顧客等によるハラスメント/大塚達生(事務所だより2020年1月発行第60号掲載)

 昨年10月、京都で開催された日本労働法学会第136回大会において、ワークショップの一つに報告者の1人として参加させていただきました。テーマは「顧客等によるハラスメントと法的課題」でした。
 これは、一部の顧客等の迷惑行為によって、接客業務に従事している労働者の尊厳や人格権が侵害されている問題です。「カスタマーハラスメント」と呼ばれることもあります。

 流通業、サービス業の労働組合を多数擁する産業別労働組合であるUAゼンセン(全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟)が、接客対応に従事する流通部門の組合員を対象に2017年に実施した「悪質クレーム(迷惑行為)アンケート調査」によれば、168組合から49,876件の有効回答があり、その70%にあたる34,984人が顧客等による迷惑行為を経験したと回答しています。迷惑行為の中で最も多いのは「暴言」で、迷惑行為を経験した人の67%にのぼります。その次は、「何回も同じ内容を繰り返すクレーム」が39%、「権威的(説教的)態度」が36%、「脅迫・威嚇」が35%、「長時間拘束」が27%、「セクハラ行為」が13%、「金品の要求」が8%、「暴力行為」が5%、「土下座の強要」が4%と続いています。
 アンケート結果には、労働者の人格を傷つける酷い実例が多数紹介されています。

 いくら商品やサービスに対するクレームであっても、接客に従事する労働者に対し、著しく粗野または乱暴な言動によって、業務上受忍すべき範囲を超えて精神的または身体的な苦痛を与えることは、許されません。
 顧客等によるハラスメントによって労働者が精神的または身体的な苦痛を被り、尊厳、人格権が侵害されるということは、労働安全衛生上問題ですから、使用者は、安全配慮義務(労働契約法5条)に基づき、労働者の尊厳、人格権が侵害されないよう、必要な対策を講じるべき義務を負うと考えられます。
 対策の種類としては、機器、設備、施設などのハード面での対策と、体制やシステムの整備、教育などのソフト面での対策が考えられますが、まずはソフト面の対策として、問題のある顧客等に対し、個々の労働者による接客対応から企業による組織的対応へ切り替えること、そのための社内連絡体制及びマニュアルの整備並びにそれらを従業員へ周知することが、有効かつ実現しやすい対策であると思われます。
 顧客等によるハラスメントの発生が予見される職場では、労使でこれらの対策について協議し実施することが必要です。

 さて、昨年5月、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、それにより労働施策総合推進法が改正され、国の取組事項に「職場における労働者の就業環境を害する言動に起因する問題の解決を促進するために必要な施策を充実すること。」が追加されるとともに、「第8章 職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置等」が新設されました(マスコミでは「パワハラ防止法成立」などの見出しで報道されました。大企業には2020年6月から、中小企業には2022年4月から、適用されます。)。
 その際に行われた衆議院厚生労働委員会の附帯決議では、改正法に基づき国が策定するパワーハラスメント防止対策に係る指針に明記すべき事項が掲げられ、その中に「自社の労働者が取引先、顧客等の第三者から受けたハラスメント・・・(中略)・・・も雇用管理上の配慮が求められること。」も入りました(参議院厚生労働委員会の附帯決議では、これに加えて、国が講じるべき措置として、「十二 近年、従業員等に対する悪質クレーム等により就業環境が害される事案が多く発生していることに鑑み、悪質クレームを始めとした顧客からの迷惑行為等に関する実態も踏まえ、その防止に向けた必要な措置を講ずること。(以下省略)」が入りました。)。
 これを踏まえて、国が作成するパワーハラスメント防止対策指針の中で、事業主が顧客等からの著しい迷惑行為に関し行うことが望ましい取組の内容も定められます。

 顧客等によるハラスメントは、企業が提供する接客業務に内在する危険が表面化したものということができますので、使用者がこれを単に顧客等と労働者の間の個人的トラブルと捉えて放置することは許されません。
 今回の法改正を機に、各職場で顧客等によるハラスメントの防止対策に関する理解とその策定・実施が進むことを願います。

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