ある県労働委員会の話/大塚達生(事務所だより2021年8月発行第63号掲載)

 北関東のある会社で、労働組合との交渉担当者であった総務部長が、他の部署に異動した直後から、後任の総務担当者と、新労働組合を結成することを相談し、その後、総務担当者がこの前総務部長と相談しながら、新労働組合を結成し、従来の労働組合の組合員に対し、新労働組合への加入を働きかけました。
 その過程で、総務担当者は、従来の労働組合の組合員に対し、同組合宛ての脱退届に署名・押印するよう働きかけ、集めた脱退届を封筒に入れ、同組合に郵送しました。

 その際に、社長室長が、この封筒の宛名と差出人(社長名義)を手書きしました。
 また、この封筒には、「株式会社○○○○ 総務部」と書かれた送り状が同封されており、そこには「○○○○ユニオン○○○○分会員より、個々の意思、判断に基づき署名された57名の脱退届が、株式会社○○○○総務部宛提出されてきたので、一括して送付させて頂きました。」と書かれていました。
 当然のことですが、このような脱退勧奨行為及び新労組結成行為は、従来の労働組合の運営に対する支配介入行為にあたりますので、同組合は、会社がある県の労働委員会に、不当労働行為救済の申立を行いました。
 ところが、驚いたことに、県労働委員会は、平成29年1月に交付した命令の中で、これらの行為は会社の組織的行為であるとは認められず、会社の不当労働行為には当たらないと判断しました。
 そこで、申立人組合は、直ちに、東京にある中央労働委員会に、再審査申立を行いました。

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 今年4月、中央労働委員会は、県労働委員会の命令を大幅に変更する内容の救済命令を交付し、脱退勧奨行為と新労組結成行為について、会社の不当労働行為であると認定しました。
 中央労働委員会の事実認定と判断の過程は、次のような二段階構成でした。

(1)総務担当者と前総務部長が行った脱退勧奨行為及び新労組結成行為は、社長室長との意思の連絡の下にされたものであるかについて検討し、証拠に基づいて、そうであったと認定。
(2)さらに、社長室長関与の下で総務担当者と前総務部長が行った脱退勧奨行為及び新労組結成行為は、会社との意思の連絡の下にされたものであるか否かについて検討し、証拠に基づいて、そうであったと認定。

 この第一段について、中央労働委員会の命令書には、次のように書かれています(個人名をアルファベットに置き換えました。Aは総務担当者、Bは前総務部長、Cは社長室長です。)。

ウ 以上のとおり、C室長がAの用意した封筒に宛名等を手書きして脱退届の送付に積極的に関与していることからみて、Aは、C室長と意思の連絡をした上で、脱退勧奨行為をしたものと推認できる。
 そして、上記の事情に、AとBは、27年5月から、組合から脱退して新労へ加入してほしい旨分会員へ呼び掛け、同年6月19日以降新労立上げ説明会を開催して新労結成行為を行い、脱退勧奨行為と新労結成行為とを一箇月余という短期間のうちに一体のものとして行っていることを併せ考慮すると、AとBが脱退勧奨行為に引き続き行った新労結成行為についても、C室長との意思の連絡の下にされたものと推認される。

エ 会社は、C室長は手紙の内容を知らなかったと主張し、Aとの間で意思の連絡はなかったと主張する。しかし、チェック・オフ停止や協約の再締結拒否により労使関係が悪化する中、組合に対して送付する封筒に、しかも社長名義を用いているにもかかわらず、社長直属の部下という地位にあるC室長が、何に用いられる封筒であるかを知らずに宛名・差出人名等を書いたとは、およそ考え難く、その他上記ウの推認を左右するに足りる事情も証拠もない。

 また、第二段について、中央労働委員会の命令書には、次のように書かれています。

イ 会社は組合嫌悪の強固な意思を有し、27年4月にチェック・オフを中止し、同年5月にはこれを停止するなど、組合嫌悪の意思を顕在化させる行動に出ていた状況にあったこと、C室長はD社長直属の部下としてチェック・オフの中止等についてD社長の相談に乗っていること、C室長はAの用意した社長名義の封筒に宛名等を手書きして、脱退届在中の封筒を組合員に送付する脱退勧奨行為に関与していること等からみて、C室長関与の下でのAとBの脱退勧奨行為及び新労結成行為は、組合を嫌悪する会社の意向に沿うものとしてされたものであるといえる。
 また、当時、会社が組合嫌悪の強固な意思をもってこれらを顕在化させる行動に出ていた状況にあったから、脱退勧奨行為及び新労結成行為は会社の意向に沿う重大な関心事であり、C室長もそのことを熟知していたと考えられる。そうすると、C室長は、D社長の直属の部下という立場上、自らが関与するAとBの脱退勧奨行為及び新労結成行為の内容や状況を同社長に報告しており、同社長はC室長から報告を受けて知っていたことが推認される。しかるに、D社長を始めとする会社経営陣がC室長関与の下でのAとBの脱退勧奨行為及び新労結成行為を制止した形跡はない。そればかりでなく、会社は、組合から脱退勧奨行為を指摘する6.10付け抗議書面を受け取っているのであるから、会社がこれに関与していないというのであれば、その旨述べてしかるべきであると思われるのに、6.12付け通知書ではこの点について何ら否定せず、反論もしていない。
 以上の事情を総合すると、C室長は、AとBの脱退勧奨行為及び新労結成行為が組合を嫌悪する会社の意向に沿うものであることを熟知しながら、Aとの意思の連絡の下に、自ら関与して行ったものであり、一方、D社長を始めとする会社経営陣は、C室長関与の下でのAとBの脱退勧奨行為及び新労結成行為を知りながら黙認していたことが推認される。したがって、脱退勧奨行為及び新労結成行為についてC室長と会社経営陣との間で少なくとも黙示的な意思の連絡があったことを推認することができる。

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 このような中央労働委員会の事実認定と判断の過程は、不当労働行為発生場面における人間行動に対する理解と洞察に基づいており、不当労働行為審査実務からすれば、正統かつ定番というべきものです。
 これに対し、県労働委員会は、会社による不当労働行為であると認定できるだけの証拠と事実を目の前にしながら、人間行動に対する理解と洞察を欠いていたため、会社の組織的行為であるとは認められないなどと非常識な判断をしました。
 県労働委員会には、今回の中央労働委員会の命令書を熟読して、不当労働行為審査実務を一から学び直すとともに、不当労働行為救済制度の存在意義を再確認して欲しいと思います。

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