生活時間の視点から労働時間を考える/嶋﨑量(事務所だより2017年9月発行第55号掲載)

 今年4月、第1子・第2子の産休・育休を取得していた妻が職場復帰しました。3年半ぶりの職場復帰です。

 待機児童が社会問題になるなか、幸い子どもらは自宅近くの保育園に入園することができました。子どもらは慣れない保育園生活、妻は久しぶりの職場復帰と、家族の生活スタイルが大きく変わります。このタイミングで、私が短期間ですが育児休暇をとってみました(第2子出産時にも短期間取得し第1子の面倒を見ていたので、私は2度目の経験です)。

 とはいえ、実態は「育児休業」と呼べるほど大げさなものではありません。慣らし保育を終えた妻が職場復帰する4月半ばから、私が子どもの送迎・食事など家事全般をこなしただけです。子どもが保育園に行っている間や就寝してからは通常通り執務していましたし、外せない予定があれば帰宅した妻や親族に任せ仕事を優先することもできました。しかも2週間程度と短期間です。一般的な労働者(特に女性)が取得する育児休業とは全く異なります。

 そんな「プチ育児休業」であっても、私には良い経験になりました。日頃より多く家事育児を分担することは、代えがたい良い経験になります。子どもらの様子をじっくり観察でき、日頃家事分担の多くを担ってもらっている妻の負担を理解するのはもちろん、一般的に家庭責任を負いながら仕事をこなす労働者の苦労の一端を経験し、短時間で仕事をこなさねばならない焦燥感(日中の時間を一切無駄にできない)、午前9時前・午後5時以降の時間帯(=子育て中は重要な時間帯)に仕事を入れられない辛さなど、僅かですが体感できました。

 近時、長時間労働の弊害として、命や健康の問題だけで無く「生活時間」の視点が注目されています。日本社会では、私のような男性が(通常女性に)家庭責任を押しつけ、職場の期待に応えるため長時間労働を続けるという現状が全く改善されていません。長時間労働の問題は個人の心構えだけで何とかなる問題ではありませんが、同時に個人の心構えについても、改善の余地があるのも間違いないでしょう。

 私の様に労働者側の立場で活動する弁護士(労働弁護士)は、頭ではこの長時間労働の弊害を理解しつつも、行動が伴わない方がほとんどです(私自身も含め)。そして、長時間労働から解放されないことを、色々な理由をつけて正当化しがちですが(理由には事欠きません)、これが良くないのも間違いないでしょう。実際に自らが長時間労働であるだけでなく、生活時間を誰かに押しつけるライフスタイルを崩さない労働側の弁護士から、本当に長時間労働を改善する取組が生まれるのだろうかとも思います。

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 安倍政権は「働き方改革」として長時間労働是正を掲げていますが、他方で安倍政権が矛盾する長時間労働を加速させる「残業代ゼロ法案」(専門職で年収が高い人をほぼ全ての労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」創設と企画業務型裁量労働制の大幅拡大)の成立を目論んでいることは、あまり周知されていません。

 残業代の支払義務は使用者に長時間労働による割増賃金を支払う負担を負わせるので、コスト削減が長時間労働是正に取組む使用者の動機付けになります。ですから、残業代は長時間労働のブレーキ役であり、使用者が残業代を免れる制度創設は、長時間労働是正と真っ向から矛盾するのです。

 長時間労働は、命や健康の問題だけではなく、男性を職場に縛り付け女性を家庭に縛り付けるため女性活躍の阻害要因ともなり、少子化の原因ともなります。長時間労働により、地域社会での活動に関わる時間も奪われ、社会全体が活力をも奪われます。残業代ゼロ法案の様な長時間労働を加速する法律の成立を認めることは出来ません。

 私が事務局長を務める日本労働弁護団では、長時間労働是正に関する政府案・野党案を対比した市民向けリーフレットを発行しました。日本労働弁護団のホームページからも無料でダウンロードできますので、ぜひご活用下さい。