第5次厚木基地騒音訴訟横浜地裁判決/石渡豊正(事務所だより2025年1月発行第70号掲載)

 2024年11月20日、第5次厚木基地騒音訴訟の横浜地裁判決の言い渡しがありました。
 提訴(2017年8月4日)から7年3か月余りを要しました。
 報道等で概要をご存じの方もおられると思いますが、弁護団としては、大きな不満が残る内容です。

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 第4次訴訟と比較した場合の第5次訴訟の特徴は、横須賀基地に配備される米軍空母の艦載機が2018年に山口県の岩国基地へと移駐になった後の厚木基地における騒音の変化をどのように評価すべきかという点です。この点が、自衛隊機の差止め請求及び損害賠償額に大きく影響すると考えられたためです。
 国は、予想通り、岩国移駐によって厚木基地周辺の騒音は劇的に緩和されたとして、自らの騒音測定結果をもとに、従前よりも大幅に縮小された騒音コンター図(評価点が同じ点を結んだ地図)を提出して争ってきました。
 それに対し、原告側が主張したのは、そもそも従前の国による軍用機騒音の評価方法が誤っており、実際よりも過小に評価されてきたという騒音の評価方法それ自体の問題です。この点については、田村明弘さん(横浜国立大学名誉教授)に証人として証言してもらうなど、時間と労力を割いて主張立証を試みました。田村教授は、防衛施設庁が昭和52年に騒音コンター作成基準を策定した際の専門員の1人です。
 しかし、横浜地裁判決は、田村証言に基づく騒音評価は採用せず、国が新たに提出したコンター図を採用しました。その結果、米軍空母艦載機岩国移駐後の期間については、従前と比較して大幅に賠償が認められる地域が縮小されるという結論となりました。

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 自衛隊機の差止め請求については、第4次訴訟の地裁及び高裁で限定的であれ認容されたにもかかわらず、最高裁で棄却された経緯があります。第4次訴訟最高裁判決は、自衛隊機の運航に関する防衛大臣の広範な裁量を根拠として極めて抑制的な司法判断しか行わず、判決文を読んでも具体的な判断理由を知ることすらできない、まさにブラックボックスと呼ぶにふさわしい判断方法でした。
 第5次訴訟では、近時の行政訴訟において最高裁においても原則化したと言われる判断過程審査を行うべきだとの主張を展開しました。行政処分の結論ではなく、その判断に至る過程を対象としてその合理性を審査する判断手法です。行政庁の裁量を前提としながらも、適切な司法審査を及ぼすことのできる判断手法として多くの学者からも評価されています。
 しかし、今回の横浜地裁判決は、自衛隊機運航処分によって侵害される原告らの権利利益の性質をもって防衛大臣の裁量が限定されることはない、国内外の情勢やそれに関連する自衛隊機の運航の必要性の程度等は時々刻々と変化して事前に想定することが極めて困難であることなどを理由として、判断過程審査を採用しないと結論づけました。
 国民の重要な権利利益が国家権力によって侵害されていても、裁判所(司法)は指をくわえて傍観しているほかないのだと言っているに等しい判決です。騒音の評価方法の他にもう1つ克服すべき大きな課題となりました。

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 原告団は、2024年12月3日、横浜地裁判決に対して控訴しました。国も控訴しています。
 今後は、東京高等裁判所で審理が続きます。上記の問題点を打破し、皆さまに明るいニュースを届けることができるよう、引き続き弁護団の一員として頑張ります。

*当事務所からは、石渡のほか、福田護弁護士(団長)、野村和造弁護士及び山岡遥平弁護士が弁護団員として活動しています。