生活困窮者自立支援制度に関わって/西川治(事務所だより2022年8月発行第65号掲載)

 私は、2019年度から座間市の生活困窮者自立支援制度に助言弁護士として関わっており、今年で4年目になります。
 今回は、この助言弁護士の活動についてご紹介します。

 生活困窮者自立支援制度とは、簡単にいえば、生活保護は受けていないものの、経済的に困窮している人たちからの相談に応じ、情報提供や助言、関係機関との連絡調整などを通じて、その方の自立をサポートしていくものです。

 「年越し派遣村」など、雇用を失うことで、収入のみならず住居(住所)も失って再就職もままならない人が少なからず生まれる事態に対し、生活保護の手前で生活困窮者を支援する制度が必要である、ということで2013年に生活困窮者自立支援法(以下、「法」といいます。)が制定され、スタートすることになりました。そのため、(生活保護に続く)「第2のセーフティネット」と呼ばれることもあります。
 事業内容としては、次のものがあります。

①自立相談支援事業

 生活困窮者やその家族などの関係者からの相談に応じ、必要な情報の提供や助言をし、関係機関との連絡調整を行うものです。
 相談に応じて、就労支援を行ったり、利用できる制度などがあれば紹介したり、その担当機関と連絡調整して制度利用をサポートしたりするものです。自治体として無料職業紹介事業(法17条4項、雇用安定法29条1項)を行うこともあります。
 制度利用を効果的に自立につなげるため、利用者ごとの支援プランを作成することもあります。
 生活困窮者自立支援制度自体に、包括的かつ早期の支援を行うという基本理念があり(法2条)、相談支援事業はこの制度のコアとして、小間切れ・縦割りの支援にならないよう調整する役割も担っているといえます。

②住居確保給付金

 離職などで家賃が支払えないなど、住居を失うおそれがある場合に給付金を支給する制度です。
 新型コロナウイルス感染症に伴う緊急事態宣言時には、状況に合わせて要件が緩和されたこともあり、特に多くの利用がありました。

③就労準備支援事業

 働いた経験がない、長期間働いていなかったなど、すぐに就職して働くことが難しい人を対象として、生活リズムを整えることや職場体験、模擬面接など、就労へ向けた訓練を行うものです。

④家計改善支援事業

 一緒に家計表を作るなどして家計状況を把握して必要なアドバイスを行うなどして、家計の改善を目指すものです。

⑤一時生活支援事業

 一定の住居を持たない方に、3か月(最大6か月)、宿泊場所と食事などを提供し、その間に生活を立て直してもらうものです。

⑥子どもの学習・生活支援事業

 生活困窮者である子どもに対する学習の援助のほか、子どもやその保護者に対する生活習慣・育成環境の改善に関する助言、進路選択などに関する相談・助言などを行うものです。

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 ①②は必須事業ですが、③~⑥は任意事業(③④は努力義務あり)です。自治体直営のほか、社会福祉協議会や民間NPOなどに委託しているところもあります。
 座間市では、①②を直営(アウトリーチ支援は委託)、③~⑥を委託(座間市社会福祉協議会、生活クラブ生協等、NPO法人ワンエイド)により実施しているほか、ユニバーサル就労支援(社会福祉法人)、認定就労訓練事業(NPO)、フードバンク・居住支援事業(NPO)、ハローワーク、就労訓練先の開拓・マッチング事業(NPO)などとの連携を図っています。

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 助言弁護士の役割は、主に①の自立相談支援を担う相談支援員に対して、利用者へ情報提供・助言を行うにあたっての助言をするというものです。
 相談者が抱える課題は多種多様ですが、その中には法律上の問題点を含むものが少なくありません。相談者が生活に困るようになった原因が労災(病気も事故も多くは労災請求していない)といったことはしばしばありますし、家族関係、相続関係、債務整理など、それこそ多種多様です。
 法律上の権利義務関係だけで見れば心配には及ばない相談もあり、そういったときは現在の権利義務関係と今後の展望を助言することで、不安が軽減されることもあります。

 助言弁護士の役割は、基本的に相談支援員への助言です。弁護士を依頼することが望ましい場合は、その分野の弁護団が行っているホットラインに電話するよう勧めたり、弁護士会の法律相談や法テラスなどを紹介したりします。
 座間市役所では、定期的に弁護士による無料法律相談も行われていますので、以前はそちらで相談してもらうこともあったそうです。しかし、一般的な法律相談の担当弁護士は、貧困問題や生活困窮者支援の知見を有しているかを考慮せずに配置されますので、さまざまな相談が持ち込まれる生活困窮者自立支援制度の相談者や相談支援員のニーズには必ずしもマッチしていなかったようです。

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 私の興味・関心のせいかもしれませんが、助言を求められる案件では、労働関係がやはり目につきます。労働弁護団のホットラインに寄せられるような会社と労働者との間の紛争に発展している(発展しそうな)ケースももちろんありますし、ケガでも病気でも労災が疑われるケースは少なくありません。また、私傷病と考えざるをえないものの、傷病手当や失業手当について助言することで、当面の生活の見通しが立つということもあります。

 家族・相続関係では、家族の行方不明が意外に多いことに気づかされます。家族の中に困難を抱える方が複数いる世帯も少なくありませんし、親の年金収入や親所有の自宅があることで生活できていたのが、親の死亡を契機に生活困難になる場合などもあります。

 弁護士が代理人として関与するには少額だが、相談者にとってはまさに生活に関わる金額というケースや、権利はあっても裁判所の手続を行っている間、当面の生活を維持できないということはよくあります。できるだけ費用・時間をかけずに相談者の権利を実現できる方法はないかという、普段とは異なった視点も必要となります。

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 生活困窮者自立支援制度について、自治体に助言弁護士を置くという試みは、全国的にも珍しいようです。
 この助言弁護士のモデルとしては、横浜市が行っている健康福祉局生活支援課弁護士相談事業があります。これは、横浜市の生活保護制度の担当者(CWなど)が生活保護に関する法解釈や運用について、神奈川県弁護士会が推薦した3名の弁護士に相談できるというものです(こちらも2019年から担当しています。)。
 座間市は、もともと生活困窮者自立支援制度を精力的に行っている自治体として注目されており、連合神奈川県中央地域連合が2018年7月に開催した県央地区教育懇談会にも、地元の取り組みとして座間市から担当者をお招きしてお話を伺いました。その際に私も子どもの貧困をテーマにお話しさせていただき、そのご縁もあって、神奈川県弁護士会貧困問題対策本部として座間市を訪問、2019年度から助言弁護士がスタートすることになり、私が弁護士会の推薦を受けて助言弁護士として活動することとなりました。
 これからもできる限り充実した相談支援ができるよう頑張りたいと思いますし、いずれは各地でこういった、自治体の担当者が貧困問題や生活困窮者支援の知見を有した弁護士に助言を求めることのできる体制が普及するようにも努めたいと考えています。