マンション欠陥訴訟奮闘記/大塚達生(事務所だより2019年1月発行第58号掲載)

 2017年1月発行のたより第54号で、発見しにくい建物の欠陥の例として、私たちが訴訟に取り組んでいる構造スリット欠落問題について、ご紹介しました。今回は、その続報です。

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 まずは、おさらいです。
 建築物が地震や風圧等による水平力に対応する構造の一つとして、柱と梁で構成されるフレームの変形能力によって対応するという構造(耐震壁を設けない純ラーメン構造)があります。 この構造の建物の場合、フレームの変形能力を阻害しないよう、フレーム内の壁をフレームの動きから切り離しておく必要があります。この切り離し箇所を、構造スリットと呼んでいます(耐震スリットと呼ぶこともあります。)。
 構造スリットの設置方法は、予めスリット材と呼ばれるもの(ポリスチレンフォームなどの変形追随性能を備えた材質のもの)を設置し、その後にコンクリートを打設するというものです。これにより、その箇所は、内部が変形追随性能を備えたスリット材によって埋められ、フレーム(柱・梁)と壁がこれによって切り離されることになります。

 純ラーメン構造を取り入れた鉄筋コンクリート造建物において、構造スリットを適切に設置しないと、地震時にフレームの変形能力が阻害されます。その場合、変形によって吸収されるはずであった水平力によって、フレーム(柱・梁)に損傷が生じたり、壁が損壊することになります。
 フレーム(柱・梁)は構造耐力上主要な部分であり(建物の安全性を確保するための部分)、壁は雨水の浸入を防止する部分ですから、これらに損傷・損壊が発生することは、建物にとって重大な欠陥であるといえます。
 ところが、スリット材は完成した建物の表面からは見えないため、建物の外見だけでは、スリット材が本当に設置されているのか、設置されていないのか、判断することが困難です。

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 私たちが訴訟に取り組んでいるマンションのケースでは、メーターボックス内での漏水という出来事をきっかけにして、建物全体の検査を検査専門会社に依頼したことから、構造スリットに関する欠陥が見つかりました。
 この検査会社が、構造スリットが設計されている箇所をドリルで削孔してみたところ、多数の箇所でスリット材がないことが判明したのです。
 これを受けて、そのマンションの建設工事を施工した会社が調査したところ、調査対象とした22箇所のうち19箇所において、「スリットなし」「構造スリットが入っていませんでした」との結果が出ました。

 ところが、その後の訴訟において、この施工会社は、「スリットは全て施工している。」と言い出しました。
 訴訟前に自社が行った調査の報告書については、「『スリットなし』とあるが、未施工であるとの記載はない。『施工されていないこと』は確認されていない。」と言い出しました。
 法廷でその意味を施工会社の代理人弁護士に尋ねたところ、「スリット材を全量施工したが、コンクリート打設の段階でスリット材がずれたため、(スリットが設計された位置に)スリットがない。スリットは欠落しているが、未施工ではない。」との答えが返ってきました。
 施工会社の代理人弁護士は、スリット材の販売会社が作成したというスリット材出荷証明書を証拠として出してきました。

 しかし、スリットを設けるよう設計されている位置に、スリットがなければ、それは設計どおりの施工がなされていないこと(正しく施工されていないこと)を意味します。
 施工会社の主張は、「施工不良であっても、施工はしている。」という主張にすぎません。施工不良(コンクリート打設の段階でスリット材がずれてしまい、スリットが設計された位置にスリットがないこと)も当然欠陥なのですから、このような施工会社の主張は無意味で不誠実です。

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 結局、この訴訟では、私たちが設計どおりの施工がなされていないと主張している垂直スリット(127箇所)の全部について、施工会社が、外部の調査会社に再調査させたいと言いだし、協議した結果、全箇所で各箇所につき上中下の3点をドリル削孔し、スリットの有無を再調査することとなりました。
 昨年11月下旬から約2週間かけて、この再調査が行われましたが、やはりと言うべきか、127箇所(381点)の全部において、スリットがないことが確認されました。

 施工会社が無意味で不誠実な主張を行い、改めて全箇所調査を求め、それを実施した結果、127箇所もの調査箇所全部において、全くスリットがないという欠陥状況が改めて明確になりました。
 昨年5月には、このマンションの外壁のタイルが、突然大きく剥離し、地上に落下するという事故も発生しました。
 このマンションでは、ほかにも多くの欠陥が見つかっており、訴訟ではその有無が争点となっています。今回のスリット再調査結果をふまえて、施工会社には、これまでの訴訟態度を改めてもらい、他の欠陥については無意味な争い方をせずに、潔く認めてもらいたいと思います。