刑事弁護>薬物事犯

  薬物事犯(自白事件)の刑事弁護

弁護士嶋﨑量


1 薬物事犯(自白事件)の特徴と弁護方針

 薬物事犯(自白事件)では、単純に「刑を軽くする」ための活動だけが弁護士の役目ではありません。依頼者である被疑者・被告人が、二度と薬物に手を染めることなく更正し社会復帰できるように、依頼者のみならず、そのご家族と一緒に悩み考えることが、弁護人にも求められていると考えています。

 一度薬物に手を出した方が足を洗うのは、本当に簡単なことではありません。薬物犯罪は、再犯率の高い犯罪です。その場しのぎの反省だけでは、仮にその場をしのげたとしても、再度薬物に手を染めることになりかねませんし、薬物に繰り返し手を染めると、残りの人生は滅茶苦茶になってしまいます。

 単に刑を軽くするためだけの反省では、結果として本人が再度犯罪行為に手を染めてしまう可能性を残しており、究極的には依頼者の利益にもつながりません。たとえその場では依頼者に煙たがられたとしても、薬物に手を出してしまった自分自身と向き合えるような厳しい目と、なぜ薬物に手を出してしまったのか原因を探求する姿勢を持ち合わせた弁護活動が、弁護人にも求められていると考えています。

 また、薬物事犯の特徴として、直接的な被害者がいない(「被害者なき犯罪」と言われます)という点も上げられます。被害者が目に見えない分、被疑者・被告人も自分が薬物に手を出した行為がなぜ問題なのか、罪の意識を持ちづらいのです。
    ですが、たとえ目に見える被害者がいなくても、薬物に手を出すことの社会的意味(薬物の副作用による自分自身に対する害悪のみならず、薬物売買による犯罪組織の資金源形成も含めた社会的有害性)を理解しなければ、本当に薬物から足を洗うのは不可能です。
    その上で、薬物中毒から抜け出すのは、自分の意思だけではいかんともしがたい場合が多く、きちんとした治療機関やダルク(薬物依存者の薬物依存症からの回復と社会復帰支援を目的とした民間リハビリ施設)の利用などを具体的に検討する必要もあります。

 このような、薬物事犯の特徴を踏まえて、弁護人として活動を進めていきます。

2 具体的な弁護活動

 薬物事犯で逮捕された場合、逮捕・勾留されるケースが殆どです。
 そして、薬物使用の鑑定などに時間がかかるとの理由で、勾留も原則である10日間でなく、勾留延長によりさらに10日間身柄拘束される場合が多いです。

 特に初犯のケースでは、身柄拘束された驚きで冷静さを欠いてしまう事案が多いのですが、早期の釈放を求めつつ、しっかりと自分の罪と向き合い、薬物と手を切るために何をするべきか、なぜ薬物に手を出してしまったのか、この時期にきちんと自分自身と向き合うように諭すことも、弁護人の重要な役目です。
    そのために、場合によっては日常ご本人と密に接するご家族に、証人としての出廷に限らず、様々なご協力をお願いすることもあります。

 薬物事犯(自白事件)は、比較的定型的な量刑相場が形成されている分野ではあります。しかし、ご本人が薬物に手を出してしまった自分自身に真摯に向き合い、その過程を裁判で明らかにしていくことができれば、それが量刑に影響を及ぼすことにもつながっていきます。