私の原点/青柳拓真(事務所だより2021年1月発行第62号掲載)

 初めまして。2021年1月より神奈川総合法律事務所に入所いたしました、青柳拓真(あおやぎたくま)と申します。
 生まれは福岡、育ちはシンガポール。漫画をこよなく愛好するベイスターズファンです。以後お見知りおきのほど、どうぞよろしくお願いいたします。
 私が弁護士を志すようになったのは、ある方との出会いがきっかけでした。大学2年生の春、その方はある授業の講師としていらっしゃいました。

 その方は過労死で夫を亡くした遺族の方でした。生きる手段としての仕事によって命が失われるのはおかしい、過労死はあってはならない。私たちのような遺族を今後出してはいけないし、出さないような社会にしていかなければならない。その方は切々と、時には涙ぐみながらお話されました。
 私はこの方のお話から強い衝撃を受けました。今思うとその衝撃は2つに分けられます。

 1つは、私がこの時初めて過労死の存在を実感したことによるものです。私は10代の多くをシンガポールで過ごしました。そのような背景もあり、国内問題よりも国際問題への関心の方が強かったのです。私は漠然と「外交官も面白そうだな」などと考えていた学生で、過労死という言葉自体は知識として理解してはいたはずですが、どこか遠い世界のこととして現実感を持っていませんでした。そんな私にとって、実際に過労死が起きていて、遺された家族がいて、今なお過労死は無くなる気配もなく、少子高齢化が進んでいるというのに若者の過労死はむしろ増えつつあるという現状を遺族から眼前に突き付けられた経験は、大変衝撃的でした。
 もう1つは、この話を聞いた周囲の反応に対してです。過労死はよくあることの一つとして受け止めていた人が多かったように感じられたのです。過労死という異常な現象がある種の日常として受け止められているこの社会自体も異常な部分を孕んでいることを感じました。

 この時抱いた衝撃が私の原点です。過労死はあってはならない。社会問題の一つとして通り過ぎるのではなく、自らこの問題の解決に貢献したい。そのためには、まず一番困っている人の立場になってその具体的な問題に取り組みながらも、個々の問題の背景にある社会構造自体にも訴えていける立場である、弁護士になりたい。こうして私は将来の進路を外交官から弁護士へ大きく舵を切り、法学未修者として法科大学院に進学し、今に至っています。
 法律の学習をする中で、また司法修習の現場において、この社会の至る所で多種多様な問題が日々発生し、多くの方がその最中で苦しみを抱えている状況に接しました。そして弁護士は、法律の専門家として、そのような方の助けになることが出来ることも知りました。他方で、残念ながら十分とは言えない弁護活動によって適切な解決にたどり着いていないように見えるケースもありました。
 依頼者の方は一生に一度の紛争解決のため、いわば最後の手段として弁護士に依頼するという方も数多くいらっしゃいます。そこで弁護士が適切な弁護活動を出来るかどうかは、依頼者の方の一生に関わるといっても過言ではありません。弁護士として果たすべき職責を思うと、自然と身が引き締まります。
 まだまだ若輩の身ではございますが、初心を忘れず、日々研鑽に励み、依頼者の方の力に少しでもなれるよう尽力いたします。皆様のご指導、ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。