労働」カテゴリーアーカイブ

「ブラック」企業について考えてみました/嶋﨑量(事務所だより2013年8月発行第47号掲載)

news201308_small 「ブラック企業」という言葉。ちょっとした流行語になっています。この「ブラック企業」を世に広めたのは、労働相談、労働法教育、調査活動などを若者自身の手で行うNPO法人、POSSEの代表・今野晴貴さんでしょう(*1)
 先日、この今野晴貴さんの講演を聴かせていただく機会がありました。
 弁護士になったばかりの頃、POSSEに依頼されて、何度か私が市民向け(主に若者向け)のセミナーで、労働法の講義をさせていただいたことがありました。私が今野さんのお話を講演で改めて聴かせていただくのは初めてでしたが、色々と考えさせられました。 続きを読む

ワークルール教育について /石渡豊正(事務所だより2013年8月発行第47号掲載)

news201308_small    契約社員やパートであっても有休があることを知っていたのは、正社員で66.2%、非正社員で51.9%。また、非正社員でも時間外割増賃金を請求できることについては、正社員の約3割、非正社員の約4割が知らない。さらに、二人以上で労働組合を作れることを知っていたのは、正社員で27.2%、非正社員14.8%であった。

 これは、公益財団法人連合総合生活開発研究所による第24回「勤労者の仕事と暮らしについてのアンケート」(平成24年12月発表)の結果です。
 このアンケート結果から分かるのは、多くの人々が、ワークルールに関する十分な知識のないまま働いているという実態です。
 現在の日本において、ワークルール教育を受ける機会が不足していることが懸念されます。

 労働者にとって、ワークルール教育は、法律によって認められた自己の権利を知り、それを守るために必須の前提と言えます。従って、労働者にとってワークルール教育が重要であることは論を俟ちません。 続きを読む

公務員と労働契約 -「非正規公務員」の現状-/嶋﨑量(事務所だより2013年1月発行第46号掲載)

news201301_small 民間企業などで働く労働者は、使用者との間に「労働契約」を締結して、その法律関係は労働契約法により規律され、労働者保護が図られています(例えば、解雇に関する労働契約法16条、就業規則不利益変更に関する労働契約法10条など)。
 しかし、公務員については、実務では、「労働契約」が存在せず、民間企業で働く労働者に適用される労働契約法は公務員には適用されないという法解釈が支配的です。*1
 このように、公務員について「労働契約」の成立を否定する考えの論拠は、公法と私法とを峻別し、公務員と国・地方自治体との関係は「公法」であるから、私法とは異なり労働契約は存在しないし労働契約法も適用されないというのです。
 この考え方によれば、民間の労働者とは異なり、公務員は労使合意によって「労働契約」が成立することはあり得ず、国や地方公共団体が一方的に「任用」するに過ぎないとされています。
 ですが、私は、この公法・私法峻別論により公務員関係には労働契約の成立が否定され、労働契約法の規定は全て排除されるという理論が、どうにも腑に落ちないのです。*2 続きを読む

近況報告/鵜飼良昭(事務所だより2013年1月発行第46号掲載)

news201301_small    昨年11月に日本労働弁護団の会長に就任しました。労働弁護団には、1972年4月に弁護士になったと同時に加入し、爾来40年間、労働弁護団と共に歩んできました。
 この間、1990年代後半には、司法制度改革の中で労働裁判が取り上げられたこともあって、活動のスタンスを日弁連に移しましたが、いつも私の本籍は労働弁護団だと思ってきました。
 その司法制度改革の成果として、2004年に労働審判制度が創設されました。私は難産の末に誕生したこの制度をより確かなものに成長させるためには、労働審判の実際を世に知らせることが必要だと考え、昨年9月に『事例で知る労働審判制度の実際』(労働新聞社)という本を出しました。
 今回、会長にという話があったときは、歴代会長を思い浮かべとてもその器ではないと思いましたが、次の世代への橋渡しということもあり、2年間という期限付きでお受けすることにしました。私としては、「まっとうに働く人が報われる社会を」、という初心を忘れないで、できる限り頑張ってみたいと思っています。
 以下の文章は労働委員会関係の機関誌の新年号に「年頭所感」として書いたものです。私の心境を読み取っていただければ有り難いです。 続きを読む

改正労働契約法(有期労働)を正しく理解し活用しよう/嶋﨑量(事務所だより2012年8月発行第45号掲載)

news201208_small改正の意義

  非正規雇用労働者の不安定雇用や処遇の劣悪さが問題となっていますが,実はこのような非正規雇用労働者の多くは「有期労働契約」(労働契約に期間の定めがある契約:我が国で約1200万人)です。そして,非正規雇用労働者にとって,「有期」契約であることが,その労働条件改善にとって大きなハードルとなっていました。
 というのは,「有期」契約であるが故に,次の契約更新で使用者から不利益に取扱われることを恐れて,本来認められている権利(例えば有給休暇や残業代請求)を行使できない,セクハラ・パワハラにも泣き寝入りするしかないといった状態におかれるからです。また,「有期」契約であるというだけで,賃金や福利厚生などに不合理な差別が多くの職場でみられました。
 このような状況が放置されてきた最大の原因は,我が国の労働法で,これまで「有期労働契約」に着目した法規制が存在しなかったことです。
 そんな中,2012年8月3日,この有期労働契約に関して労働契約法が一部改正されました(以下の「改正法のポイント」参照)。この改正は,我が国で増え続ける非正規雇用労働者の雇用の安定と処遇の改善を,(不十分ではあるものの)一定限度図る内容となっています。 続きを読む