金子みすゞ生誕120年/野村和造(事務所だより2024年1月発行第68号掲載)

 2023年は金子みすゞ生誕120年の年だった。
 金子みすゞは山口県生まれ。同郷ということになるが、金子みすゞの名前を初めて知ったのは、ずいぶん遅く、たぶん1993年4月の天声人語によってだったと思う。
 引用されていた「大漁」という詩は衝撃的だった。浜で鰯の大漁を祭のように喜んでいる一方で海の中では何万の弔いがあるという発想、そして「童謡詩人」がそのようなことを詩にしていたことに驚かされた。
 しかし金子みすゞの童謡集(ハルキ文庫)を買ったのは1998年夏。電車の中で読んでいてどうにも鼻水がとまらなかった。

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 2011年3月11日の東日本大震災の影響により、CMの自粛で空いたCM枠にACジャパンのCMが入れられることになった。そして「こだまでしょうか」(金子みすゞの詩「こだまでせうか」)が、繰り返し繰り返し放送されることになる。
 当時、放送回数が多すぎると思い、終わりに「やさしく話しかければやさしく相手も答えてくれる」、「AC JAPAN」というのが出るのも抵抗があった。
 いまだに道徳的なことと結びつけられたり様々な解説が付け加えられたりすると、そんな簡単なものではないと言いたくなるが、それを機会に多くの人が金子みすゞのことを知るようになったことは一ファンとしては喜ぶべきなのかもしれない(今回YouTubeで視てみると、UA(ウーア)さんによる朗読も画像もなかなかいい)。

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 彼女の生まれた仙崎。すぐ近くには青海島という美しい場所がある。
 仙崎の人は信心深く、古くからある普門寺には「魚鱗成仏」を願った碑があり漁業にたずさわる人たちが参詣に訪れ、また鯨を捕らなくなった後も鯨法会が続けられているという(*1)。
 豊かな自然と人のいる仙崎に愛情を受けて育った彼女、家制度や男尊女卑のもとで苦しんだ彼女は、素晴らしいものを残してくれたと思う(*2)。
 日本語ができて本当によかった。そしてすっかり埋もれていた金子みすゞを長期にわたり掘り起こしてくれた矢崎節夫氏に感謝するほかない。

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 中学・高校で同級だった友人は、郷里(山口県)で尊敬できるのは彼女だけだと言っていた。その時は、ほかにも尊敬できる人が頭に浮かんでそれは違うのではないかと思ったが、「尊敬」という見方もあることに気づいた。
 2023年、山口の大学に留学したことのある呉菲さんがみすゞの詩集を中国語に翻訳したことから中国の大手通販サイトで外国語児童詩集中トップの15万部を売り上げていること(*3)、シンガーソングライターの「ちひろ」さん(小学校の後輩にあたるようだ)が「金子みすヾの詩を中心に、マザーテレサの言葉などに自ら作曲し歌い語る」活動をし、また講談師・神田京子さんが、金子みすゞの人生を作品にしていることを知った。
 それぞれの人が、その人なりに金子みすゞを大切にしていることが、とても嬉しい。

*1 別冊太陽スペシャル「新版 金子みすゞ 生誕一二〇年記念」38頁、44頁(2023年6月平凡社発行。2003年3月に刊行された「金子みすゞ 生誕100年」(別冊太陽)の新版として刊行)
*2 「童話」誌の西條八十による選評では「どこかふつくりした温かい情味が謡全體を包んでゐる。この感じは英國のクリステイナロゼツテイ女史のそれと同じだ。」とある。このクリスティーナ・ジョージナ・ロセッティ(Christina Georgina Rossetti, 1830年12月5日-1894年12月29日)は、イギリスの詩人で、信仰的な詩や児童詩などを書いている。 その詩は、宮崎駿監督の「風立ちぬ」の中で主人公二郎によって朗読された(西條八十訳による「風」“Who Has Seen the Wind?”(誰が風をみたでしょう))。
  彼女はラファエル前派の画家ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの妹で、ラファエル前派の画家たちのモデルにも。彼女は、アメリカの奴隷制、動物虐待、未成年者売春における少女の搾取に反対した。
  ロセッティは女性の参政権婦人参政権に反対する女性たちの請願書に署名したが、その作品「ゴブリン・マーケット」は家父長制社会のもとで,女性が抑圧されていたことに対する怒りがあると言う(吉田尚子「クリスティーナ・ロセッティの「ゴブリン・マーケット」について一資本主義とフェミニズムの観点から一」2004)。ロセッティもみすゞも詩人として男尊女卑のもとで苦悩のもとにおかれていた(なお、高橋美帆 「クリスティーナ・ロセッティと大正期の童謡運動」2005、同「女性詩人の葛藤—クリスティーナ・ロセツティと金子みすヾ」2005、安藤幸江「西条八十、金子みすゞ、クリスティーナ・ロセッティをつなぐ童謡の心」2017。引用のものはいずれもネット上で閲覧可能)。
*3 2023年4月5日放送 5:18-5:24、NHK総合、NHKニュース おはよう日本