借家問題>解説

  借家問題Q&A

弁護士 石渡 豊正


このページでご説明する事項は次のとおりです。

Q1 借地借家法が適用される「借家」とはなんですか。
Q2 借家契約の期間はどのように決まるのですか。1年未満の期間を定めた場合、どうなりますか。
Q3 期間が満了したら借家契約は終了しますか。
Q4 期間の定めのない借家契約はいつ終了しますか。
Q5 賃貸人による更新拒絶・解約申入れに必要な「正当事由」とはなんですか。
Q6 賃借人は建物の新しい所有者から明渡請求を受けた場合、それに応じる必要はありますか。
Q7 借家権の譲渡や転貸に賃貸人の承諾は必要ですか。
Q8 家賃の増額や減額を請求することはできますか。
Q9 造作買取請求権とはなんですか。
Q10 賃料不払いや建物の用法違反を理由に賃貸借契約を解除することはできますか。
Q11 敷金とはなんですか。
Q12 権利金とはなんですか。借家契約が契約期間途中で終了した場合に返還を求めることはできますか。
Q13 借家契約を更新する際に更新料は支払わなければなりませんか。
Q14 賃借人の原状回復義務とはどの程度のことをいうのでしょうか。
Q15 賃借人や賃貸人が死亡した場合、借家契約はどうなりますか。
Q16 賃借人が死亡した場合、賃借人の相続人ではない同居者は建物に住み続けることはできないのでしょうか。
Q17 定期建物賃貸借とはなんですか。どのような手続が必要となりますか。
Q18 取壊し予定の建物の賃貸借とはなんですか。どのような手続が必要となりますか。


Q1 借地借家法が適用される「借家」とはなんですか。

【借家とは建物の賃貸借です】
 賃貸借契約一般については民法601条以下に関係する規定が置かれていますが、借地借家法はそのうち「借家」について、契約の更新、効力等について特別の規定をしています。
 借地借家法が適用される「借家」とは、「建物の賃貸借」のことです(借地借家法1条参照)。
 「建物」には、居住用(戸建住宅・集合住宅)だけではなく業務用(事務所・店舗・工場等)も含まれます。

【一時使用目的の建物賃貸借は借家に該当しません】
 「一時使用のために建物の賃貸借をしたことが明らかな場合」には、借地借家法の適用はありません(借地借家法40条)。
 判例によれば、「一時使用のため」のものかどうかは、「必ずしもその期間の長短だけを標準として決せられるべきものではなく、賃貸借の目的、動機その他諸般の事情から、当該賃貸借契約を短期間内に限り存続させる趣旨のものであること」を客観的に判断すべきとしています(最三小判昭36.10.10)。
 契約書に「一時使用目的」との記載があっても、必ずしも一時使用目的に該当するとは限りません。


Q2 借家契約の期間はどのように決まるのですか。1年未満の期間を定めた場合、どうなりますか。

【期間はどうやって決まるか】
 借家契約の期間は、賃貸人と賃借人の合意によって決まります。
 もっとも、以下のように下限があります。

【1年未満の期間を定めると・・・】
 期間を1年未満とすることはできません。
 仮に1年未満と合意しても、期間の定めのない借家契約を結んだものとみなされます(借地借家法29条1項)。
 期間の定めのない借家契約は当事者による解約申入れによって終了しますが、賃貸人が解約の申入れをするには、「正当事由」が必要になります。
 「正当事由」については、Q5をご覧ください。
 他方、借家契約の期間に上限はありません(借地借家法29条2項)。


Q3 期間が満了したら借家契約は終了しますか。

【合意による更新があります】
 借家契約の期間が満了しても、賃貸人と賃借人との間に合意が成立すれば借家契約を更新することができます。

【借地借家法による更新があります】
 当事者間に更新の合意がない場合であっても、以下のような場合には借地借家法に基づいて借家契約が更新されます。

〇 更新拒絶の通知がないと更新されます。
 当事者が期間の満了の1年前から6か月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます(借地借家法26条1項本文)。
 そして、賃貸人が賃借人に対してする「更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知」には正当事由の存在が必要になります(借地借家法28条)。
 正当事由の内容については、Q5をご覧ください。

〇 遅滞なき異議がない場合も更新されます。
 賃貸人が更新拒絶の通知をした場合であっても、借家契約の期間が満了した後賃借人が建物の使用を継続する場合において、賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、従前の契約と同じ条件で契約を更新したものとみなされます(借地借家法26条2項)。
 建物の転貸借がなされている場合においては、賃貸人・賃借人間の借家契約の期間が満了した後、転借人による建物の使用継続に対して、賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、賃貸人・賃借人間で従前の契約と同じ条件で契約を更新したものとみなされます(借地借家法26条3項)。

〇 法定更新後の借家は期間の定めのないものとなります。
 借地借家法26条1項・2項によって更新された後の賃貸借契約は、期間の定めのないものとなります(借地借家法26条1項但書)。
 期間の定めのない建物賃貸借契約は、当事者による解約申入れによって終了します(Q4参照)。


 Q4 期間の定めのない借家契約はいつ終了しますか。

【解約申入れによって終了します】
 存続期間の定めのない借家契約は、当事者による解約の申入れによって終了します。
 もっとも、以下のとおり、賃貸人による解約申入れと賃借人による解約申入れには違いがあります。

【賃貸人が解約申入れをすると・・・】

〇 解約申入れには「正当事由」が必要です。
 賃貸人による解約申入れには「正当事由」が必要になります(借地借家法28条)。 「正当事由」がない解約申入れは無効となります。
 「正当事由」の内容については、Q5をご覧ください。

〇 解約申入れ期間が必要です。
 賃貸人が「正当事由」のある解約申入れをした場合には、借家契約は、解約申入れの日から6か月を経過することによって終了します(借地借家法27条1項)。

〇 遅滞なき異議がなければ更新されます。
 賃貸人が解約申入れをしてから6か月を経過した後、賃借人又は転借人が建物の使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます(借地借家法27条2項、同26条2項・3項)。更新後の借家契約は期間の定めのないものとなります。

【賃借人が解約申入れをすると・・・】
 賃借人が解約申入れをした場合には、解約の申入れの日から3か月を経過することによって借家契約は終了します(民法617条1項2号)。
 賃借人からの解約申入れに「正当事由」は不要です。


Q5 賃貸人による更新拒絶・解約申入れに必要な「正当事由」とはなんですか。

 賃貸人が行う、期間の定めのある借家契約における更新拒絶の通知(借地借家法26条1項)や、期間の定めがない借家契約における解約申入れ(借地借家法27条)には「正当事由」が必要となります。

【どのような事情が考慮されるか】
 「正当事由」の有無は、以下の①~⑤の事情を総合的に考慮して決定されます。

①建物の賃貸人及び賃借人が建物を必要とする事情
②建物の賃貸借に関する従前の経過
③建物の利用状況
④建物の現況
⑤立退料等の提供

【どのように判断されるか】
 ①の「建物使用の必要性」が正当事由の主たる判断要素であって、それ以外の事情は、正当事由の補完事由という位置付けとなっています。
 そのため、賃貸人の自己使用の必要性(①)がほとんどない場合に、⑤の立退料の提供があっただけで正当事由が具備されることはありませんし、自己使用の必要性(①)を考慮することなく、従前の経過(②)や建物の利用状況(③)のみで正当事由があると判断されることはありません。


Q6 賃借人は建物の新しい所有者から明渡請求を受けた場合、それに応じる必要はありますか。

【建物の引渡を受けていれば明け渡す必要はありません】
 賃借人は、「建物の引渡し」を受けていれば、その後に建物について所有権を取得した者に対しても、賃借人であることを主張することができます(借地借家法31条1項)。
 そのため、「建物の引渡し」を受けた賃借人は、新所有者からの明渡請求に応じる必要はありません。
 なお、民法605条は、不動産賃貸借契約の対抗要件として「登記」をする方法を規定していますが、「登記」は賃貸人の協力がなければ備えることができず、一般的に賃借人が「登記」を備えることは困難です。

【賃貸借関係は建物の新所有者が承継します】
 賃借人が「建物の引渡」や「登記」を備えている場合、建物の新所有者は旧所有者と賃借人との間の借家契約を当然に承継し、旧所有者は、借家契約から離脱します。
 建物の新所有者は、賃借人に対して建物を使用・収益させる義務などの賃貸人としての義務を負う他、敷金返還義務も承継します(旧所有者に対する延滞賃料があればそれを差し引いた金額となります。)。
 一方、賃借人も、新所有者に対して家賃を支払う義務があります。

【新所有者は建物売買契約を解除したり損害賠償請求ができます】
 売買契約によって建物の所有権を取得した新所有者は、売買契約当時賃借権の存在を知らず、かつそのために契約をした目的(建物の自己使用等)を達することができないときは売買契約を解除することができますし、損害が発生したときは賠償を請求することもできます(借地借家法31条2項、民法566条1項本文)。
 新所有者(買主)が対抗要件を備えた賃借人に金銭を給付して明渡しを受け自己使用の目的を達したという場合には、新所有者(買主)は、賃借人の立退きのために支払を余儀なくされた金銭相当額を損害額として売主に対してその賠償の請求をすることができます(借地借家法31条2項、民法566条1項後文)。
 新所有者(買主)による契約解除や損害賠償請求は、対抗力のある建物賃借権の存在を知ったときから1年以内という期間制限があります(借地借家法31条2項、民法566条3項)。


Q7 借家権の譲渡や転貸に賃貸人の承諾は必要ですか。

【賃貸人の承諾が必要です】
 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、借家権を譲渡したり転貸することはできません(民法612条1項)。
 資力のない者に譲渡されたり、使用方法の悪い者に転貸されることによって賃貸人が思わぬ不利益を被るのを回避するためです。

【承諾なく譲渡・転貸するとどうなるか】
 賃借人が賃貸人に無断で譲渡・転貸し、譲受人や転借人が実際に建物を使用・収益した場合には、賃貸人は借家契約を解除することができます(民法612条2項)。
    判例は、無断譲渡・転貸があっても賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があれば解除は認められないとして、解除できる場合を制限していますが、解除が否定されるのは同居の親族への譲渡など利用の主体が実質的に変わらない場合等に限定されています。


Q8 家賃の増額や減額を請求することはできますか。

【借賃増減額請求権が認められています】
 賃貸借契約締結後の時の経過により、建物の家賃が不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって家賃の増減を請求することができます(借地借家法32条1項)。
 家賃が不相当かどうかは、①土地・建物に対する租税その他の負担の増減、②土地・建物の価格の上昇・低下その他の経済事情の変動、③近傍同種の建物の家賃水準との比較などを考慮して判断されます。
 増減請求は相手方に対する意思表示によって行います。口頭で請求することも可能ですが、請求したことの証拠を後に残すために書面(配達証明付きの内容証明郵便)で行うべきです。

【まずは調停において話し合う】
 家賃の増減について当事者間の交渉がまとまらない場合、まずは調停を申し立てます(民事調停法24条の2)。
 調停によっても解決に至らない場合は、増減額を求める訴訟を提起することとなります。

【増減額が確定するまでの家賃の支払い・請求はどうするか】

〇 増額請求された場合・・・相当と認める額を支払えば大丈夫。
    家賃の増額について当事者間に協議が調わないとき、賃借人は、増額を正当とする裁判が確定するまで、自らが相当と認める額の家賃を支払うことができます(借地借家法32条2項本文)。
 ただし、その裁判が確定した場合に、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年1割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければなりません(借地借家法32条2項但書)。
 賃借人は自らが相当と認める額の家賃を支払っていれば、後にそれ以上の額の家賃を相当とする裁判が確定したとしても、原則として家賃の不払いを理由に賃貸借契約を解除されることはありません。
 もっとも、判例(最二小判平8.7.12)は、借地の事案においてですが、賃借人が自らの支払額が公租公課の額を下回ることを知っていたときは、賃借人がその支払額を主観的に相当と認めていたとしても、特段の事情のない限り、借地法12条2項にいう相当賃料を支払ったことにはならないと判示しています。
    判例が、「相当と認める額」にも限度があると判断していることに注意する必要があります。

〈賃貸人が家賃を受け取らない時はどうするか〉
 賃貸人が増額した後の家賃でなければ受け取らないとして従前の家賃を受け取ろうとしない場合、賃借人は自ら相当と認める家賃について「弁済の提供」をすることにより債務不履行責任から免れることができます(民法492条)。
    具体的には、家賃の支払いの準備をしたことを通知してその受領を催告することになります(「口頭の提供」、民法493条但書)。
 また、賃借人は、「弁済の提供」を行った上で、「供託」(民法494条以下)をすることもできます。
 供託をすれば、供託をした金額については賃料支払い義務が消滅します。

〇 減額請求された場合・・・相当と認める額を請求できる。
 家賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、賃貸人は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、自らが相当と認める額の家賃の支払を請求することができます(借地借家法32条3項本文)。
 ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた家賃を超えるときは、その超過額に年1割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければなりません(借地借家法32条3項但書)。
 賃貸人が、家賃減額に関する裁判確定までの間に賃借人に対して相当と認める家賃を請求したにもかかわらず、賃借人が自ら主張する減額後の家賃のみしか支払わない場合には、家賃不払いを理由として借家契約が解除される可能性があります。


Q9 造作買取請求権とはなんですか。

 賃貸人の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作がある場合、賃借人は、借家契約が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときに、賃貸人に対し、その造作を時価で買い取ることを請求することができます(借地借家法33条1項)。
 判例によると、「造作」とは、建物に付加された物件で、賃借人の所有に属し、かつ建物の使用に客観的便益を与えるものです。
 家具や什器のように独立性が高く、容易に取払可能で、取り払っても価値を減じないものは「造作」ではありません。
 逆に、その物が建物の構成部分になってしまう場合(付合)には、賃借人の所有に属するものではなくなってしまうので、やはり「造作」には該当しません。この場合は、費用の償還請求の問題となります(民法608条2項)。


Q10 賃料不払いや建物の用法違反を理由に賃貸借契約を解除することはできますか。

 賃料の支払いは賃借人の契約上の義務であり、それを怠ることは債務の不履行として借家契約の解除原因となり得ます。
 また、借家契約で定めた建物の用法に違反した場合も、債務の不履行として借家契約の解除原因となり得ます。
 もっとも、判例は、借家契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約であることから、その信頼関係が破壊される程度に至った場合にのみ解除が認められるとしています。
 信頼関係が破壊されたかどうかは、賃料不払いの回数や不払いに至った事情など様々な事情を考慮して個別具体的に判断されることとなります。


Q11 敷金とはなんですか。

【敷金とは】
 敷金とは、借家契約を締結するに際して賃借人から賃貸人に交付される金員で、借家契約の期間が満了して借家契約が終了するときに、支払の滞っている賃料や建物に関する損害賠償債務を控除した上で残額が返還されるものです。
 借家契約が終了した段階で延滞した賃料債務があると、当然に敷金から控除されます。相殺のような当事者の意思表示は必要ありません。
 借家契約存続中は、賃料不払いがあっても当然には敷金に充当されず、充当するかどうかは賃貸人が決めることになります。そのため、十分な敷金が差し入れてあっても、賃貸人が賃料不払いを理由として借家契約を解除することは可能です。

【建物明渡しまでに発生した債務が担保されます】
 敷金によって担保される債務の範囲は、借家契約終了時に存在する債務の他、賃借人が建物を明け渡すまでの賃料相当額の明渡義務不履行に基づく損害賠償義務も含まれます。
 そのため、賃借人が借家契約終了後も建物を明け渡さないでいると、その間の賃料相当額を債務不履行に基づく損害賠償として敷金から控除されます。
 賃貸人が返還すべき敷金の有無や金額は、賃借人が建物を明け渡すまで確定しないということになります。

【建物を明け渡さないと返還を求めることはできません】
 賃借人は、自らが建物を明け渡した後でなければ、賃貸人に対して敷金の返還を請求することはできません。
 前述のとおり、敷金は、借家契約終了後に賃借人が建物を明け渡すまでの賃料相当損害金も担保するからです。

【賃貸人が交代した場合には新賃貸人に返還を求めます】
 借家契約期間中に建物の所有権が第三者に移転した場合、賃借人が新所有者に対する対抗要件(建物の引渡あるいは賃貸借契約の登記)を備えていれば、賃貸人の地位は当然に新所有者に承継されます(Q6参照)。
 この場合、賃貸人の地位の移転に伴って、敷金も新所有者に引き継がれます。
 そのため、借家契約が終了した際に、賃借人が敷金の返還を請求すべき相手方は新所有者となります。
 もっとも、借家契約終了後に建物所有権の移転があった場合には、当然には敷金は新所有者に引き継がれません。

【賃借人が交代しても敷金は新賃借人に引き継がれません】
 賃貸人が交代した場合と異なり、賃借権が譲渡されて賃借人が交代した場合には、特段の事情のない限り、敷金に関する旧賃借人の権利義務関係は新賃借人には承継されません。
 特段の事情としては、賃貸人と旧賃借人との間で敷金を新賃借人の債務不履行の担保とすることを合意した場合や、旧賃借人が新賃借人に敷金返還請求権を譲渡した場合が考えられます。
 賃貸人としては、敷金が旧賃借人から新賃借人に引き継がれるか否かを確認した上で、賃借権の譲渡を承諾するか否か(民法612条1項)を判断する必要があります。


Q12 権利金とはなんですか。借家契約が契約期間途中で終了した場合に返還を求めることはできますか。

【権利金とは】
 賃借人から賃貸人に対して交付される敷金以外の金銭のことを総称して「権利金」と言います。
 権利金は本来予定された期間が経過すれば返還されない点で、敷金とは区別されます。

【借家契約が中途で終了したときは】
 中途で借家契約が終了した場合に権利金の返還請求が認められるか否かについては、権利金がいかなる法的性質のものとして交付されたかが一つの判断要素となります。
 権利金の法的性質としては、①場所的利益の対価(地理的に有利な店舗を一定期間借りられることの利益等)、②賃料の一部一括前払い(賃貸人が一括前払いによる運用益を得られ、賃借人にとっては月々の賃料を抑えられる)、③賃借権の譲渡性付与に対する対価(第三者への賃借権譲渡を認めることの対価)などがあります。
 ②の趣旨であれば、返還請求が認められやすいと言えますが、①や③の趣旨であると返還請求は認められにくくなると考えることができます。
 「権利金」とだけ定めただけでは、借家契約終了時にその返還をめぐって争いが生じる危険がありますから、借家契約締結時において、契約終了時の返還義務の有無とその範囲について明確に定めておくことが必要です。


Q13 借家契約を更新する際に更新料は支払わなければなりませんか。

【合意があれば支払う必要あり】
 賃貸人と賃借人との間で更新料を支払う旨の合意をした場合は、更新料を支払わなければなりません。
 更新料支払いの合意は、借家契約締結時になされることが多いでしょうが、その後になされた合意であっても構いません。
 賃借人が更新料を支払う義務があるのにそれを支払わない場合には、借家契約の解除を肯定する一事情として考慮されます。

【高額に過ぎる場合は無効になることも】
 もっとも、合意された更新料の金額が高額に過ぎる場合には、消費者契約法10条(※)に違反して無効となる可能性もあります。
 最高裁は、「賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情のない限り」消費者契約法10条(※)には違反しないと判示しました(最二小判平23.7.15)。
 そして、更新料の額を賃料(3万8000円)の2か月分とし、賃貸借契約が更新される期間を1年間とする更新料の合意につき、上記の「特段の事情」があるとは言えないとしました。
 上記判例によれば、更新料の額が高額に過ぎるなど「特段の事情」があるときは、更新料支払の合意が無効とされる余地があります。

※ 消費者契約法10条
「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」


Q14 賃借人の原状回復義務とはどの程度のことをいうのでしょうか。

【通常損耗は原則含まれません】
 賃借人は、借家契約終了後、建物を原状に復して賃貸人に返還しなければなりません(原状回復義務:民法616条・同597条1項・同598条)。
 原状回復とは、建物の賃借人が通常の使用によるものを超えて汚損や破損をした場合において、それを原状回復しなければならないことを意味します。
 逆に言えば、賃借人が社会通念上通常と考えられる使用をした場合に生じる賃借物件の劣化や価値の減少(これを通常損耗と言います。)については、その原状回復義務を賃借人の責任とする旨の特約がない限り、賃借人は原状回復義務を負いません。

【通常損耗については明確な合意が必要】
 通常損耗について賃借人が原状回復義務を負うのは、賃借人が補修費を負担することとなる損耗の範囲について、賃貸借契約書自体に具体的に明記されているか、賃貸人が口頭により説明して、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されている場合です(最二小判平17.12.16参照)。


Q15 賃借人や賃貸人が死亡した場合、借家契約はどうなりますか。

【賃借人が死亡すると・・・】
 賃借人が死亡した場合、賃貸人との間の借家関係は賃借人の相続人に相続されます(民法896条本文)。
 相続人が被相続人と同居していたか否かは結論に影響しません。
 相続人は建物を使用する権利を承継しますので、賃貸人からの建物明渡し請求に応じる必要はありません。
 他方、既に延滞賃料が発生している場合には、相続放棄等によって相続を回避しない限り、賃借人の地位を承継した相続人が延滞賃料の支払い義務を負うことになります。
 もっとも、公営住宅に関しては、最高裁(最一小判平2.10.18)が、公営住宅法の趣旨(住宅に困窮する低所得者に対して低廉な家賃で住宅を賃貸すること)などを理由に、入居者が死亡した場合、その相続人が公営住宅を使用する権利を当然に承継すると解する余地はない、と判示していますので、他の場合と区別して考える必要があります。

【賃貸人が死亡すると・・・】
 賃貸人が死亡した場合も、賃借人との間の借家契約は賃貸人の相続人が承継します(民法896条本文)。
 したがって、賃貸人の地位を承継した相続人は、賃借人に対して家賃の支払いを請求する権利を承継するとともに、建物を賃借人に使用収益させる義務を負います。


Q16 賃借人が死亡した場合、賃借人の相続人ではない同居者は建物に住み続けることはできないのでしょうか。

 居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、同居者が、その当時婚姻又は縁組の届け出をしていないものの、賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあったときは、その同居者は、死亡した賃借人の権利義務を承継します(借地借家法36条1項)。
 賃借人の地位の承継を望まない場合は、賃借人が相続人なしに死亡したことを知った後1か月以内に賃貸人にその旨を通知する必要があります(借地借家法36条1項但書)。
 また、賃借人に同居者以外の相続人がおり、上記の借地借家法36条1項の適用がない場合においても、賃貸人から明渡しを請求された内縁の配偶者や事実上の養子は、相続人が承継した借家権を援用して明渡しを拒み得ることが判例によって認められています。


Q17 定期建物賃貸借とはなんですか。どのような手続が必要となりますか。

【定期建物賃貸借とは】
 期間の定めのある借家契約であって、更新のないものを定期建物賃貸借と言います(借地借家法38条1項)。
 定期建物賃貸借契約においては、法定更新(借地借家法26条)の適用がないので、「正当事由」を伴う更新拒絶の通知がなくとも、期間満了によって賃貸借契約が終了します。
 もっとも、以下のような手続を踏まないと、定期建物賃貸借としての効果が認められないので注意が必要です。

【契約書の作成が必要です】
 定期建物賃貸借は公正証書による等書面によって契約する必要があります(借地借家法38条1項)。
 更新がないという賃借人にとって重要な効果が生じますので、賃借人が十分にその内容を認識できるようにするためです。

【書面による事前説明が必要です】
 定期建物賃貸借契約をしようとするとき、賃貸人は、あらかじめ、賃借人に対し、借地借家法38条1項の規定による借家契約は契約の更新がなく、期間の満了により終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明をしなければなりません(借地借家法38条2項)。
 書面による事前説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは無効となります(借地借家法38条3項)。
 この場合、建物賃貸借契約は、普通建物賃貸借契約として成立し、法定更新(借地借家法26条)、6か月の解約期間(借地借家法27条)、正当事由制度(借地借家法28条)の適用があります。

【期間満了時の通知が必要です】
 期間が1年以上の定期建物賃貸借契約においては、賃貸人は、期間の満了の1年前から6か月前までの間(以下、「通知期間」と言います。)に賃借人に対し期間の満了により賃貸借が終了する旨の通知をする必要があります(借地借家法38条4項本文)。
 賃貸人が、通知期間の経過後に通知をした場合は、その通知の日から6か月を経過した後に賃貸借契約が終了します(借地借家法38条4項但書)。


Q18 取壊し予定の建物の賃貸借とはなんですか。どのような手続が必要となりますか。

【取壊し予定の建物の賃貸借とは】
 法令又は契約により一定の期間を経過した後に建物を取り壊すべきことが明らかな場合において、建物を取り壊すこととなる時に賃貸借が終了する旨を定めてなされる賃貸借契約のことです(借地借家法39条1項)。
 取壊し予定の建物の賃貸借においては、法定更新(借地借家法26条)の適用がなく、建物を取り壊すこととなる時期に賃貸借契約が終了します。

【書面による特約が必要です】
 建物を取り壊す時に賃貸借が終了する旨を定める特約は、建物を取り壊すべき事由を記載した書面によってしなければなりません(借地借家法39条2項)。
 書面によらない場合には、特約は無効となり、普通借家契約として法定更新(借地借家法26条)、正当事由制度(借地借家法28条)の適用がありますので注意が必要です。