詰将棋/田中誠(事務所だより2022年1月発行第63号掲載)

 ここ数年、通勤途上で詰将棋を解くことが日課となっている。 
 将棋は結構好きで、10年以上前くらいまでは、他の事務所の弁護士のグループに混ぜていただいて、プロ棋士の指導を受けるなどしていたのだが、そのころも詰将棋は苦手だった(というよりまともに取り組んだことがなかった)。指導の会も、しばらく行けなくなると行きづらくなり、すっかり足が遠のいてしまい、将棋そのものと縁が切れた感じになっていた。

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 ところが、2016年ころ、今をときめく藤井聡太竜王が四段デビューしたころだが、事務所の同僚弁護士(初心者)が「観る将」(みるしょう-ネット中継等で将棋を観るのが主体のファン)になり、この同僚が「将棋を覚えたのに指す相手がいない」というので「8枚落ち」(当方が飛角銀桂香を落とすこと。銀桂香は2枚ずつあるから合計8枚落とすハンディ戦)で時々指すことになった。
 この「観る将」同僚から、日本将棋連盟のホームページの「まいにち詰将棋」(無料)の存在を教えてもらい、通勤途上に解くようになった。
 詰将棋とは王手の連続で玉を詰ませるパズルである。詰みとはチェスでいうチェックメイトのことで、次にどうやっても玉が取られる状態という。「何手詰」というのは、例えば、3手詰は、攻める側が1手指し、玉方が応手し(2手目)、攻める側が指し(3手目)て詰むもの(数えて3手目の局面で詰んでいる)をいう。7手詰だと7手先の局面で詰みとなる。
 「まいにち詰将棋」は、基本パターンとして、毎日1問ずつ3手・5手・7手詰が順番に出題される。易しい問題が多いのだが、先にも書いたように苦手なので、最初は5手・7手詰にも手こずっていた。
 週のうち、土・日・祝と平日約1回はこのパターンから外れ、プロ棋士の創作作品(7手から11手詰)が出題される。これは骨のある問題がほとんどで、始めたころは1問解くのに1日がかりとなることが多かった。

 中でも最初にぶち当たった難関として強く記憶に残るのが、2017年12月24日出題の「上田初美作11手詰」で、これが全然解けず、プリントアウトして1週間持ち歩き、紙がぼろぼろになったころに、「ひょっとして」と思いついた手順で、ようやく詰んだ。自分が知らなかったこの手順はある手筋で、その名(ヒントになるので伏せる)と共に印象に残っている。
 この問題を掲載したいが、創作詰将棋の図式には著作権があるので、勝手に載せることはできないから、ぜひ日本将棋連盟ホームページの「まいにち詰将棋」コーナーで上記作品を探していただきたい(*1)。
 作者の上田初美女流四段は、タイトル経験もある強豪女流プロ棋士だから名前は当然知っていたが、詰将棋作家としても有名であり、この上田女流の作品が、詰将棋というのは面白いものだと教えてくれたといえる。
 自分にはもともと将棋の才能など無いのは分っているので(趣味だから才能は無くてもよい)、才能無くても脳みそに汗をかく感じで考え続けること自体楽しく、その後も毎日の通勤で日課は続いている。

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 「継続は力なり」とはよく言ったもので、最近では「まいにち詰将棋」ではプロ棋士創作作品もあまり苦労しないで解けることが増えたことから、これに追加して、大昔(1994年)に、今は無き「週刊将棋」の「実戦向き」との広告で見て買ったはいいものの、一問も解けないままに放置していた作品集(桑原達男著「勝つための詰将棋81」)を本棚から取り出してきて解いている。作者の桑原さんは、既に亡くなっているが、棋界では有名なアマチュア詰将棋作家である。
 15手詰めが中心の作品集だが、これがとても難しく、1問解くのに短くて丸一日、長いと1週間かかる。手数が長いだけでも苦労だが、手数が長くても「手筋一発」(例えば歩越しに桂を打つ王手で意図的に歩で桂を取らせ、空間を作ってそこに駒打って詰ませるというような)で、後は必然手の連続で流れるように詰むという作品なら大してしんどくないが、桑原作品は有力な詰め筋らしきものがいくつもあって変化を全部読むのが大変な問題とか、逆に詰み筋や初手が全く見えないような問題とか、難問が多くて厳しい。
 この作品集には「10分で四段、20分で三段、30分で二段」などと棋力判定が書いてあるが、これは全く気にしないことにしている。棋力判定としてはいささか乱暴だろうし、1週間かかった自分は初段未満かといえば、そうではないであろう。「考え続けられる」のも棋力のうちではあり、アマでも初段以上は無ければ、「答は絶対見ないで、1週間考え続けて結果的に正解にはたどり着く」ということもできないだろう。
 掲載81問のうち、ようやく42問解き、今この原稿書きながら43問目も詰んだが(これは1日で詰んだ)、これから17手詰も出てくるので、2022年中に終わるかどうか。桑原さんは、前書きに「「桑原流」の「苦しみながらの楽しさ」を十分に味わってください。」と書いておられる。桑原さん。そのとおり苦しみながら楽しんでいますよ。ありがとうございます。

 ところで、将棋や詰将棋の能力は、数学の能力と関係するとよく言われる(詰将棋の名手でもある藤井聡太竜王なども、いかにも理系にみえる)。
 高校生のころ、数学が大の苦手(というより問題外)で「100%の純然たる文系」だった自分は、苦手を克服しようと数学の問題集は買うものの、ただの1問も解けないまま、読み物コラムだけ全部読んでしまって、あとは積んでおくということが常だった。しかし、実は、数学の問題集も、詰将棋と同じくらい毎日解けるまで粘って少しでも解いていれば、ひょっとして数学が多少はできるようになって、そうすると進路も違ってきて、今と異なる人生を歩んだだろうかなどと、ふと思ったりもする。

*1 https://www.shogi.or.jp/tsume_shogi/everyday/2017122411.html
(探しにくいので西川が追記しました。)