訴訟代理人になるということ/石渡豊正(事務所だより2016年1月発行第52号掲載)

news201601s 昨年は6月と10月に労働事件に関する判決言い渡しを受けました。
  6月の判決の争点は、長時間に及ぶ時間外労働の存否と固定残業手当の有効性でした。また、10月の判決は有期雇用労働者の雇止めの事件で、労働契約法19条1号又は2号の適否が争点でした。
  6月の判決については、時間外労働時間数が多少削られたものの、固定残業手当は残業代の支払いとは認められないという原告の主張が認められました。
 10月の判決では、労働契約法19条1号が適用され、雇止めは無効との判断
がなされました。
  いずれの事件においても、原告の主張が概ね認められ、原告と共に喜び、安堵しました。

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  この二つの事件の背後には、現在の働く現場が抱える大きな問題が横たわっています。
  長時間労働、サービズ残業の問題は今に始まったことではありませんが、昨年においても過労死等防止対策推進法が施行されるなど、未だに根強く残る大きな問題です。
  また、固定残業手当は、若者を中心とする労働者を使い捨てにするいわゆるブラック企業が、残業代の支払を免れるための常套手段としています。
  パート、契約社員、派遣などの非正規労働者は、昨年はじめて雇用労働者全体の4割を占めるまで増加し、雇用の不安定や低賃金がマスコミ等で頻繁に取り上げられています。
  二つの事件は、このような社会的な問題が背景にあり、それが裁判という形となって表に現れたのだと考えられます。

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  こういう事件を担当すると、代理人となった自分に課された責任の重さをひしひしと感じます。
  弁護士が依頼を受け、裁判等に至るのは実際に発生している紛争のごく一部です。原告となって裁判等で争う労働者だけではなく、その背後にはそれとは比にならないほどの多くの労働者が、今回の事件と同じような問題に直面しているはずです。
  しかし、そのごく一部の事件について示される裁判所の判断は、裁判所に持ち込まれていない他の多くの事件、労働者に大きな影響を及ぼします。
  一つの事件について代理人となった自分が、やるべき訴訟活動をせず、それが原因となって、本来であれば勝つべき労働者が訴訟で負けるようなことがあれば、当該事件の原告が不利益を被るのは当然ですが、その事件の背後の問題に関係する多くの労働者にも大きな悪影響を及ぼしかねません。
  私も上記事件に勝利することを考えつつも、原告と同じように固定残業手当を口実にサービス残業を強いられている労働者、原告と同じような理由で雇止めされる有期雇用労働者が数多くいるのだという思いが脳裏をよぎりました。

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  昨年は、原告となった労働者を勝利判決に導き、訴訟代理人としての責任を果たすことができましたので、その意味では良い年になりました。
  今年も一つ一つの事件に真剣に取り組み、その背後にある問題に対する責任も果たしていけるよう努力したいと思います。