アスベスト(石綿)労災
弁護士 嶋﨑 量
「医師から先日、中皮腫(非常に危険な「がん」の一種)と診断され、以前どこかでアスベスト(石綿)を吸ったのではと言われました。ずっと営業職で働いてきましたが、約25年前、大学生時代のアルバイトとして3年間建設作業現場で働いていましたのが、原因だそうです。病気で働くこともできませんが、私は、何か補償を受けられるのでしょうか」。
この事例は、私が実際に現在担当している事件の概要です。アスベストの健康被害を、過去の問題だと誤解している方がいますが、まだまだ多くの被害者が発症し、新たな被害者が出ているのです。
アスベストの被害は、実際にアスベストを吸い込んでからの潜伏期間が長い場合が多いのが特徴です。ですから、この方のようにアスベストに曝露後25年も経過してから重大な被害が出ることは、珍しくないのです。
アスベストは2006年に使用禁止になるまで、断熱材として工場の天井に吹き付けられるなど、さまざまな場所で使われていました。直接取り扱った記憶がなくても、建設現場で大気中に漂っていたものを吸い込むケースもあります。
アスベスト関連疾患としては、この方が罹患してしまった中皮腫のほかにも、肺がんや石綿肺などを発症する可能性があり、いずれも命にかかわる、治ることのない、進行性の重い病気です。きちんと労災認定をうけて、専門的な治療と補償を受けられる体制を作ることが重要です。
職場でアスベストに曝露したことが原因で病気になった場合は、一定の基準(悪性胸膜中皮腫の場合は原則1年の曝露歴など)で労災が認められ、国から治療費や生活費の補償が受けられます。死亡した方の労災の時効については、石綿健康被害救済法(石綿新法)に、死亡の翌日から5年という特別な規定もあります。
もし、当時勤めていた会社が倒産などで無くなっていても、給料明細や年金記録、社員名簿、写真などの記録や、昔の同僚の証言があれば労災が認められる可能性があります。私の担当している事件の被災者も、労災認定されています。
勤め先や元請け会社が今もあるなら、安全対策を怠ったとして、損害賠償を求めることもできます。
また、アスベストを取り扱う職場で働いていた人は、一定の要件をみたせば、無料で健康診断が受けられます。いまは健康でも、各都道府県の労働局長に申し出て健康管理手帳をもらい、定期的に健康診断を受けましょう。
いずれにせよ、労災認定にむけて、専門家のアドバイスは不可欠です。気になることがあれば、アスベスト被害の問題に取り組む弁護士や労働組合、神奈川労災職業病センター(http://koshc.org/)のようにアスベスト被害者救済に取り組むNPOに相談してみて下さい。
* この文章は,筆者が朝日新聞夕刊2014年3月17日掲載「働く人の法律相談」欄に執筆した原稿を加筆訂正したものです(2014年8月)。
【追加情報】
1 中皮腫
独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センターのホームページ「がん情報サービス」による中皮腫の解説。→ こちらです。
2 石綿健康被害救済法による救済制度
石綿(アスベスト)健康被害救済給付という制度があります。詳しい情報は下記のサイトを参照。
独立行政法人 環境再生保全機構