裁判」カテゴリーアーカイブ

賠償責任保険の死角/大塚達生(事務所だより2006年1月発行第32号掲載)

news0601_small 1991年に提訴し、他の事務所の弁護士と共同で患者側の代理人を務めてきた医療過誤訴訟が、2005年にようやく最終的に解決した。2つの病院を被告として提訴し、第1の病院に対する損害賠償請求は認められなかったものの、第2の病院に対する損害賠償請求を認容した判決が確定した。

  訴訟は、地裁、高裁、最高裁と進んで、最高裁から高裁に差し戻され、高裁での判決後に、上告提起・上告受理申立がなされて、最高裁が上告棄却・上告受理申立不受理の決定をし、ようやく判決確定に至った。解決までに極めて長期間を要し、医療過誤訴訟が抱える問題点をいくつも感じた事件であったが、訴訟の終盤において病院が倒産して民事再生手続が開始され、医師賠償責任保険の問題点にも直面した。

 2度目の高裁判決で第2病院に対する損害賠償請求が認容されたのであるが、この病院が民事再生手続開始決定を受けたため、病院と医師賠償責任保険契約を締結している保険会社が判決認容額どおりには保険金を支払わないとの態度を表明したのである。

 再生手続開始決定のことを聞かされたとき、私たちとしては、病院が倒産して支払能力がなくなったとしても、医師賠償責任保険があるのだから判決どおりの賠償額の全額が保険によって支払われるべきであると、素朴に考えた。

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裁判官と「立法者意思」/田中誠(事務所だより2004年8月発行第29号掲載)

news0408_small 弁護団の一員として参加した「青山会不採用事件」が、今年(2004年)2月10日、最高裁でも勝利し終了した。
 青山会不採用事件とは、経営ができなくなった県内のある病院を「青山会」という法人が買い取るにあたり、従業員については、旧経営者がいったん全員解雇し青山会において新規採用するという形をとり、その際、労働組合の組合員を不採用としたという事件であるところ、不採用の理由は、労働組合の組合員であるという、ただそれだけの、明白な採用差別事件だった。
 神奈川県地労委、中労委で組合は連勝し、青山会に対して「組合員を採用せよ」という採用命令が出されたが、青山会は平成11年に東京地裁労働部に取消訴訟を提起した。この段階から私は弁護団に参加した。
 このニュースの読者の大半の方は、「労働組合の組合員であるという、ただそれだけを理由に、能力や人格に何の問題もないのに不採用とするなんておかしいに決まっている」と感じてくださるだろうし、それが健全な市民感覚だと思うが、裁判所というのは恐ろしいところで、そうとは考えてくれないのである。
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