先物取引被害>損害を被った方へ

  商品先物取引により損害を被った方へ
-損害回復に向けての考え方-

弁護士大塚達生


  商品先物取引の危険性

 商品先物取引は、取引金額の5%から10%程度の証拠金で取引を行うことができるため、取引金額は証拠金の額に比べて高額となります。
 また、取引の数量の単位と値決めの対象となる数量の単位が異なっており、前者が後者よりも遙かに多いため、わずかな値動きでも多額の売買損益につながります。
 商品先物取引は、極めて投機性の高い取引なのです。
 そのうえ、商品先物取引の仕組みは複雑で、取引手法や損益計算方法を一般の人が理解することは容易ではありません。商品先物市場の価格は激しく変動しますが、価格変動要因は複雑多岐であり、一般の人が価格変動を的確に予測することは、ほとんど無理だといえます。
 商品先物取引は、一般の人が参加した場合(特に未経験者が参加した場合)、短期間で予想外に多額な損害を被る可能性の高い危険な取引なのです。
 私たちのもとへ相談に来られる商品先物取引の被害者の方々は、このような危険が現実化してしまった方々です。


 

  商品先物取引業者に勧誘され取引で大きな損害を被ってしまった場合

1 不法行為責任の追及

 商品先物取引が極めて危険な取引であることから、顧客保護のための種々の法的規制等が行われています(注)

 「商品取引所法及び商品投資に係る事業の規制に関する法律の一部を改正する法律」が、三段階に分けて施行され(第一段階は平成21年10月8日、第二段階は平成22年7月1日、第三段階は平成23年1月1日に施行)、従来の「商品取引所法」の名称が「商品先物取引法」に変更されました。
 これにより、国内取引所取引、海外取引所取引、店頭(相対)取引がともに商品先物取引法で規制されるようになりました。

 先物取引業者とその従業員(外務員)には、そのような法の規制等を遵守することはもとより、商品先物取引に十分な知識・経験を有しない者が安易に取引に手を出すことがないよう、また、顧客本人の予想しない大きな損害を被らせることがないよう努めるべき、高度の注意義務が課せられていると解されています(商品先物取引法213条も「商品先物取引業者並びにその役員及び使用人は、顧客に対して誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならない。」と規定しています)。
 先物取引業者側が、このような注意義務に違反し、不当・違法な行為によって顧客に損害を被らせた場合は、顧客の損害を賠償する責任(不法行為責任)を負います。

2 業者側の行為に不当・違法な点はなかったか?

    取引勧誘段階、取引開始段階、取引継続段階、取引終了段階の全部を通じて、先物取引業者側に不当・違法な行為がなかったかをチェックします。
 実際に行われた商品先物取引が、勧誘から取引終了までを通じて見て、先物取引業者側の一連の違法・不当な勧誘や受託業務遂行行為によるものといえる場合は、先物取引業者側の一連の行為は、社会的相当性を欠く違法なものであって、全体として不法行為を構成し、顧客に対する損害賠償義務を負うということになります。
 日光商品事件最高裁平成7年7月4日判決も、従前の数多くの地裁・高裁での裁判例を踏まえて、勧誘から取引終了までの一連の行為が不法行為にあたるという、いわゆる一体的不法行為論を採用しています。

3 チェックポイント(その1)-取引および計算関係の客観的特徴を見る-

 勧誘から取引終了までの一連の行為について違法性を判断するにあたっては、取引および計算関係に認められる客観的特徴を指標とする方法が、裁判実務上定着しています。
 この指標となる客観的特徴には各種あり、代表的な指標を挙げると、特定売買、手数料損金比率、売買回転率、利乗せ満玉などがあります。
 これらは、顧客にとって有害無益、不合理な取引内容となっていないか、先物取引業者の単なる手数料稼ぎに利用されていないかを見る指標であり、先物取引業者の手数料稼ぎのために顧客の利益が犠牲にされていないかを見ることができます。

【特定売買比率】
  特定売買とは、①直し、②途転(どてん)、③日計り(ひばかり)、④両建(りょうだて)、⑤不抜け(ふぬけ)と呼ばれている取引であり、行われた取引のうちこれらの特定売買に該当する取引の割合を特定売買比率といいます。
  「直し」は、既存の売り玉(又は買い玉)を仕切るとともに、同一日内で新規に売り玉(又は買い玉)を建てることをいいます(異限月を含みます)。このような取引は、既存の建玉をそのまま維持するのと何ら変わりはなく、徒に取引回数を増やして委託手数料の負担がかさむだけ顧客にとっては有害無益です。
 「途転」は、既存建玉を仕切るとともに、同一日内で新規に反対の建玉を行うことをいいます(異限月を含みます)。途転は、相場が逆に展開することを予想しているときに行うとされていますが、そのような予想外の相場展開の際には、仕切るべき玉を仕切ってしばらく取引を休むのが常道であり、無定見・頻繁にこのような取引を行うと、いたずらに委託手数料の負担を増やすだけに終わる取引です。
 「日計り」は、一日のうちに建玉をし、その日のうちに仕切ることです。一日では大した値動きもないのに、手数料ばかりかかることから、手数料稼ぎの徴表と評価されます。
 「両建」は、既存建玉に応させて反対建玉を行っていることをいいます(異限月を含みます)。両建は、両建したときに損金が実質的に確定するので、この時点で既存建玉を仕切るのと何ら変わりはなく、新規に反対玉を建てる点で委託証拠金、委託手数料の負担がかさむだけ顧客にとって有害無益なものです。
 「不抜け」は、売買取引により利益が発生したのに、その利益が委託手数料より少なく、売買益が手数料で食われて差引損になっているものをいいます。顧客にとって、手数料の巾を抜けられない限り利益はないのですから、特別の事情がない限り顧客にとって不合理な取引です。

 以上のような特定売買の危険性・不合理性については、過去の裁判例でも指摘されています。
 このような特定売買の割合(特定売買比率)が高い場合には、先物取引業者の手数料稼ぎのために顧客の利益が犠牲にされたと評価することができ、勧誘から取引終了までの一連の行為の違法性を判断するための有力な指標となります。

 なお、かつては行政が農水省チェックシステムと通産省MMT(ミニマムモニタリング)と呼ばれる指導基準に基づき、先物取引業者に特定売買比率等を報告させ、それをもとに行政指導等を行っていました。
 これらの指導基準は平成11年に廃止されていますが、これは行政による事前規制の緩和という流れの中で行われたもので、民事的な不法行為を判断する上での指標としての意味がなくなったわけではありません。
 そもそも、「規制緩和」一般に通じる議論ですが、行政による事前規制が緩和されたからこそ、司法による事後救済が重要となっているのです。
 もともと、行政がこれらの基準によって特定売買比率等を報告させ、それをもとに行政指導等を行っていたのは、特定売買比率の高い取引には委託者保護の点で問題があるからです。このこと自体は、これらの行政指導基準の廃止によっても変わりはなく、先物取引業者側の不法行為を判断する上で、特定売買比率は依然として意味のある指標だといえます。

【手数料損金比率】
 手数料損金比率とは、取引で損金が発生した場合に、損金の中に占める委託手数料の割合を見る指標です。損金のうち、どの位の割合を手数料名下に先物取引業者が直接取得したのかを端的に示す指標です。
 一連の取引が、顧客のために行われたのか、あるいは顧客を犠牲にして先物取引業者の利益を追求するために行われたのかという、違法性判断の指標の一つになります。

【売買回転率】
 売買回転率とは、取引回数を取引期間の日数で割ったものです。
 例えば、全取引回数を200回、全取引期間を60日として売買回転率を算出すると、0.3日に1回(月平均100回)という計算になります。
 取引回数は、建てて仕切る毎に1回と数えます。分割して仕切る場合は、それぞれを1回に数えます。
 高い売買回転率は、先物取引業者による手数料稼ぎにつながりますので、これも違法性判断の指標の一つとなります。

【利乗せ満玉】
 利乗せ満玉(りのせまんぎょく)とは、委託証拠金の限度一杯の取引を行い、建玉を仕切った場合に生じた益金を顧客に返還しないでこれを証拠金に振り替え、その増加した証拠金で建玉可能な限度一杯の取引を継続することをいいます。
 相場が予想と反対に動いた場合は、それまでに預託した証拠金と生じた利益金を失うばかりか、多額の差損金が発生しかねません。
 利乗せ満玉をした後、仮に相場の予想が当たったとしても、さらに利乗せ満玉を行えば、また同じ状況になります。むしろ、建玉数が増大した分、相場の予想が外れた場合の危険の大きさは膨張することになります。
 利乗せ満玉を繰り返せば、一度相場の予想が外れただけで、それまで預託した証拠金全額と益金全額を失うことになり、さらにそれ以上の差損金が発生する場合もあるのです。
 一般の顧客にとって相場予想は困難であり、繰り返し予想を的中させることなど不可能ですから、利乗せ満玉を繰り返せば、確実にどこかで破綻することになります。
 このように、利乗せ満玉は、顧客にとって極めて危険で不合理な取引手法だといえます。
 もし先物取引業者の勧誘により繰り返し利乗せ満玉が行われていたのであれば、先物取引業者側の一連の行為の違法性が強く疑われるといえます。

4 チェックポイント(その2)-顧客保護のためのルールに違反していないか-

 前述したように、商品先物取引が極めて危険な取引であることから、顧客保護のための種々の法的規制等が行われています。
 先物取引業者がこれらの規制等に違反することは、顧客保護をないがしろにするものであり、不法行為における違法性を判断する上での重要な要素となります。
 具体的には、次のようなものがあります(「法」とは商品先物取引法のことで、「規則」とは商品先物取引法施行規則のことです)。 

【のみ行為の禁止】
 商品取引員が、受けた委託について、商品市場 (商品取引所)につながずに、自己がその相手方となって取引を成立させることの禁止(法212条)。

【不当な勧誘の禁止】
 次の勧誘行為は禁止されています。

・ 顧客に対して、不確実な事項(例えば利益が出る等)について断定的判断を提供し、又は確実であると誤認させるおそれのあることを告げて勧誘すること(法214条1号)。
  この禁止に対する違反については、商品先物取引法自体が、商品先物取引業者の損害賠償責任を定めています(法218条4項)。
・ 商品取引契約の勧誘に関して、顧客に対し虚偽のことを告げること(法214条2号)。
 商品取引契約の締結に関して虚偽のことを告げることも禁止されています(法214条2号)。
・ 取引の委託又は申込みを行わない旨の意思(勧誘を受けることを希望しない旨の意思を含む)を表示した顧客に対し、勧誘すること(法214条5号)。
・ 顧客に対し、迷惑を覚えさせるような仕方(夜間・早朝、勤務時間中の時間帯や顧客の意思に反した長時間にわたる方法等)で勧誘すること(法214条6号)。
・ 勧誘に先立って、顧客に対して会社名と商品取引契約の勧誘である旨を告げずに、勧誘すること(法214条7号)。
・ 勧誘に先立って、商品取引契約の勧誘を受ける意思の有無を確認せずに、勧誘すること(法214条7号)。
・ 同一の商品取引所の同一の商品について、同一の限月の売建玉と買建玉を同一枚数保有すること(完全両建て)を顧客に対して勧めること(法214条8号)。
・ 商品取引契約(政令で定められたものに限る)の勧誘の要請をしていない顧客に対し、訪問し、又は電話をかけて、商品取引契約の締結を勧誘すること(委託者等の保護に欠け、又は取引の公正を害するおそれのない行為として規則102条の2で定める行為を除く。)(不招請勧誘)(法214条9号)。
・ 顧客に対し、あらかじめ損失補填等の申込みや約束をして、勧誘すること(法214条の3第1項第1号)。
・ 特別の利益を提供することを約して勧誘すること(法214条10号、規則103条1項5号)。
・ 取引単位を告げないで勧誘すること(法214条10号、規則103条1項6号)。
・ 取引に係る勧誘に関して、重要な事項について誤解を生ぜしめるべき表示をすること(法214条10号、規則103条1項8号)。
 取引の受託に関して、重要な事項について誤解を生ぜしめるべき表示をすることも禁止されています。
・ 勧誘する目的があることを顧客にあらかじめ明示しないで、顧客を集めて勧誘すること(法214条10号、規則103条1項10号)。

【一任勘定取引の禁止】
 商品市場における取引等又は外国商品市場等につき、取引の注文を行う際に顧客が指示しなければならない事項(数量、対価の額又は約定価格等)について、顧客から指示を受けないで取引の注文を受けることの禁止(法214条3号)。

【フロントランニングの禁止】
 顧客の注文を受けた場合に、当該注文を執行する前に、注文を受けたのと同一の取引を、より有利な取引価格で、自己のために行うことの禁止(法214条4号) 。

【委託者の利益を害する向かい玉の禁止】
 故意に、商品市場における取引の受託に係る取引と自己の計算による取引を対当させて、委託者の利益を害することとなる取引をすることの禁止(法214条10号、規則103条1項2号)。 

【無断売買の禁止】
 顧客の指示を受けないで、顧客の計算によるべきものとして取引をすること(受託に定める場合を除く。)の禁止(法214条10号、規則103条1項3号)。

【仕切り拒否の禁止】
 決済を結了する旨の意思を表示した委託者等(特定委託者及び特定当業者を除く。)に対し、引き続き当該取引を行うことを勧めることの禁止 (法214条10号、規則103条1項7号)。

【理解していない顧客から両建てを受注することの禁止】
 数量又は期限が同一ではない両建てであっても、その取引を理解していない顧客(特定委託者及び特定当業者を除く。)から受注することは、勧誘していなくても、禁止されています(法214条10号、規則103条1項9号)。

【適合性原則違反】
 法215条は、「商品先物取引業者は、顧客の知識、経験、財産の状況及び商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行って委託者等の保護に欠け、又は欠けることとなるおそれがないように、商品先物取引業を行わなければならない。 」と定めています。
 これを適合性の原則と呼んでいます。
 この適合性の原則に照らして不適当と認められる勧誘及び不適当と認められるおそれのある勧誘の例が、「商品先物取引業者等の監督の基本的な指針」(農林水産省・経済産業省)の16頁以下に示されています。
  具体的には、次のようなものです。

○ 適合性の原則に照らして不適当と認められる勧誘
・ 未成年、成年被後見人、被保佐人、被補助人、精神障害者、知的障害者、認知障害の認められる者に対する勧誘
・ 生活保護法による保護を受けている世帯に属する者に対する勧誘
・ 破産者で復権を得ない者に対する勧誘
・ 商品デリバティブ取引(商品先物取引はこれに含まれる)をするための借入れの勧誘
・ 損失が生ずるおそれのある取引を望まない者に対する勧誘
・ 取引証拠金等の額を上回る損失が生ずるおそれのある取引を望まない者に対する、取引証拠金等の額を上回る損失が生ずるおそれのある取引の勧誘

○ 適合性の原則に照らして不適当と認められるおそれのある勧誘
・ 年金、恩給、退職金、保険金等により生計をたてている者に対する勧誘
・ 一定以上の収入(例えば、年間500万円以上)を有しない者に対する勧誘
・ 投資可能資金額を超える損失を発生させる可能性の高い取引に係る勧誘(取引を継続することにより、投資可能資金額を超える損失が発生する可能性が高い場合に、当該取引の継続を勧める行為を含む。)
・ 高齢者(例えば75歳以上の者)に対する勧誘
・ デリバティブ取引の経験がない者に対する勧誘

【説明義務違反】

○ 仕組み・リスク等の説明義務
 商品先物取引業者は、商品取引契約を締結しようとする場合には、あらかじめ、顧客に対し、取引の仕組み・リスク等(商品先物取引のように、取引証拠金等の数倍から数十倍の額の取引を行うレバレッジ取引の場合に、取引の額が取引証拠金等の額を上回る可能性があること、レバレッジ比率、損失の額が取引証拠金等の額を上回ることとなるおそれがあること等)について、法217条1項に定める「書面」(契約締結前交付書面)を先に交付した上で、対面若しくは電話による口頭で、又はインターネット等を介した方法で説明する義務があります(法217条、218条1項、規則104条~107条)。
 この説明は、顧客の知識、経験、財産の状況及び当該商品取引契約を締結しようとする目的に照らして、当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度によるものでなければなりません(法218条2項)。

○ 向かい玉の場合の説明義務
 商品先物取引業者が、顧客から取引の委託を受けようとする際、故意に、同一期限の同一商品について、受託に係る取引と自己の計算による取引を対当させる取引を行っている場合には、顧客に対し、そのような取引を行っている旨、及び委託に係る取引と商品先物取引業者の自己の計算による取引が対当した場合には、顧客と商品先物取引業者との利益が相反するおそれがある旨を、説明しなければならず、この説明をせずに顧客から取引の委託を受けることは禁止されています(法214条10号、規則103条1項21号)。

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