第5次厚木基地騒音訴訟・第1審の結審/石渡豊正(事務所だより2024年1月発行第68号掲載)

 2017年8月4日(1陣)、12月1日(2陣)及び2018年5月1日(3陣)に提訴した第5次厚木基地騒音訴訟の第1審が、約6年間の審理期間を経て、2023年11月1日に結審しました。本訴訟の提訴時の原告数は8879名となり、訴訟活動にも多大な労力を必要としましたが、弁護団及び原告が協力し、何とか結審まで漕ぎ着けることができました。当事務所からも、福田(弁護団長)、野村、山岡、石渡が弁護団の一員として活動してきました。

 第5次訴訟では、米空母艦載機の固定翼機部隊の岩国基地移駐(2018年)をどう評価するか、自衛隊機運航処分の裁量権の逸脱・濫用(差止請求における違法性)の判断の仕方というものが大きな争点となっております。

*米空母艦載機の固定翼機部隊の岩国基地移駐

 本訴訟が係属中の2018年、厚木基地の米空母艦載機の固定翼機部隊が岩国基地へ移駐し、米軍ジェット機の飛行回数が減少しました。
 国は、新たに騒音測定を行い、従来の騒音コンター図よりも大幅に範囲を狭めた新コンター図を提出し、賠償請求が認容されるのは原告らの一部に限られるとの主張をしました。
 それに対し、原告側は、そもそも国が採用している航空機騒音の評価方法に合理性がないという反論を、横島潤紀氏(神奈川県環境センター)らの研究成果及びそれを再分析した田村明弘横浜国立大学名誉教授の意見書及び証言に基づいて展開しました。
 田村教授の意見は、住民の騒音への反応の仕方について、軍用機航空機騒音は他の交通騒音と比較して極めて高く、国の航空機騒音の評価方法では、民間航空機騒音との違いを補正できていないというものです。
 上記田村教授の意見に基づいて評価すれば、米空母艦載機の岩国移駐後も、従前とほぼ同様の地域において、住民らの損害賠償請求が認容されることになります。
 全国各地で厚木基地と同様の騒音訴訟が提起されていますが、このような主張は厚木が初めてで、各地の弁護団からも注目されています。

*自衛隊機運航処分における裁量権の逸脱・濫用の判断手法(差止請求)

 5次訴訟では、防衛大臣による自衛隊機運航処分の判断過程について、基地周辺住民の被害の重大さを含む考慮要素をもとに、その合理性を緻密に検討すべきであると主張しています。行政庁の判断過程の合理性を検討する判断手法は、判断過程審査と呼ばれ、これまで多数の最高裁判決でも採用され、原則化されたとも評価されています。
 厚木4次最高裁判決は、防衛大臣による自衛隊機運航処分には広範な裁量があることを強調し、他の事件では当たり前に採用されてきた上記の判断過程審査に基づく判断を行いませんでした。厚木4次最高裁判決は、自衛隊機の運航の高度の公共性・公益性、原告らの軽視できない被害、国による相応の対策措置という3つの考慮事項を挙げた上で、それらを総合考慮すれば、社会通念に照らして著しく妥当性を欠くとは言えないと示しただけです。それら3つの考慮事項をいかに評価して結論に至ったのか全く不明で、まさに「ブラックボックス」であると研究者らから酷評されています。
 厚木4次最高裁判決の小池裕補足意見は、「国の平和と安全は、国民が享受すべき自由、人権等を確立するために不可欠な基盤であり、国民にとってかけがえのない利益である。」と述べました。「自由、人権」を持ち出すのであれば、60年以上もの長期間にわたる「自由、人権等」への被害を重視し、その救済を優先するべきではないでしょうか。

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 判決言渡期日の指定はまだありませんが、2024年中の言渡しになるはずです。
 騒音被害に終止符を打つような、原告らが納得できる判決を期待したいと思います。