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  相続割合の最低保障としての遺留分

弁護士 大塚達生


1 遺留分とは

 兄弟姉妹以外の法定相続人に法定相続分の一部を保障する制度が、遺留分の制度です。
 保障される部分を遺留分といい、その割合は次のとおりです。

 (ⅰ) 直系尊属のみが相続人である時
    被相続人財産の3分の1
 (ⅱ) その他の場合(兄弟姉妹を除く)
    被相続人財産の2分の1

 共同相続の場合は、この遺留分割合を法定相続分の割合で分けて、各相続人ごとに遺留分の割合を算定します。

2 遺留分の額

 遺留分額算定の基礎となる被相続人の財産は、相続開始時に被相続人が有していた財産の価格に、贈与した財産の価格を加え、その中から債務全額を差し引いたものです。

 ここでいう贈与した財産とは、次のものでした。
 ・相続開始前の1年間に贈与されたもの。
 ・相続開始の1年以上前の贈与であっても、贈与契約当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って行った贈与。

 そのうえで、相続人の特別受益となる贈与については、これまで、1年以上前のものか否かにかかわらず、全部を遺留分算定の基礎に加えることとされてきました(昭和51年3月18日最高裁判決による)。

 しかし、これらは、平成30年民法(相続分野)改正により、次のとおりとなりました(2019年7月1日施行)。

【相続人以外の者に対する贈与で遺留分額算定の基礎に加えるもの】
・相続開始前の1年間に贈与されたもの。
・相続開始の1年以上前の贈与であっても、贈与契約当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って行った贈与。

【相続人に対する贈与で遺留分額算定の基礎に加えるもの】
・相続開始前10年間に贈与したもの(ただし特別受益となるものに限定する)。
・相続開始の10年以上前の贈与であっても、贈与契約当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って行った贈与(ただし特別受益となるものに限定する)。

 以上のようにして算出した基礎額に遺留分割合を乗じたものが(特別受益を受けていた場合は、そこから特別受益額を差し引いたものが)、遺留分の額となります。

3 遺留分の侵害

 遺留分の認められている相続人が被相続人から得た財産(相続債務分担額は差し引く。特別受益を受けた場合はそれを加える。)が、遺留分の額に満たない場合、その相続人の遺留分が侵害されていることになります。
 この場合、他の者に対する遺贈・相続分の指定・贈与などが、この相続人の遺留分を侵害していることになります。

4 遺留分減殺請求権(2019年7月1日からは遺留分侵害額請求権)

 ある相続人の遺留分が侵害されている場合、その相続人は、遺留分の額に達するまで、他者に対する遺贈・相続分の指定・贈与を減殺することを請求できます(減殺の順序・割合は民法に定められています)。
 これを遺留分減殺請求権と呼んでいます。
 遺留分減殺請求権の行使は、相手方への意思表示によって行います。後日の証拠の問題もありますから、内容証明郵便によるのが最善です(注1)
 遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が相続の開始と減殺すべき贈与・遺贈等があったことを知った時から1年間で、時効により消滅します。相続開始後10年経過したときも同様です。

 平成30年民法(相続分野)改正(注2)により、「遺留分減殺請求権」は「遺留分侵害額請求権」に改められ、遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求ができる、という仕組みになりました(2019年7月1日施行)。
 時効の期間は、遺留分減殺請求権と同じです。
 遺贈や贈与を受けた者が金銭を直ちに準備することができない場合、裁判所に対し、支払期限の猶予を求めることができます。

5 具体例

 例えば、相続人が配偶者と子2人である場合、遺留分権利者全体の遺留分割合は1/2ですが、そのうちの配偶者の遺留分はそれに法定相続分割合1/2を乗じた1/4となり、子各人の遺留分は1/4を乗じた1/8となります。
 従って、全遺産を子2人に遺贈する旨の遺言がなされたときは、配偶者は1/4の遺留分を侵害されたことになり、それを回復するために子に対して遺贈の減殺を請求することができます。
 逆に、全遺産を配偶者に遺贈する旨の遺言がなされたときは、子各人は1/8の遺留分を侵害されたことになり、それを回復するために、各人が配偶者に対して遺贈の減殺を請求することができます。
 2019年7月1日以降に開始した相続における場合は、遺留分減殺請求ではなく、遺留分侵害額請求をすることができます。

6 遺留分の放棄

 遺留分は相続開始前であれば家庭裁判所の許可により放棄できます。
 しかし、そのことによって他の共同相続人の遺留分が増えることはありません。


注1 遺留分減殺請求の行使
 内容証明郵便で遺留分減殺請求権の行使を通知するだけで問題が解決するケースは少なく、多くの場合は、その後に、具体的な財産を現実に取り戻す手続が必要になります。
 例えば、物の返還請求をしたり、登記手続の請求をしたり、価額弁償の交渉をしたりなどです。
 従って、最初の内容証明郵便による通知の段階から、弁護士に依頼することをお勧めします。

注2 民法(相続分野)改正による制度変更(平成30年改正)
 平成30年の民法(相続分野)改正については、こちらの記事をご覧ください。
 遺留分制度には大きな変更が加えられています。
 相続法が変わりました(事務所だより2019年8月発行第59号掲載)