大学入学金のこれから/西川治(事務所だより2025年8月発行第71号掲載)

 6月1日、「入学金調査プロジェクト」の企画(*1)に参加しました。
 与えられた課題は、学納金返還訴訟(最判平18.11.27民集60-9-3437ほか)を踏まえ、入学金の「二重払い」(入学しない大学にも入学金を納めないといけない問題)を何とかできないか、というものです。

1 学納金返還訴訟

 大学入試では、「本命」校の結果が分かる前に「滑り止め」校の入学金や授業料等の納付が必要になることがしばしばあります。
 昔は入学辞退しても納付済みの入学金や授業料等は一切返還しないという大学が多く(*2)、その返還を求めたのがこの訴訟です。
 2002年春の受験生を中心に多数の訴訟が提起され、最高裁で、原則として、①入学金は、入学辞退しても返還されない、②授業料等は、3月末までに入学辞退すれば全額返還されるが、その後は返還されない、と整理されました。
 その理由付けは省きますが、訴訟提起後の文部科学省の指導により、2003年度入試以降、相当数の私立大学が授業料等の納入期限を遅らせ、又は返還に応じるようになったとのことです(*3)。
 学納金返還訴訟は、2001年4月1日施行の消費者契約法を武器に消費者事件として取り組み、授業料については一定の成果を挙げましたが(*4)、入学金については厳しい結果となりました。
 訴訟では学生と各大学という個別の契約関係が問題となるため、限界があるのかもしれません(*5)。

2 入学金は廃止すべきである

 私が早々に(授業料より先に)入学金を廃止すべきと考える理由は次のとおりです。

⑴ 授業料の方が納付しやすい

 入学金のように一括で納付する場合、まとまった資金が必要となり、進学断念につながります。入学金を廃止すると、その分が授業料に転嫁されますが、毎回の納付額は少なくなります(*6)。
 実は入学金の納付時、大学等修学支援制度の入学金免除も、日本学生支援機構の奨学金も使えません。これらは入学後に利用できる制度のため、他制度や自己資金で一旦納付する必要があります(*7)。
 入学前に一括納付を要する入学金は、進学の重大な障壁です。

⑵ 志望校にチャレンジできない

 入学金を払う余裕がなければ、受験校を1校に絞ることとなり、「行きたい大学より行ける大学」となります。お金がなければチャレンジの機会も奪われるのです。

⑶ 入学金は教育の対価ではない

 学費は受けた教育(期間)に見合うべきで、教育を一切受けないのに支払う入学金は妥当でないと考えます(*8)。入学自体に価値を置かず、在学中に学んだ内容や卒業したことを重視するとすれば、その対価は授業料が妥当です。

3 入学金廃止への展望

 消費者事件の位置付けも広く共感を得るうえで重要ですが、やはり「こどもの貧困」の問題と位置付けるべきでしょう。
 当面、各大学に対し、大学等修学支援制度や奨学金の利用予定者に対して入学金の納付を猶予する制度を設けることを事実上、義務付けることが考えられます(*9)。
 現在の最も深刻な問題への対処になりますし、大学側も入学辞退者からは回収困難のため、入学金から授業料への移行を促す効果があると期待しています。

*1 https://nyuugakukin0601.peatix.com/
  今回は以前別の企画でご一緒したメンバーの方から久しぶりにご連絡をいただき、参加しました。
*2 最判の2002年春入学者の例(医学科を除く)では、入学金約25万円、授業料半期分など約40~65万円の全額が返還されない状況でした。
*3 加藤正男・曹時61-5-252。
*4 学納金返還訴訟については、弁護団員であった松丸正弁護士の論考(法学セミナー626-38)が秀逸です。
*5 授業料は高いが入学金はゼロの大学という「選択肢」がないので、この枠組みでよいのか疑問は残ります。
*6 入学辞退・中退者を考慮すると、卒業者の納付額は入学金より高額となります。その前提での結論です。
なお、事務手数料程度の少額の入学金ではありうるでしょう。
*7 制度改正が望ましいのですが、入学するかどうか未確定の時点で入学を前提とする制度を利用させるのは難しいという問題があります。授業料に移行すると、支援制度の設計も容易になります。
*8 大学のコストは学生が負担すべきという見解に賛同はしませんが、大学は応益負担で設定し、国が応能負担で調整するのが妥当でしょう。
*9 制度を設けない大学は、大学等修学支援制度の利用可能大学から除外するとすれば可能です。