大きく、そして新しく 第四次厚木基地爆音訴訟/福田護(事務所だより2008年1月発行第36号掲載)

news0801_small 12月17日、厚木基地周辺住民原告6130名の、静かな空を求める訴状が、銀杏の落葉舞う横浜地方裁判所に提出され、第四次厚木基地航空機爆音訴訟の幕が上がりました。
 この訴訟は、空港騒音訴訟で過去最大の原告数による民事賠償請求、そして軍事空港でははじめての「行政訴訟」による航空機離着陸差止請求を試みます。弁護団は26名で構成し、わが神奈川総合からは5名の弁護士が参加します。

 厚木基地は、神奈川県中央部大和市等の人口密集地域のまん中に、2500mの滑走路をもち、507万㎡の広大な敷地を占めて、アメリカ海軍と海上自衛隊が共同使用する航空基地です。そこに離着陸し、旋回し、訓練する軍用機の騒音に、周辺住民は、もう半世紀にもわたって苦しめられてきました。
 なかでも横須賀を母港とする空母の艦載機が最大の騒音源ですが、この8月にはいよいよその空母の原子力空母への交替が強行されようとしてもいます。  航空機騒音の解消を求めた厚木基地関係の訴訟は、1976年9月、92人の原告の提訴から始まりました。私ども神奈川総合法律事務所の発足がその前年ですから、当事務所の歴史は厚木基地訴訟とともにあることになります。以来、1984年10月第二次訴訟、1997年12月第三次訴訟を提訴し、第三次訴訟は2006年7月に高裁判決が確定して終了しました。こうして三たびにわたる、確定判決で、騒音は受忍限度を超えた違法なものだから、国は原告住民に対して損害賠償義務があることが明確にされてきたのです。

 しかし、第三次訴訟の判決が、被告国は被害解消に向けて「真摯な対応を取っているようにはうかがわれない」と指弾したように、はげしい航空機騒音はいぜんとして続いています。このままでは、いつまでたっても同じことの繰り返しになりかねません。

   そこで第四次訴訟では、過去最大の原告数で抜本的対策を国に迫るとともに、根本的な司法的解決として、第三次訴訟では現実路線をとってあえて求めなかった飛行差止めの請求を、代表原告105名で提起しました。それも、はじめての試みとして、民事訴訟としての差止めと行政訴訟としての差止めの両方を同時に提起するという方法をとってみました。

 行政訴訟を起こすのは、第一次訴訟の最高裁判決が自衛隊機の運航は公権力の行使としての行政行為だとの判断を示したことに対処しようとするものです。しかも、本来国のやる行政行為は法律にのっとってするので、適法だとの推定が働くとされているのですが、厚木基地で飛行機を飛ばしているのは違法だと、過去3回も裁判所が確定判断を示しているのです。だから今度は、損害賠償だけではなく国(防衛大臣)が飛行機を飛ばすのを差し止めてほしいと、裁判所に求めようというわけです。

 軍用機が飛び交い、逃げ場のない爆音を降り注ぐ空のもとで、住民の人たちは、奪われた健康で平穏な日常生活の場をとり戻そうと、半世紀にもわたる市民運動を続けてきました。静かな空と安らかな夜を、子や孫の世代に残したい―そう念願してご高齢になるまで訴訟にとりくみ続けてきた方や、故人となられた方も少なくありません。そういう方々や、赤ちゃんを含めて老若男女、いま改めて原告となられた方々の悲願を、今回の訴訟を通じて、なんとか前進させ、実現したいものです。