「ブラック企業」という言葉。ちょっとした流行語になっています。この「ブラック企業」を世に広めたのは、労働相談、労働法教育、調査活動などを若者自身の手で行うNPO法人、POSSEの代表・今野晴貴さんでしょう(*1)。
先日、この今野晴貴さんの講演を聴かせていただく機会がありました。
弁護士になったばかりの頃、POSSEに依頼されて、何度か私が市民向け(主に若者向け)のセミナーで、労働法の講義をさせていただいたことがありました。私が今野さんのお話を講演で改めて聴かせていただくのは初めてでしたが、色々と考えさせられました。
日頃、労働組合や労働行政に携わる方など、いろいろな分野で労働問題に取り組んでいる方と、お話をさせていただく機会があります。その際、私が以前から感じていた危機感は、労働問題に熱心に関わる方々の平均年齢が高いことでした。
そして、多くの方々(とりわけ、労働組合の方)が、若い世代に労働組合の活動に参加してもらおうとした際のご苦労を口にされます。私自身も、日頃、若い世代と一緒に労働問題に取り組もうとした際の、ハードルの高さを痛感していました。
POSSE主催の労働問題のセミナーに顔をだすと何よりも驚かされるのは、参加者の年齢が若いことです。20代前半の若者が、(古くさい)「労働問題」のセミナーに多数参加している様子、多くは学生である若いPOSSEスタッフの方が真剣に労働問題に取り組んでいる様子は、とても新鮮でした。
言うまでもなく、増え続ける非正規雇用の問題、職場環境が原因となった精神疾患が増え続けていることなど、若者にとって、労働問題は身近な問題のはずです。にもかかわらず、私には、労働組合はもちろん、既存の労働問題に取り組む団体は、その受け皿にはなれずに、もがき苦しんでいるように思えます。もちろん、私が一緒に活動する様々な団体もそうですし、何より私自身もそうです。
若者から受け入れられないのは、既存の労働組合だけに原因があるとは思いません。ですが、若者が魅力に感じる、何かが足りないのも事実なのでしょう。
そんなとき、POSSEに集う多くの若者の姿をみると、そこに何か大きなヒントが隠されているのでは無いかと思うのです。
私は、「ブラック企業」という言葉を、若者に労働問題について考えてもらうために生み出された、タームだと理解しています。
本当は、労働問題は、若者にとって、もっともっと身近で、真剣に考えなければならないものです。今この瞬間も、若者から、劣悪な労働環境によって自分の生活、家族、果ては自分の人生・生命をも台無しにされた多くの被害者が出ています。
なぜか若者が敬遠する労働問題を、もっと身近なもの、敷居の低いものに変えていき、最終的には劣悪な労働環境から生み出される被害者をなくすためにも、「ブラック企業」という言葉が、一過性の流行にならないようにしていきたいです。
最近、個々の被害者の問題としてだけではなく、大きな社会問題としてこのブラック企業の問題に取り組もうと、「ブラック企業被害対策弁護団」が発足し、私も参加しています(*2)。
この「ブラック企業被害対策弁護団」という名称は、いかにも流行りものに飛びつくような、「かる~い」名称で、違和感を感じる方もいらっしゃるかもしれません(実は、何を隠そう私自身、少し抵抗があります)。ですが、こんな、「かる~い」感じの名称だからこそ、良いのでしょう。ブラック企業の被害者である若者が、抵抗なく、身近に感じてもらえるでしょうから。
*1 今野晴貴さんの近著に、『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(文春新書)があります。ブラック企業の問題、若者の労働問題を考える際には、参考になるとても良い本です。
*2 ブラック企業被害対策弁護団では、狭義のブラック企業を「新興産業において、若者を大量に採用し、過重労働・違法労働によって使い潰し、次々と離職に追い込む成長大企業」と定義しています。また、「ブラック企業」を広義では、「違法な労働を強い、労働者の心身を危険にさらす企業」であると定義しています。
http://black-taisaku-bengodan.jp/