この1月と7月から相続法が一部変わっています。みなさんはご存知でしょうか。意外と身近な問題にも関わるので、ぜひチェックしてみて下さい。
なお、以下の内容は、今年の3月に行った事務所セミナーの内容とも重複します。追って事務所のホームページに掲載される内容もご参照下さい。
①自筆証書遺言の方式の緩和(2019年1月13日施行)
これまで、自筆証書遺言は、全文、日付、氏名を自筆し、押印しなければならず、不動産の表示など、全て列挙するのが大変でした。
しかし、今回の法改正によって、財産目録については自筆でなくてよい=ワープロ書も可能となりました。ただし、その場合、目録の1枚1枚に署名押印が必要です(民法968条2項)。
②相続人以外の親族の特別寄与分請求権(2019年7月1日施行)
これまでは、相続人ではない者が介護を行うなどの貢献をしても、寄与分は相続人に限られていました。
しかし、法改正により、相続人以外の親族が、無償で療養看護等を行った場合の特別の寄与について、金銭請求権が認められました(民法1050条)。ただし、親族でなければいけないので、その点に注意が必要です。
③遺留分侵害額請求権(2019年7月1日施行)
従来、遺贈などについて、原則として贈与の効果自体を争え、権利関係を不安定にする原因にもなっていた遺留分減殺請求が、金銭請求となりました(民法1046条)。侵害部分の計算は、従来と変わりません。
④「相続させる」遺言の効果(2019年7月1日施行)
従前、「相続させる」旨の遺言を書けば、これによって相続人が取得した不動産については、登記しなくても、相続割合を超える分についても、第三者に対して権利を主張することができました。
しかし、これを改正し、他の方式(「○○の相続分として、~~の土地を指定する」)などと同様に、登記しなければ第三者に権利を主張することができなくなりました(民法899条の2第1項)。
⑤預金引き出しの一部解禁(2019年7月1日施行)
従来、相続財産となった預金を引き出して利用することは困難で、葬儀費用等に必要でも速やかに引き出して利用することができませんでした。
しかし、今回の法改正で、家庭裁判所の判断により、必要のある場合に、仮に預金の取得を認めることになりました(家事事件手続法200条3項)。
また、一定額(法務省令により150万円)を限度に、債権額×3分の1×相続分の行使を認める法改正もなされました(民法909条の2)。
⑥居住用不動産の持ち戻し免除(2019年7月1日施行)
従来は、長年連れ添ってきた配偶者に対して、住んでいた不動産を遺贈しても、特別な意思表示をしないと、その分は相続分を先に渡したこととなり、不動産以外の取り分が減ってしまうことになっていました。
今回の改正では、婚姻期間が20年以上である配偶者に対し、居住用の建物又はその敷地を遺贈又は贈与した場合、計算上、遺産の先渡し(特別受益)を受けたものとして取り扱わなくてよいこととなり、自宅以外の財産を相続分に応じて取得できることとなりました。
⑦配偶者の居住権(2020年4月1日施行)
配偶者の居住権を保護するために「配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」が法定されました。
*配偶者居住権(民法1028条~1036条)
無償で、終身(協議・審判で別段の定めをした時は除く)使用収益できる(1028条、1029条)権利が明らかにされました。
無償とはいえ、必要費(通常の使用にともなう修理費など)は負担しなければなりません(1034条1項)。この権利は、遺贈、審判、分割協議によって取得することができます。
別の相続人が不動産を取得する場合、不動産の所有者はその相続人になりますが、配偶者は無償で住み続けられることになります。
*配偶者短期居住権(民法1037条~1041条)
従前、無償で住んでいた配偶者について、一定期間無償で使用できるように保護する制度です。
判例(最判平成8年12月17日)により、被相続人と同居する配偶者には認められていましたが、今回、同居していない配偶者についても認められました。
これらの制度について、法務省のウェブサイト(*1)にも解説がありますので、参照してみて下さい。
なお、この他に、法務局で遺言を保管する制度が2020年7月10日より開始されます。
相続も変わりつつあり、実は嫡出子と非嫡出子(法律婚の夫婦以外の男女間に生まれた子)の相続分格差も今回の改正より前になくなっています。
せっかく残した財産について、争いを生まないためにもご確認いただき、必要があれば弁護士に相談して下さい。