事務所だより

  神奈川総合法律事務所では年2回「事務所だより」を発行し、依頼者や関係者の皆さまにお送りしています。記事の一部をご紹介します。

 先日栃木県の鬼怒川温泉に行ってきました。プライベートな観光旅行・・・ではありません。2023年12月1~2日に開催された、関東弁護士会連合会(関弁連)の外国人に関係する委員会の交流会に参加し、外国人児童に関する講演をさせていただきました。今回はこの交流会についてご紹介します。 ...
 住民税非課税世帯やこれに準ずる世帯に対し、大学等の入学金・授業料免除と奨学金の給付をセットで行う大学等修学支援制度のスタートからまもなく4年が経過しようとしています(*1)。  同制度の導入により低所得世帯出身者や児童養護施設で育った子への支援は大幅に充実しました。 しかし、この制度を利用する学生や、この制度を利用して進学しようとする高校生、その親の相談を受けていると、やはり課題があると言わざる ...
 2017年8月4日(1陣)、12月1日(2陣)及び2018年5月1日(3陣)に提訴した第5次厚木基地騒音訴訟の第1審が、約6年間の審理期間を経て、2023年11月1日に結審しました。本訴訟の提訴時の原告数は8879名となり、訴訟活動にも多大な労力を必要としましたが、弁護団及び原告が協力し、何とか結審まで漕ぎ着けることができました。当事務所からも、福田(弁護団長)、野村、山岡、石渡が弁護団の一員と ...
 ライドシェア導入の議論が急浮上している。  ライドシェアとは、モバイルアプリ等で仲介し、第二種運転免許を持たない一般のドライバーと乗客をマッチングさせて、一般のドライバーが自家用車を用いて有償で乗客を運送する行為(またはそのビジネスモデル)のことだ。端的に言えば、現代的な「白タクの合法化」である。 ...
 2023年は金子みすゞ生誕120年の年だった。  金子みすゞは山口県生まれ。同郷ということになるが、金子みすゞの名前を初めて知ったのは、ずいぶん遅く、たぶん1993年4月の天声人語によってだったと思う。  引用されていた「大漁」という詩は衝撃的だった。浜で鰯の大漁を祭のように喜んでいる一方で海の中では何万の弔いがあるという発想、そして「童謡詩人」がそのようなことを詩にしていたことに驚かされた。 ...
 自民党で議論されているという「出産したら奨学金減免」という制度について、かなり批判が強いようです。  今回は、この「出産したら奨学金減免」制度を取り上げます。  まず、私はこの制度には賛成ですし、むしろこれまでこういった仕組みがなかった(猶予=先送りのみ)ことがおかしいくらいだと考えています。  他方、奨学金の返還免除を餌に子どもを産ませようという発想であれば軽薄であり、また「異次元」(の少子化 ...
 岸田首相が「異次元の少子化対策」を掲げるなど、経済の成長力や社会保障制度の安定性の面からも、少子化対策が大きな政治課題となっています。  これまで長年にわたり実効的な対策が取られなかったのであり、今さら感の漂う政治課題ではありますが、今からでも取り組むべき重要な政治課題であることは間違いありません。 ...
 9月1日は、関東大震災100年。たいへんな犠牲を思うとともに、いろんなことを考えてしまいます。 ...
 コロナ禍で在宅勤務が可能なテレワークが普及したこともあり、副業を希望する方や実際に副業を行う方が増えています。  厚生労働省はHPでモデル就業規則を公開していますが、2018年1月の改定で、それまで労働者の遵守事項として存在していた「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定を削除し、新たに「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。」という規定を追加しまし ...
1 東京高裁令和4年11月29日判決  2022年11月29日、東京高等裁判所は、労災支給決定について、使用者が取消訴訟を提起することを認めました。  この事件は、原告会社の雇用する労働者が2015年に精神疾患に罹患し、2019年にその精神疾患が労働災害だと認められましたが、その労災認定が誤っており、違法であるから取り消されるべきであるとして、使用者である会社が訴訟を提起したものです。 ...
 奨学金制度を実施する日本学生支援機構(旧・日本育英会。以下「機構」といいます。)の保証人に対する「過大請求」について、たより58、64で取り上げました(*1)。 ...
 私は、弁護士として、社会に出て直ぐに理不尽な使用者の仕打ちによる労働問題に直面する労働者の事件を多数扱ってきました(いわゆる「ブラック企業」問題)。そこで感じるのは、「抗う力」の重要さです。 ...
 2022年10月の第139回労働法学会で、川口美貴教授(関西大学)・大塚弁護士(当事務所)と3人で「企業グループと集団的労使関係法理」をテーマとするワークショップを担当し、大塚弁護士が司会、川口教授は「企業グループにおける団体交渉」を、私は「企業グループにおける争議行為」について研究報告しました。学会での報告は5年ぶりでした(前回は労働委員会命令の救済裁量について報告)。 * * *  最近、も ...
 最近、顧問契約を結んでいる複数の労働組合から、組合の個人情報管理規程の点検についてご依頼を受けることがありました。今回は、その点検作業をする中で気づいたことを書くことにします。 * * *  多数の組合員を擁する労働組合、特に企業内の過半数労働組合は、組合員の個人情報を、検索することができるように体系的に構成したデータベースの形で保有し(データをコンピューターで管理している場合は、ほぼこれに該当 ...
 司法研修所で同じクラスだった大阪の弁護士に久しぶりに会うことがありました。  その時に、同期(26期)で最高裁裁判官をやった山浦さんが出している「お気の毒な弁護士」という本(*1)はとてもおもしろいと言われ、早速買って読むこととなりました。 ...
1 「静かな時限爆弾」  石綿(アスベスト)製品の製造販売が禁止されてから16年近くがたったが、アスベスト禍はまだ終わっていません。  まだまだ石綿が使用されている建物は多く、必要な検査や、封じ込めをしていなかったり、対策が不十分だったりすると石綿の粉じんにさらされてしまいます。石綿の恐ろしいところは、吸ってすぐに病気になるわけではないのです。 ...
 私は、2019年度から座間市の生活困窮者自立支援制度に助言弁護士として関わっており、今年で4年目になります。  今回は、この助言弁護士の活動についてご紹介します。  生活困窮者自立支援制度とは、簡単にいえば、生活保護は受けていないものの、経済的に困窮している人たちからの相談に応じ、情報提供や助言、関係機関との連絡調整などを通じて、その方の自立をサポートしていくものです。 ...
 日弁連は、2021年10月に「地方自治の充実により地域を再生し、誰もが安心して暮らせる社会の実現を求める決議」(日弁連ホームページ)(以下、「本件日弁連決議」と言います。)を発表しました。現代日本において地方の衰退が進む中、憲法等の観点からみた問題点やその改善策等について提言をまとめたものです。  最近、上記決議が出された背景等について講演する機会があり、その背景事情等について少し勉強しましたの ...
 日本の労働法では、使用者が労働者を簡単に解雇できないような制度になっています(解雇規制といいます)。ですが、「解雇の金銭解決制度」を導入しこの解雇規制に風穴を開けようとする動きがあり、労働政策審議会(*1)で既に議論が始まっています。 ...
 この4月にNHKニュースを見ていると、ロシアのウクライナ侵攻について早稲田大学の国際法サークルの学生さんたちが模擬裁判をしたという。  国際司法裁判所を舞台に、ロシア・ウクライナそれぞれの立場で争うという設定だった。ニュース映像では、傍聴したという勉強ができそうな学生さんが「両方の立場に立って考えてみたかった。感情的にならずにまとめる云々」と語っていた。また、主催者側の、優秀そうな学生さんが「善 ...
 分譲販売されたマンションの建物に欠陥が見つかり、購入後の区分所有者全員で構成される管理組合が、欠陥の補修や損害賠償を求めて、分譲販売を行った企業や建設工事を行った企業と交渉することがあります。  交渉では解決に至らず、損害賠償請求訴訟を起こす必要がある場合、誰を原告にすればよいでしょうか。  躯体、共用廊下、階段、ベランダなどの共用部分や共有の附属施設(以下、合わせて「共用部分等」といいます。) ...
 今年は、日本ではじめて公害犯罪を摘発した田尻宗昭さん(1928年2月21日~1990年7月4日)の33回忌にあたる。  田尻さんは、四日市での海上保安庁時代に公害事件で初めて刑事責任を追及した人だ。 ...
 神奈川労働弁護団では、労働相談ホットラインを実施し、団員の弁護士が交代で電話労働相談を受けています。当事務所の弁護士も多く担当に入っています。 ...
 奨学金制度を実施する日本学生支援機構(旧・日本育英会。以下「機構」といいます。)の保証人に対する「過大請求」について、たよりNo.58(*1)で取り上げました。  簡略に述べると、機構の奨学金制度では(機関保証を除き)連帯保証人と保証人各1人が必要とされ、本人が返せないと連帯保証人は全額返済する義務を負いますが、保証人は「分別の利益」(民法456条)により半額返せば残りは返済不要です(返済義務は ...
 2021年3月、文科省が始めた官製ハッシュタグ#教師のバトンが、教育関係者を中心にSNS上で大きな話題になりました。  これは、文科省が現場で奮闘する教員の魅力を発信し、質の高い教師を確保して学校の未来に向けてバトンを繋ぐために始めたプロジェクト(*1)でした。ですが、これがSNS上で瞬く間に「炎上」しました。社会から注目されたのは、教員の魅力ではなくこの「炎上」でした。 ...
 ここ数年、通勤途上で詰将棋を解くことが日課となっている。   将棋は結構好きで、10年以上前くらいまでは、他の事務所の弁護士のグループに混ぜていただいて、プロ棋士の指導を受けるなどしていたのだが、そのころも詰将棋は苦手だった(というよりまともに取り組んだことがなかった)。指導の会も、しばらく行けなくなると行きづらくなり、すっかり足が遠のいてしまい、将棋そのものと縁が切れた感じになっていた。 ...
 私は、弁護士として、いくつかの分野の仕事に携わっていますが、これまでの労働組合側の代理人活動の経験から、県内外の複数の労働組合(産業別連合体、企業グループ労連、企業別組合、職能別組合)と顧問契約を結んでいただき、労働組合の組織運営や労使問題に関するご相談を、日常的に受けています。  最近は、企業のM&A(合併・買収)が盛んですので、それに伴う労働組合の合同について、組合からご相談を受けることもあ ...
 私は10代のうち7年間をシンガポールで過ごしました。「シンガポールに青春を捧げた」などと冗談めかして言っていますが、シンガポールに行っていなければ今の自分はないと断言できるほど、大きな影響を受けた場所です。  新型コロナウイルスの影響で、事務所の関係者の方々と交流できる機会が皆無な現状(同期の弁護士ですら直接会ったことがあるのはまだ2人だけです。)ですので、自己紹介も兼ねて、シンガポールでの生活 ...
1 コロナ対策を見る視点  コロナ禍で飲食店に対する規制が非常に強くなっています。みなさんも、外で食事をする機会が減ったり、仕事が終わって食事をしよう、と思っても店が閉まっている、という経験をしているのではないでしょうか。  このような規制について、みなさんはどう考えるでしょうか?補償をしなければいけない?感染防止のためだから仕方がない? ...
 私は、代議士秘書を辞した後、ある国立大の法科大学院(以下、「LS」)に入学し、司法試験後に中退するまで2年半在籍しました。  私の同期は、同じ未修者(*1)が24名、1年遅れで入学した既修者が4名。うち修了者は18名ですが、司法試験に合格したのは3名のみです。司法試験の受験回数は5回までに制限されており、令和2年度を最後に受験資格を失ったことになります(*2)。 ...
 最近、社会保険労務士(以下、「社労士」と言います。)の非弁行為が疑われるケースをよく目にします。相談に来た労働者が「会社との面談で社労士から~と言われた」とか労働組合から「団体交渉に社労士が出てきている」などと報告を受けるといった具合です。  非弁行為に該当するか否かは法律解釈も必要で微妙な話も含まれますので、今回は、非弁行為該当性に関する議論はせず、そもそもなぜ非弁行為が禁止されるのか、労働事 ...
1 はじめに  2021年6月3日、男性の育児休業取得促進のために、新たに「出生時育児休業制度」創設などを内容とする、育児・介護休業法等改正法が成立しました(*1)。  成立時、「男性版産休」制度が成立した等新聞各紙が報じ、遅々として進まぬ男性の育休取得促進の観点から好意的な報道が目立ちます。 ...
 少年時代、都会にある大きな書店はあこがれだった。  小学3年のころから中学2年まで三重県で暮らしていた。その町は、歴史のある落ち着いた城下町で、江戸中期には著名な学者を輩出した土地柄だが、書店は、首都圏でいえば私鉄の各駅停車しか止まらない駅の駅前書店のような、小さな書店しかなかった。 ...
 北関東のある会社で、労働組合との交渉担当者であった総務部長が、他の部署に異動した直後から、後任の総務担当者と、新労働組合を結成することを相談し、その後、総務担当者がこの前総務部長と相談しながら、新労働組合を結成し、従来の労働組合の組合員に対し、新労働組合への加入を働きかけました。  その過程で、総務担当者は、従来の労働組合の組合員に対し、同組合宛ての脱退届に署名・押印するよう働きかけ、集めた脱退 ...
 昨年のことだが、Facebookの動画を開くと、立派なオーディオシステムから流れる美しい旋律。  住職の方が檀家を訪問した際のレコード演奏の様子を録画したものなのだが、ついつい気になって、レコードの表示をよくみると、カリンニコフの交響曲第1番とグラズノフの交響曲第5番だった(YouTubeで確認すると、音楽はカリンニコフの第2楽章冒頭部)。 ...
*「司法改革20年」  司法制度改革審議会の意見書が出されてから、今年で20年がたった。これを取り上げたマスコミは、私の知るところ、6月12日朝日新聞の社説だけである。 ...
 初めまして。2021年1月より神奈川総合法律事務所に入所いたしました、青柳拓真(あおやぎたくま)と申します。  生まれは福岡、育ちはシンガポール。漫画をこよなく愛好するベイスターズファンです。以後お見知りおきのほど、どうぞよろしくお願いいたします。  私が弁護士を志すようになったのは、ある方との出会いがきっかけでした。大学2年生の春、その方はある授業の講師としていらっしゃいました。 ...
 私が事務局次長を務める奨学金問題対策全国会議では、今年5月、「新型コロナウイルス感染症の影響から学費と生活費に苦しむ学生を守るための緊急提言」を発表し、日本学生支援機構の貸与制奨学金について、在学採用(進学前ではなく、年度初めに在学生を対象に行われる採用)を通年採用すること、貸与月額の上限を引き上げることなどを提案しました(*1)。  新型コロナウイルス感染症の学生に対する影響は、これまでの学生 ...
 「やりがいの搾取」という言葉が世間に周知されたのは、本田由紀教授(東京大学)による分析が契機です(*1)。  今年、内田良准教授(名古屋大学)、工藤祥子さん(過労死家族の会)、齊藤ひでみさん(高校教員)と「みんなの学校安心プロジェクト」を立ち上げ、教員の労働問題をテーマに連続でオンラインイベントを企画してきました。そこに本田教授にもご登壇いただいきましたが(「教員の働き方改革は『やりがい搾取』か ...
 たより第54号(2017年1月発行)とたより第58号(2019年1月発行)で、私たちが訴訟に取り組んでいる構造スリット欠落問題について、ご紹介しました。本稿は、その続きです。以前書いた文章の繰り返しとなる部分もあること、お許しください。 ...
 『奴隷』『工場』は、「女工哀史」で知られる細井和喜蔵(1897-1925)の小説で、作者の死後、発表されたものだ。私は、この小説を岩波文庫版(2018年10月・12月発行)で読んだ。  作者の死後、作者の十分な校正を経ないまま、1925年と1926年に世に出ているため、構成や展開の面で不十分な点があるのは否めないし、やや俗っぽいところが多いが、今だからこそ、読んで良かったと思える小説だった。 ...
 新型コロナウイルス感染拡大により、感染された方にとどまらず、様々な社会活動が大きく制約をうけ、多方面に甚大な被害が発生しています。  そんな中でも、敢えて前向きに探せば、「良かったこと」もあります。私が関わっている労働運動でいえば、Web会議やSNS等の活用が一気に拡がったことがあげられるでしょう。  私たちの事務所と繋がりの深い労働組合などでも、これまで実施してきた学習会・集会などが中止せざる ...
 使用者の義務違反によって労働災害(労災)が発生した場合、労災保険による補償とは別に、使用者には、被災労働者に対する損害賠償責任が発生します。この使用者の損害賠償責任には、債務不履行に基づく責任と不法行為に基づく責任の2種類があります。 ...
 カンヌ国際映画祭でパルムドールを授賞した「パラサイト 半地下の家族」で主演したソン・ガンホ、その彼が主演の「タクシー運転手 ~約束は海を越えて~」をNHK BSプレミアムでやっているのを知り録画で見ました。 ...
 宇野峰雪さんが亡くなって約1年になる。宇野さんには、事務所でずっとお世話になり、恩返しもできなかった。思いつくまま、宇野さんのことを書いてみたい。 ...
 先日、ある総務省官僚の過労死について、公務災害申請をしました(2019年12月23日付けで公務上認定されました。)。  この方は、税制改正に向けて省内外の要望をまとめる等の業務を行っていましたが、長時間労働等があり、自らその命を絶つことになってしまいました。  この方の事件の他、地方公務員の方の過重労働事件も担当しているが、共通して感じられる問題が、労働時間管理のあり方です。 ...
 2020年4月から「高等教育の無償化」がスタートします。  昨年5月に法律が可決されたときは、「高等教育無償化」法成立として取り上げられ、その後も関連する報道がなされていますから、特にこれから大学や専門学校への進学を控えるお子さんがいるご家庭を中心に、関心のお持ちの方も多いでしょう。  この法律は、正式には「大学等における修学の支援に関する法律」といいます。今回は、この法律やこれに基づく新制度の ...
 「給特法」と呼ばれる法律をご存じでしょうか。  給特法により公立学校の教員は、他の労働者とは異なり残業代が支払われません。  給特法では、給料月額の4%相当の教職調整額を支給する代わり、時間外勤務手当及び休日勤務手当は支給しないとされ、いわゆる超勤4項目(①校外実習等、②学校行事、③職員会議、④非常災害等)を除き時間外労働を命じることはできない建前になっています。にもかかわらず、現実には教員の「 ...
 昨年10月、京都で開催された日本労働法学会第136回大会において、ワークショップの一つに報告者の1人として参加させていただきました。テーマは「顧客等によるハラスメントと法的課題」でした。  これは、一部の顧客等の迷惑行為によって、接客業務に従事している労働者の尊厳や人格権が侵害されている問題です。「カスタマーハラスメント」と呼ばれることもあります。 ...
 この1月と7月から相続法が一部変わっています。みなさんはご存知でしょうか。意外と身近な問題にも関わるので、ぜひチェックしてみて下さい。  なお、以下の内容は、今年の3月に行った事務所セミナーの内容とも重複します。追って事務所のホームページに掲載される内容もご参照下さい。 ①自筆証書遺言の方式の緩和(2019年1月13日施行)  これまで、自筆証書遺言は、全文、日付、氏名を自筆し、押印しなければな ...
 たより55号(2017年9月発行)で取り上げたサマーキャンプ中止問題について、原因となっていた旅行業法違反の旅行業法施行要領が改正され、同様の事態が今後起こる心配はほぼなくなりました。 *サマーキャンプ中止問題とは  2017年夏に、川崎市内の小中学生を対象にしたサマーキャンプ(主催・川崎市教育委員会等で構成する実行委員会)が、「旅行業法に抵触する」という理由で中止に追い込まれたものです。  こ ...
 先日、日本労働弁護団のワークルールPTの活動の一環として、中小企業経営者で組織する中小企業家同友会全国協議会(以下、「中同協」と言います。)の方々とお話する機会がありました。  中同協は、47都道府県の中小企業家同友会の協議体で、設立は1969年11月、会員数は約47,000人(2019年4月現在)です。会員経営者同士の経験交流を主体にした月例会を活動の基本とする団体ですが、その他にも正規雇用を ...
 厚生労働省の「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会」(鎌田耕一座長)は、2019年6月28日に「中間整理」を発表しました。ここでは、労働基準法上の労働者性が認められない者に対する労働政策上の保護の在り方を検討しており、個人事業主であって、労働者と類似した働き方をする者を中心に、保護のあり方を検討するとされています。  古くから、運送業、エステ、保険外交員、建設作業員、集金人などは、個人 ...
 全国過労死を考える家族の会の人たちの大変な努力の中で、超党派で過労死等防止対策推進法が成立し、2014年11月1日から施行されました。そのもとで、厚生労働省主催の過労死等防止対策推進シンポジウムが各地で毎年開かれています。  昨年11月の神奈川でのシンポジウムでは、岡田康子さんの「パワーハラスメントを防止するために」と労働安全衛生研究所の高橋正也さんの「働く人はぐっすり眠らなければならない」の講 ...
*『出る杭は打たれる』  今私の手元に『出る杭は打たれる』(岩波現代文庫、2002年)という本がある。  著者は、アンドレ・レノルというフランスの神父さん。アンドレさんは、労働司祭になるため職業訓練を受け、フライス工の資格を取って1970年に来日した。1991年5月に離日するまで21年の大半を、川崎の下請け零細企業で労働者とともに働き生活した。そして、自ら労災事故にあったり労働組合を作ったりした。 ...
 皆さんは、刑事事件の被疑者・被告人の黙秘について、どうお考えでしょうか。  真実を語らないなんてけしからん、反省していない、しゃべらないのは疚しいことがあるからに違いない、そう思われる方もいらっしゃるかと思います。私も、弁護士でなかったらそう考えていたかもしれません。  黙秘が理解を得にくい背景には、やはり、刑事事件という、社会的な「悪」やひずみが顕在化した刑事事件における、「悪」と名指された側 ...
 奨学金制度を実施する日本学生支援機構(かつての日本育英会)が、保証人に対して本来は残債務の2分の1しか請求できないのに、全額を請求しており、中には知らずに全部返してしまった保証人もいる、ということが問題化しています。  きっかけは朝日新聞2018年11月1日の『奨学金、保証人の義務「半額」なのに…説明せず全額請求』との報道です(私のコメントも載っています)。  日本学生支援機構が実施している奨学 ...
 第5次厚木基地騒音訴訟において、原告らは、防衛大臣が自衛隊機を運航させ続ける決断(行政処分)をしていることについて、裁判所が、その判断過程に合理性があるか否かを仔細に検討するべきだとの主張を展開しています。第5次訴訟でこのような主張を展開することとなったのは、第4次訴訟の最高裁判決における、あまりにも杜撰で、実質的には司法審査の放棄とも言い得るような判断を受けてのことです。 ...
 弁護士への大量不当懲戒請求が報道されていますが、私自身もこの被害者の一人です。2017年11月以降、同一理由で958件もの大量の懲戒請求を受けています。  これに対しては、私が原告となり、2018年11月以降、懲戒請求者に対する民事訴訟を提起しており(*1)(事前の和解に応じない懲戒請求者は、順次全員を提訴予定)、この件も各種メディアで報道されました。ご依頼者含め報道をみた皆さまから、お気遣の言 ...
 2017年1月発行のたより第54号で、発見しにくい建物の欠陥の例として、私たちが訴訟に取り組んでいる構造スリット欠落問題について、ご紹介しました。今回は、その続報です。 *  *  *  まずは、おさらいです。  建築物が地震や風圧等による水平力に対応する構造の一つとして、柱と梁で構成されるフレームの変形能力によって対応するという構造(耐震壁を設けない純ラーメン構造)があります。 ...
入管法案の強行採決  昨年末の臨時国会ではいくつかの重要法案が十分な議論なしに成立したが、中でも出入国管理法改正は酷いものであった。  この法案は新たな在留資格(特定技能1号と特定技能2号)を設けて外国人労働者の受入れを拡大しようとするもので、従来の政策の大転換であったが、内容のほとんどを省令等に委任し本質の審議が深まらないまま強行採決された。 ...
1 「ALT」をご存知でしょうか?  ALTとは、Assistant Language Teacherの略で、日本語では、外国語指導助手となります。  英語を教える際、教員の助手として業務を行う仕事ですが、外国人がこれを担っています。国のJETという国際交流プログラムを使って来日している方や、その他の民間企業に務め、語学の教員としての派遣・業務委託により授業に参加している方等がいます。 ...
今年から、「なくそう!子どもの貧困」全国ネットワーク世話人の末席に加わることとなりました。  このネットワークには、大学卒業後、明石書店で『子どもの貧困白書』の編集に携わった縁で、約10年前の立ち上げ時に事務局として関わっていました。その後しばらく離れていたのですが、今回お声がけいただいて世話人に加わることとなりました。  2013年、「子どもの将来がその生まれ育った環境によって左右されることのな ...
◆「働き方改革」関連一括法案は猛毒入り!  労働側の反対を押し切り、「働き方改革」関連一括法案が成立してしまいました。この法案は、例えるならば、猛毒入りの「毒まんじゅう」です。  猛毒部分とは、高度プロフェッショナル制度(高プロ制度)です。一定の高年収者に対して、残業代・休憩など全ての労働時間規制を取り払い、長時間労働を加速させる制度です。安倍政権が「働き方改革」の看板で掲げた長時間労働是正と真っ ...
 今年に入り、不動産会社スマートデイズ(東京都)によるシェアハウスのサブリース事業の破綻が、様々に報道されています。  同社は、トイレや浴室が共用の賃貸住宅(「かぼちゃの馬車」というブランド名の女性専用シェアハウス)を次々と建て、家賃収入を得られる投資物件として販売し、購入者(オーナー)との間でサブリース契約を結んでいました(同社が一括借り上げして家賃収入を保証するという仕組みです)。  購入者は ...
 今回は、過労死防止に向けた取り組みを紹介します。 1 神奈川過労死等を考える遺族の会が結成されました  去る平成29年5月25日に神奈川過労死等を考える家族の会が結成されました。この団体は、過労死等防止対策推進法に基礎をおく、全国過労死を考える家族の会に繋がる団体として発足しました。  私も立ち上げの準備から係わらせてもらったのですが、名称決定にも様々な思いがあり、「過労死等を考える家族の会」と ...
 最近、「高等教育無償化」が政策課題として浮上し、注目を集めるようになっています。  しかし、残念ながら日本ではこれまであまり注目されてこなかったテーマでもあります。  今回は「高等教育無償化」について取り上げます。     「高等教育」に高校は含まない! ...
 Tさんは、窃盗罪(万引き)で2度の執行猶予付き判決(懲役刑)を受け、しかも2度目の執行猶予は保護観察付きでした。その2度目の執行猶予中に、再び万引きを行いました。  Tさんには数百万円もの十分な預金があります。それに対し、万引きした商品は合計約1900円。次に万引きで捕まれば懲役の実刑を受けるであろうことも理解していました。それでも万引きをしてしまったのです。得られる利益と失うものの大きさがあま ...
 先日、ある顧問先労働組合から講演を頼まれました。難しい話をしてすぐに忘れられるより、組合員が弁護士を身近に感じ弁護士を利用しようと思えるような話をしようということになったのですが、委員長から、例えばなぜ弁護士になったのか、どんな事件が印象的だったかというのはどうですかと言われました。  自分自身が問われるなかなか厳しい質問です。   振り返るといろんなことを思い出しました。 ...
    唐突ですが、精神科医の中嶋聡先生の書いた『うつ病休職』(新潮新書、2017年)の書評を通じて、思うところを書こうと思います。  さて、本書は、裁判でも、労災でも、医師の中でも一般的に使用されているDSMⅤやICD-10の診断方法を批判し、「経験ある精神科医」の見て取る「質的」違いを重視する(90-91頁)という、(現在においては)一種独特の考えに立っています。そして、この考えに基づき、本来 ...
 昨年夏の「事務所たより」で「ワークルール教育の教材を作っています。」との表題で、私のワークルール教育に関する取組みを紹介したところ、それを読んでいただいた某女子大学の先生からワークルール教育の講師依頼がありました。  インターネットがこれだけ普及した時代に、紙媒体の「事務所たより」がどれだけ読まれているのか多少懐疑的となっていた私でしたが、今回このようなご依頼をいただき、「事務所たより」にしっか ...
 今年4月、第1子・第2子の産休・育休を取得していた妻が職場復帰しました。3年半ぶりの職場復帰です。  待機児童が社会問題になるなか、幸い子どもらは自宅近くの保育園に入園することができました。子どもらは慣れない保育園生活、妻は久しぶりの職場復帰と、家族の生活スタイルが大きく変わります。このタイミングで、私が短期間ですが育児休暇をとってみました(第2子出産時にも短期間取得し第1子の面倒を見ていたので ...
 川崎市内の小中学生を対象にしたサマーキャンプ(主催・川崎市教育委員会等で構成する実行委員会)が,この夏,中止に追い込まれました。  このサマーキャンプは1990年から毎夏行われ,長野県,和歌山県など各地で地元の子どもたちと交流しながら自然体験活動を行うというもので,この夏も81人が参加予定だったとのことです。  中止となった理由は,「旅行業法に抵触する」というものでした。  同様の事例は,平塚市 ...
    昨年の事務所だよりにも書きましたが、一昨年秋、横浜市都筑区の大規模マンションで、基礎杭の一部が地盤の支持層に届いておらず、しかも基礎杭の施工報告書にデータの転用・加筆があったという出来事が、大きく報道されました。  一連の報道によれば、この基礎杭の重大な欠陥が発覚した契機は、住民の方が、棟と棟の接続部の廊下の手すりに「ズレ」を発見したことにあったそうです。     つまり基礎杭の欠陥の存在 ...
  現在、ワークルール教育の教材を作成中です。   これは、日本労働弁護団(http://roudou-bengodan.org/)内に設置されたワークルール教育推進法PTの活動の一環です。   日本労働弁護団では、平成25年3月にワークルール教育推進法PTが設置され、ワークルール教育推進法の制定に向けた活動をしています。   ワークルール教育推進法とは、簡単に言えば、いつでも、どこでも、誰でもが ...
1 求人詐欺とは?  「求人詐欺」問題について、耳されたことはあるでしょうか?  「求人詐欺」とは、求人票(募集要項)が実際の労働条件と異なる(または、重要な契約内容が十分説明されていない)という問題です。  例えば、こういったケースです。 ①「正社員」の求人票だったのに、入社後に「半年間はアルバイト」と言われた ②「正社員」の求人だったのに、働き始めると「業務委託」だと言われて社会保険にも加入で ...
 アスベストは、石綿ともいわれ、細長い天然の鉱物繊維です。  耐熱性、耐薬品性、熱や電気の絶縁性などの特性をもつことから、建材、摩擦材、シール材、断熱材、保温材など様々な製品の材料として使われてきました。   しかし、アスベストが空気中に放出され、人が呼吸とともにそれを吸い込むと、微細なものは肺の奥まで到達します。アスベストは丈夫で変化しにくい鉱物繊維であるため、そのまま肺の組織に刺さるように蓄積 ...
    昨年秋、横浜市都筑区の大規模マンションで、基礎杭の一部が地盤の支持層に届いておらず、しかも基礎杭の施工報告書にデータの転用・加筆があったという問題が、大きく報道されました。  そして、この物件、この施工会社にとどまらず、他の物件や他社の工事でも、基礎杭の施工報告書でデータの流用や改ざんが横行していることが、次々と報道されました。  基礎杭は、マンション建物の「構造耐力上主要な部分」であり、 ...
 昨年は6月と10月に労働事件に関する判決言い渡しを受けました。   6月の判決の争点は、長時間に及ぶ時間外労働の存否と固定残業手当の有効性でした。また、10月の判決は有期雇用労働者の雇止めの事件で、労働契約法19条1号又は2号の適否が争点でした。   6月の判決については、時間外労働時間数が多少削られたものの、固定残業手当は残業代の支払いとは認められないという原告の主張が認められました。  10 ...
 最近ありとあらゆる情報がネットで入手できるようになっている。  むろんネット情報には真偽の保証がなく、レベルもいろいろだが、発信元の性質等を注意したり、複数のソースから照らし合わせたりしていけば、かなりの精度の情報が得られる。  日本国憲法制定過程の国会論議なども、ネットで国立国会図書館の「帝国議会会議録検索システム」などを用いれば、実際に図書館に行かなくてもつかめる。  日本国憲法(以下「現行 ...
 先日(平成27年7月30日)控訴審判決が言い渡された第4次厚木基地騒音訴訟では、将来の損害賠償請求が認められるか否かという点が一つの大きな争点となっています。   民事訴訟法135条は「将来の給付を求める訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り、提起することができる。」と規定しており、これが将来の給付の訴えの根拠規定となっています。   金銭等の給付(引渡・明渡等)を求める給付の訴え ...
 30年以上弁護士をしていても、法廷で判決を聞くときの不安定な緊張感というのは変わらない。ましてや、弁護士1年目からかかわり続けてきた事件である。その過程では、第1次訴訟の原告側の請求を、差止めも損害賠償もことごとく棄却した1986年4月9日の東京高裁判決もあった。「もしや」という思いが、いやおうなく脳裏をよぎる。  去る7月30日午前10時、東京高裁は、第4次厚木基地騒音訴訟について、自衛隊機の ...
 平成26年11月1日、過労死等対策防止推進法(過労死防止法)が施行された。  この法律は、次のような内容を持つ。     ・国、地方公共団体の、過労死等防止対策対策推進の責務     ・国による実態調査、調査研究等     ・国や地方公共団体による啓発活動     ・被災者や遺族の声の反映(過労死等防止大綱作成にあたり、意見を述べる協議会メンバーに被災者や遺族が加わる)  この法律だけで過労死・ ...
 少年審判は、非行を犯したとされる少年について家庭裁判所が非行事実や要保護性(少年院送致等の保護処分の必要性)について審理するものです。弁護士は、刑事裁判では弁護人として活動し、少年審判では「付添人」として活動します。刑事裁判における弁護人の役割は、被告人の権利の擁護者ですが、少年審判における付添人については、第一次的には少年審判の目的が適正に実現されるための裁判所の協力者であり、少年の権利の擁護 ...
 2014年は、久しぶりに「裁判の力」を実感できた判決が相次いだ年でした。  5月には、原発の運転差止を認めた大飯原発福井地裁判決と自衛隊機夜間飛行の差止を認めた横浜地裁判決が、10月には妊娠による簡易業務への転換を契機とする降格は均等法9条3項に違反するとしたマタハラ事件最高裁判決が、そして12月にはヘイトスピーチを断罪した1、2審判決を支持する最高裁決定が出ました。     いずれも当事者の血 ...
 労働基準法は、1日8時間・1週40時間を労働時間の最低基準として定め、この最低基準に反する時間外労働に対しては、割増賃金の支払いを義務づけています(労働基準法37条)。  この残業代に関する労働基準法37条の規定がなぜ存在するのかについては、極めて重要なのに、あまり認識されていません。  結論からいえば、残業代の支払いを命じるこの労働基準法37条は、長時間労働を抑制して、労働者の命と健康を守り、 ...
 「旗出し」というのがある。規模の大きい裁判事件でいよいよ判決が出される日、法廷の傍聴席に入りきれない支援の人たちが裁判所の玄関前で、判決の第一報を待ちかまえる。その場所に、法廷で判決結果を聞いた弁護士が、「全面勝訴」とか「不当判決」とか大書した「旗」を持って走り出て、皆さんの前でその旗を開く。しばらくシャッター音が鳴り止まないこともある。ある種の儀式性を帯びた第一報である。  判決の結果によって ...
 先日、初めて刑事事件の無罪判決を獲得しました。  事案は、交差点における自転車同士の死亡事故です。  略式手続(簡易裁判所において公判手続を経ないで罰金又は科料を科する手続)で罰金刑の言渡しを受けた後に弁護人に就任し、異議申立後の正式裁判で無罪判決となりました。  本件で裁判所が認定した事実は以下のようなものでした。  被告人は前方に赤信号を認めて交差点手前で約1分停止した後、右方を確認しながら ...
 「医療の不確実性」という言葉をご存じでしょうか。  この言葉を見たり聞いたりした方は、多いのではないでしょうか。  この言葉を使う人によって意味に多少の違いがあるようですが、最大公約数的な意味としては、「医療に100%確実な診断、治療、経過予測はない。」「医療は100%の結果を保証するものではない。」といったことでしょうか。  常識的に理解できることであり、もっともなことです。  しかし、この言 ...
 先日、日本労働弁護団主催で、ワークルール教育に関するシンポジウムが開催されました。パネリストとして、道幸哲也教授(放送大学教授・労働法)、上西充子教授(法政大学・キャリアデザイン学)、POSSE代表の今野晴貴氏、神奈川高教組の加藤はる香氏という、多彩なメンバーが参加され、私もコーディネーターとして参加させていただきました。  このシンポジウムで一番印象深かったのは、複数のパネリストから、単なる労 ...
 平成16年10月23日、新潟県中越地方を震度7の地震が襲い、深刻な被害が発生しました。  神奈川県内のA町では、町長の発案で職員を被災地に派遣することになり、当時55歳だった部長職のBさんは、町長及び3名の幹部職員とともに、3日間、被災地に派遣されました。  町長が幹部職員4名を率いて被災地入りしたことからも分かるように、この派遣には、被災地に応援の人手を出すという意味だけにとどまらず、町長と幹 ...
 若い方の中には、かつて派遣は禁止されていたということを知らない人も多いのではないでしょうか。  1985年(昭和60年)に派遣法が制定されるまで、労働者派遣は一切禁止されていました。  派遣法が制定された後も、当初は、常用代替のおそれのない専門的知識等を必要とする13業務のみが対象でした。  しかし、その後、適用対象業務が徐々に拡大していき、現在では適用対象業務は一部の派遣禁止業務を除いて、原則 ...
 「ブラック企業」という言葉。ちょっとした流行語になっています。この「ブラック企業」を世に広めたのは、労働相談、労働法教育、調査活動などを若者自身の手で行うNPO法人、POSSEの代表・今野晴貴さんでしょう(*1)。  先日、この今野晴貴さんの講演を聴かせていただく機会がありました。  弁護士になったばかりの頃、POSSEに依頼されて、何度か私が市民向け(主に若者向け)のセミナーで、労働法の講義を ...
 レトロスペクティブとプロスペクティブという言葉をご存じでしょうか。  レトロスペクティブの原語であるretrospectiveには「回想的」とか「回顧的」という意味があり、プロスペクティブの原語であるprospectiveには「将来の」とか「予想される」という意味があります。  そのことから、レトロスペクティブのことを後方視的と、プロスペクティブのことを前方視的と言い表して使っている場合がありま ...
    契約社員やパートであっても有休があることを知っていたのは、正社員で66.2%、非正社員で51.9%。また、非正社員でも時間外割増賃金を請求できることについては、正社員の約3割、非正社員の約4割が知らない。さらに、二人以上で労働組合を作れることを知っていたのは、正社員で27.2%、非正社員14.8%であった。  これは、公益財団法人連合総合生活開発研究所による第24回「勤労者の仕事と暮らしに ...
 夜中についテレビをつけると,英国議会のようなところで、青年政治家が奴隷貿易反対の演説をしていました。「アメイジング・グレイス」という2007年に公開された映画。英国議会の奴隷貿易廃止決議200年ということで作られたとのことでした。  映画に出てくる主人公は、ハンサムな青年政治家、ウィリアム・ウィルバーフォース(1759-1833)。「アメイジング・グレイス」の作詞者、奴隷貿易船の元船長でその罪を ...
 民間企業などで働く労働者は、使用者との間に「労働契約」を締結して、その法律関係は労働契約法により規律され、労働者保護が図られています(例えば、解雇に関する労働契約法16条、就業規則不利益変更に関する労働契約法10条など)。  しかし、公務員については、実務では、「労働契約」が存在せず、民間企業で働く労働者に適用される労働契約法は公務員には適用されないという法解釈が支配的です。*1  このように、 ...
    昨年11月に日本労働弁護団の会長に就任しました。労働弁護団には、1972年4月に弁護士になったと同時に加入し、爾来40年間、労働弁護団と共に歩んできました。  この間、1990年代後半には、司法制度改革の中で労働裁判が取り上げられたこともあって、活動のスタンスを日弁連に移しましたが、いつも私の本籍は労働弁護団だと思ってきました。  その司法制度改革の成果として、2004年に労働審判制度が創 ...
改正の意義   非正規雇用労働者の不安定雇用や処遇の劣悪さが問題となっていますが,実はこのような非正規雇用労働者の多くは「有期労働契約」(労働契約に期間の定めがある契約:我が国で約1200万人)です。そして,非正規雇用労働者にとって,「有期」契約であることが,その労働条件改善にとって大きなハードルとなっていました。  というのは,「有期」契約であるが故に,次の契約更新で使用者から不利益に取扱われる ...
 「工務店に建物の建築を依頼し、建物が完成して住み始めたのだけれど、建物に欠陥があるので相談したい。」といった法律相談の申込が、ときどきあります。このような場合、相談者の方は、欠陥であると思う何らかの現象を、目視したり体感しているものです。例えば、雨漏り、床の傾き、結露などがそうです。  しかし、建物の欠陥は、このように現象が表面化したものに限定されません。表面化したものをきっかけとして専門家が建 ...
 被告人が犯罪を行ったことを否定しており、被告人による犯罪を裏付ける客観的証拠がないにもかかわらず、被害者だという人の供述に基づいて、被告人が有罪とされてしまう刑事裁判の事例は多い。 被告人の供述(弁解)は「信用できない」として簡単に排斥されてしまうのに対し、「被害者」の供述は信用できるとされがちである。その際の理由付けに使われるのは、「被害者」の供述の内容に一貫性があるとか、真に体験した者でなけ ...
 私たちの事務所を訪れる依頼者の方々は、多かれ少なかれ一生に一度あるかないかの重大な出来事に遭遇し、思い悩み混乱した状態にあります。なかでも交通事故の場合は、その程度が強く深いと言えるでしょう。交通事故は、全く事前の予告なしに突然起こり、それまでの平穏な生活を暗転させ奈落の底に突き落としてしまうのですから・・・。  現代社会で、車は不可欠な交通手段となっていますが、残念ながら現状では一定の確率で事 ...
 国鉄の分割民営化からまる23年が経過した去る4月9日、JR発足時の職員採用についての国労・全動労等に対する組合差別問題(国鉄清算事業団解雇者1047名問題)で、ついに政治解決がなされました。民主党・社民党・国民新党の与党三党と公明党がまとめた政治解決案を、政府が受け入れたものです。これに基づいて6月28日、最高裁で裁判上の和解が、国鉄の権利義務をいまにひき継いでいる鉄道運輸機構との間で成立しまし ...
 あるファーストフードチェーンの店長が、社内研修の最中にクモ膜下出血で倒れ、亡くなりました。  「労災ではありません。」という会社担当者の説明に疑問を感じた遺族が、会社から勤務記録を取り寄せたところ、遺族の実感から程遠い残業時間数しか記録されていませんでした。また、おかしなことに、社内研修中に倒れたにもかかわらず、会社の勤務記録には、その日が「公休日」と記されていました。   遺族が、労働組合の支 ...
 足利事件の菅家さんは、17年半もの苦しみの後、ようやく釈放された。  控訴審で弁護側は、DNA鑑定の信頼性や自白の客観的事実との食い違いを指摘したが無期懲役判決がなされ、1996年5月最高裁への上告。  弁護側は、最高裁に、菅家さんの毛髪のDNA型が犯人のものと一致しないとの鑑定結果や科警研DNA鑑定の問題性を指摘した専門家意見などを補充書で提出し、DNA再鑑定の必要性を主張したが、2000年7 ...
 Kさんは、業務用電化製品の訪問修理・メンテナンス業務に従事するサブカスタマエンジニア(サブコン)として働いていました。サブコンは、顧客に対する迅速な対応の名のもとに担当地域ごと一人ずつ24時間拘束されて働いていました。会社は、サブコンを会社に拘束して専属的に働かせていましたが、人件費削減のため、社員としては処遇せず、会社との間で「業務委託契約」を結ばせ、完全歩合制で支払いをおこなっていました。 ...
 12月17日、厚木基地周辺住民原告6130名の、静かな空を求める訴状が、銀杏の落葉舞う横浜地方裁判所に提出され、第四次厚木基地航空機爆音訴訟の幕が上がりました。  この訴訟は、空港騒音訴訟で過去最大の原告数による民事賠償請求、そして軍事空港でははじめての「行政訴訟」による航空機離着陸差止請求を試みます。弁護団は26名で構成し、わが神奈川総合からは5名の弁護士が参加します。  厚木基地は、神奈川県 ...
 2006年1月の事務所だよりで、「賠償責任保険の死角」というタイトルの報告をしました。  そのときに、まとめとして次のようなことを書きました。  「もしも、医療機関の民事再生手続において、医療過誤による患者側の損害賠償請求債権について、一般の再生債権と同様の免除をすることが再生計画で認可されてしまうと、現行の医師賠償責任保険の保険契約約款の下では、免除後の残額に相当する額しか保険金が支払われず、 ...
 1991年に提訴し、他の事務所の弁護士と共同で患者側の代理人を務めてきた医療過誤訴訟が、2005年にようやく最終的に解決した。2つの病院を被告として提訴し、第1の病院に対する損害賠償請求は認められなかったものの、第2の病院に対する損害賠償請求を認容した判決が確定した。   訴訟は、地裁、高裁、最高裁と進んで、最高裁から高裁に差し戻され、高裁での判決後に、上告提起・上告受理申立がなされて、最高裁が ...
 鵜飼弁護士の文章の最後に出てくるT弁護士とは私のことですが、その後労働弁護団の一行はベルリンに向い、5月11日から14日までドイツ調査を行いました。  1997年にも、日本労働弁護団では鵜飼弁護士の紹介するイギリス調査以外に、ドイツ・フランス・イタリアに別れて労使紛争解決システムの調査を行いました。私は、その際、ドイツ班で勉強しましたが、それ以来の再訪になりました。  現在、わが国では、解雇・配 ...
    連休明けの5月7日から10日まで、日本労働弁護団の英国調査に参加した。目的は、ET(雇用審判所)におけるレイメンバーの研修や労働時間法制(特にオプトアウト)を調べることである。私にとっては8年ぶりのロンドンであったが、前回97年4月の英国調査は、色々な意味でエポックなものであった。  93年2月に始めた労働弁護団のホットライン活動を通じて、多くの労働者が無法なリストラの中で翻弄されている現 ...
2004年世界アスベスト東京会議   世界会議が開かれるということで、造船のアスベストじん肺訴訟についての報告の割り当てが私に回ってきた。仕事に追いまくられている中でのこと、発表はパワーポイント(発表用のスライドを表示するコンピュータ・ソフト)を使うようにとか、経験皆無の私には正直、気が重かった。  しかし、11月20日早稲田の国際会場に着くと、アスベストのことでよってたかって世界中から集まってい ...
 弁護団の一員として参加した「青山会不採用事件」が、今年(2004年)2月10日、最高裁でも勝利し終了した。  青山会不採用事件とは、経営ができなくなった県内のある病院を「青山会」という法人が買い取るにあたり、従業員については、旧経営者がいったん全員解雇し青山会において新規採用するという形をとり、その際、労働組合の組合員を不採用としたという事件であるところ、不採用の理由は、労働組合の組合員であると ...