脱毛クリニックの破産問題/山岡遥平(事務所だより2025年1月発行第70号掲載)

1 大手脱毛クリニックが破産

 先日、脱毛クリニックの大手「アリシアクリニック」を運営する2法人が破産した。債権者数は9万人以上いるという。同クリニックは、有名タレントをイメージに起用したり、積極的な宣伝及び43店舗に至るまでに出店を拡大するなど、大手であり、消費者にとって安心感もあっただろう。
 では、なぜこのような大手が倒産するのか。

2 脱毛クリニックの難しさ

 脱毛クリニックの多くは「〇回の脱毛を〇月間のうちに行う」という形の契約を結ぶことになる。そして、その金額については、自由診療であるため、各クリニックが決定し、一括又は分割で顧客が支払う。この事前の支払を元手に経営していくのが脱毛クリニック経営の基本になっている。このような構造は「前受金ビジネス」と呼ばれる。
 ただ、この「前受金」は、多くの場合、特定商取引法41条1項、同施行規則24条1項の、1か月を超えて5万円を超える取引を行う、「人の皮膚を清潔にし若しくは美化し、体型を整え、体重を減じ、又は歯牙を漂白するための医学的処置、手術及びその他の治療を行うこと(美容を目的とするものであって、主務省令で定める方法によるものに限る)」にあたるため、顧客に解約された場合、ごく一部の金額(2万円か契約残額の10%のうち低い方)を除いて返金しなければならない。
 実は、若年層など、契約を十分に把握していなかったり、効果に満足しなかったりで解約される場合も少なくないという。
 そして、事業拡大を行う場合、この「前受金」を元手として行なうことになる。
 こうした構造に、上記のように、1回あたりの施術と支払いが結び付けられているため、スポーツジムなどの会員権とは異なり、実際に権利を購入したけれども行使しない、ということは比較的少ないという特徴がある。
 そうすると、稼ぐために多くの顧客と契約をすると、今度は予約が取れなくなり、評判が下がる。その利便性向上のため、「前受金」を元に事業拡大をする、というサイクルになりがちだ。そして、顧客拡大のために広告宣伝費もかかっていくことになる。
 ここに価格競争が加わると、店を維持するためにも事業を拡大しなければならない、という悪いサイクルに入っていくのだ。

3 脱毛クリニックが営業しなくなったら消費者はどうすればいいか?

 分割支払いをしている場合、2か月以上、3回以上の分割を行っており(割賦販売法2条1項1号)、支払総額が4万円以上(リボルビング払いの場合は3万8000円以上)であれば、役務が提供されないことを理由として、クレジットカード会社に対して支払い請求を拒否することができる(「抗弁の接続」。割賦販売法30条の4第1項)。
 抗弁の接続を主張して、クレジットカード会社の支払い請求を拒否するための手続きについては、一般財団法人日本クレジット協会のHPに記載があり、書式も紹介されている
 しかし、一括や2回払いであると、上記の方法は使えないため、債権届出をすることになるが、多くの場合、総債権額と分配可能な金額の関係から、ほとんど返金されない可能性が高い。
 このほか、詐欺的な取引であった場合、会社の責任の他、役員の責任を追及することも考えうる。

4 慎重に選ぼう

 ここまで述べてきた通り、契約中は、多くの場合、前記の通り特定役務提供にあたり、消費者保護がなされている。一方で、破産手続上、債権として特段優遇されるわけではないので、ひとたび破産に至れば、消費者の被害回復は困難になると言わざるを得ない。
 そこで、医療脱毛のような継続的な取引を行う場合、以下の点に気を付ける必要があるだろう。

①当該企業が急に拡大しすぎていないか
②当該企業の広告は、事業規模に比べて適切か
③当該企業の強みが値段に偏りすぎていないか

 こうした観点から、当該企業の経営に一定の継続性があり、きちんと役務を影響してくれるのかどうかを判断する必要がある。
 特に、③については、一度立ち止まって、「どうして(他と違って)この価格でやれるんだろう」という点について考え、契約の判断材料にする必要がある。