぶりでした(前回は労働委員会命令の救済裁量について報告)。

* * *

 最近、もとは単一企業で様々な分野の事業を行っていたのを、会社分割制度を用いて事業毎に分社化し、持株会社の下に複数の事業子会社を置いて企業グループ化することが増えています。そして、グループ中枢である持株会社の判断のもと、事業ポートフォリオが日々見直され、事業会社の売却・編入が行われています。
 設例を設けますと、鉄道・バス・その他事業を単一企業で行っていた企業が、親会社(本社→持株会社)、鉄道子会社・バス子会社・その他事業会社に分社化した上、赤字のバス子会社の売却を試みるというようなケースがあります。
 単一企業のときには、バス事業の売却について、労働組合全体がストライキに入り、鉄道を止めても何の問題もありませんでした。
 ところが、分社化後は、組合が単一のままでも、バス子会社の問題について鉄道子会社所属の組合員がストライキに入ることは、違法な支援(同情)ストだなどという議論があるのです。
 この議論の大本には、「争議権の範囲」につき「いかなる目的の争議であれば正当といえるか」という法的論点があり、労働法における近時有力説は「団交の行き詰まりを打開する手段(団交の裏付け措置(*1))に限定される」というものです。そうすると、鉄道子会社には、別会社であるバス子会社の売却について団交義務がないから、鉄道子会社を別会社の争議行為に巻き込むことは許されず、ストの対象とはできないという議論になりかねないのです。

 しかし、従来問題のなかったストライキが、会社分割によって違法となり、基幹事業の鉄道子会社の組合員もストに参加できないというのでは、組合に著しく不利益である上、会社分割法制が、上位規範である憲法上の権利(争議権)を掣肘することになってしまい不当です。
 私の学会報告は、これを、上記「団交裏付け措置論」からどう解決するのか、また「団交裏付け措置論」がそもそも正当なのかということを論じたものです。
 さらに、応用編として、組合が単一ではなくグループ企業ごとに別単組に分かれ、労連がある場合・労連がない場合、別々の会社がM&Aで企業グループを構成した場合等も検討しました。
 学会報告のポイントをごく簡単に紹介します(応用編は省略)。

* * *

 「団交裏付け措置論」からアプローチする場合、バス子会社売却問題などは、事業ポートフォリオの編成の問題であり、それを決めているのは親会社(持株会社)であることから、親会社(持株会社)に団交義務があり、親会社(持株会社)が労組法上の使用者となること(学会における川口報告)から説明することになります。事業子会社各社は、会社法等の上でも実質的にも、親会社(持株会社)の事業ポートフォリオ編成と経営資源配分によって存在しており、「親会社の事業の一部」といえます。よって、直接の使用者であるバス子会社以外の子会社(鉄道子会社等)へのストは、親会社の事業の一部への労務提供を拒否する「親会社(持株会社)に向けたスト」として、その正当性に問題はないと説明することになります。

* * *

 しかし、「団交裏付け措置論」には、それ自体への疑問があります。
 争議権とは、そもそも、「団交の裏付け措置」として逐一スト対象企業の団交義務を根拠として説明しなければならないような、限定的な権利なのでしょうか。
 連合はじめ世界中の労働組合が例年の行事とするメーデーの起源として知られる1886年の米国のストは、一日の労働を8時間に制限することを求めたゼネストであり、個別企業との「団交の裏付け措置」として行われたのではなく、ストの社会的圧力によって、社会における目的実現を直接に求めたものですが、このストを、争議権が憲法上の権利になっている21世紀の現在から「団交の裏付け措置でないから違法だ」などと言うのなら大問題です。 
 まず、争議権は「憲法上の基本的人権」であることが重要な視点です。
 憲法学では、政治ストも、経済的政治スト(労働条件などの労働者の経済的利益に直結する立法・政策に対するスト)なら正当であるという説が有力ですが、この説は「団交裏付け措置論」からは説明不能です。
 憲法学説では、争議権を含む団体行動権は「労働者の団体が労働条件の維持・改善の目的で団体として行うすべての行動(を行う権利)」とされ、「労働者の生活利益の擁護ないし生存権保障のためのものとしての人権であること」も強調されます。
 ここからは、争議権は「雇用や労働条件等、また労働者の経済的社会的地位向上の要求実現に有効な、そのための権利であるべきこと」が重要となりますので、単に「団体交渉の裏付け措置」に押し込めるものではないといえます。
 さらに、憲法論によらずとも、わが国で一般に正当とされてきた各種のストに「団交の裏付け措置」からは説明できないものがあります。例えば、不当労働行為に抗議・対抗することを目的とするストは正当ですが、「団交の裏付け措置」とはいえません。重大労災事故が発生したような場合に謝罪や再発防止措置を要求してストに突入するような事例では、端的に要求実現がストの目的であって、組合にとって団交は目的ですらありませんが、当該ストも正当です。

* * *

 以上から、争議権は、団交の要求貫徹のため(団交の裏付け措置)に行使できることはもちろんですが、団交の裏付け措置とはいえなくても、不当労働行為等に対する組織防衛・抵抗運動、端的に正当な要求を実現するためのもの等であってもよく、どちらにおいても、正当な争議目的(雇用・労働条件の維持改善、不当労働行為・その他労使紛争・労使間の問題解決・その他労働者の経済的社会的地位の向上)の実現のためで、かつ合目的的な相手方に対する争議でさえあれば、原則として正当性を認められるというべきです。
 そして「正当な争議目的」「合目的的な相手方に対する争議かどうか」の判断は、原則として労働組合の裁量とすべきです。例外的に争議目的が当該労組とおよそ関係のない問題だったり、「争議目的と、法的にも社会的にもおよそ関係が無い」企業を巻き込んだり、巻き込み方が過剰である等、不適切・不必要・不相当で権利濫用にあたる場合には正当性を欠くとする捉え方をすべきです。
 この点、ドイツにおいて、争議権が憲法上の権利であることを出発点とし、争議手段や、実力行使の相手方をどうするかということは、目的達成との関係で、原則として労働組合の裁量であるとし、不適切・不必要・不相当な場合には違法となるとし、同一コンツェルンを構成する他企業での労働協約締結に向けたストライキを支援したストライキを違法ではないとした連邦労働裁判所(労働分野における最高裁)判例があります。
 このような争議権の本質的に立ち返った議論からすると、企業グループの争議で、到底第三者であるとはいえないグループ関係会社を「巻き込む」のはむしろ当然のことといえましょう。設例のバス子会社売却のような事業ポートフォリオに関する問題で、親会社及び鉄道子会社に対するストを行うことが正当性を欠くことは通常無いことになります。

* * *

 結論 争議(スト)を「団交の裏付け措置」と限定する見解に立っても、企業グループの場合は、「親会社へ向けられた争議」と捉えることで、関連企業を争議行為の対象とすることは多くの場合正当と考えられる。
 憲法論もふまえ争議権の本質から検討すれば、争議(スト)はそもそも「団交の裏付け措置」に限定されず、グループ関連企業を争議の対象にすることも、組合に裁量権があり、原則として正当性が問題となることはない。

*1「団交の裏付け措置」という表現は、蓼沼謙一「杵島炭礦問題につき炭労の指令した「統一スト」ないし「同情スト」の正当・不当」(判例評論207号(判例時報807号)-蓼沼謙一著作集第Ⅳ巻・信山社出版2006所収)の用語法で、争議権を団体交渉に付随・従属するものであると捉える立場を端的に表現しています(蓼沼説はその立場を批判しています)。