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  交通事犯の刑事弁護

弁護士嶋﨑量


1 交通事犯の特徴

 交通事故を起こしてしまうと、運転者には所定の違反点数が課せられ、違反点数が一定以上になると、免許停止や免許取消などの行政上の処分を受けることになります。この行政上の処分に加えて刑事事件として扱われるのは、ほぼ人身事故事案に限られます。

 しかし、近年、飲酒運転や薬物関連の交通事故事案が大きな社会問題となり、これが刑事手続に大きな影響を与えています。

 悪質・危険な運転者に対して厳罰化を願う声や国民の関心が高まり、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」が制定され、平成26年5月20日から施行されました。
 これにより、従来刑法に規定されていた危険運転致死傷罪と自動車運転過失致死傷罪がこの新法に移行するとともに(自動車運転過失致死傷罪は過失運転致死傷罪に罪名変更)、法定刑が重い危険運転致死傷罪の類型が増やされ(通行禁止道路での危険な走行。アルコール・薬物・一定の病気の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態での運転。)、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪の新設、無免許による刑の加重も行われました。

 弁護人も、このような法制度変更の社会的背景を的確に把握しつつ、弁護活動にあたることになります。

 なお、交通事犯となるのは、自動車やバイクが多いですが、近時は自転車走行者の刑事事件も増加しています。当事務所でも、自転車による人身事故の刑事事件について弁護活動を行い、嶋﨑・石渡が担当した事件で無罪判決を獲得しています( → 関連記事はこちら)。
 自転車専用通路が殆ど整備されていない現状では、自転車が安全のために歩道通行を選択せざるを得ない場合もあり、自転車がブームになれば、自転車対歩行者の交通事件も増えます。本来であれば、増加する自転車事故に対して、社会的な整備(自転車用の保険の浸透、道路整備など)を進めていくべきところ、その点は置き去りにされ、単純に刑事罰の厳罰化のみが先行されかねず、注視していくが必要があります。 

2 具体的な弁護活動 

 刑事事件となった場合、以下の(1)~(3)の手続のいずれかで手続が進みます。

(1) 不起訴処分

 不起訴処分とは、検察官が刑事事件として処罰する必要まではないと判断された場合で、起訴されずにすむ(=刑事処分されない)ケースです。
 この場合、加害者は刑事罰を受けることはありません(前科がつかないということ)。
 ただし、不起訴処分になっても、上記の行政上の処分や、民事責任を免れることはできません。

(2) 略式命令の請求

 検察官は、正式な裁判を経ずに罰金刑が相当であると判断した場合、裁判所に対して略式命令の請求をすることが出来ます。この場合、裁判所は正式な裁判手続を経ずに、書類の審査だけの簡単な手続で、罰金刑が言い渡されます。
 略式命令であっても、刑罰を科されるという面では通常の刑事裁判と異なることはありませんので、前科がつくことになります。
 なお、被疑者は略式手続きに対して異議を申し立てることができ、異議を申し立てた場合は、正式な裁判に移行することになります。

(3) 公判請求

 検察官が、裁判所に正式な裁判を求める場合です。通常行われる刑事手続です。
 交通事故により被害者の負った傷害の程度が軽ければ、公判請求される可能性は低く、略式請求されて罰金で終了するケースがほとんどです。

 とはいえ、近時は、交通事犯について重罰化の傾向が進んでおり、事故態様によって全治数ヶ月程度の傷害でも、公判請求されることも珍しくありません。
 とりわけ危険運転致死罪については、前科のない被告人(初犯)の事案でも、公判請求された上で実刑判決が出されている場合が多いです。
 できるだけ早く弁護人を選任し、公判対応を見据えた弁護活動が必要です。

 交通事故で被疑者が逮捕されてしまった場合は、早期釈放に向けた弁護活動を行い、公判請求されないことを目指して、弁護活動を進めていきます。
 公判請求された場合、身体拘束されていれば保釈により早期釈放を目指し、事故原因を深く掘り下げて、弁護活動を進めていきます。

 交通事故で被害が発生している(被害者が事故で怪我などをした)からといって、全てが刑事手続で有罪となるわけではありません。
 まずは、どの事案であっても、事故状況を正確に把握した上で法的観点から慎重に検討し、罪を認めるのか、認めずに争うのか(自白事件とするのか否認事件とするのか)を適切に決めねばなりません。これによって、大きく弁護活動の方針が変化してきます。

 事故直後の対応で注意していただきたいのは、事故直後の動揺した精神状態で、身に覚えのない事故状況を記載した供述調書などを作成されないようにすることです。
 重大な被害を発生させてしまったという結果に対する引け目から、つい身に覚えのない責任まで認めてしまい、捜査機関(通常は被害者側の言い分を基礎にしています)の言いなりに供述調書を作成されてしまうことが多いのです。
 本来であれば、できるだけ早い段階で、弁護士から法的アドバイスを受けることが重要です。