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  商品先物取引による損害の回復事例(2)

弁護士大塚達生


    2008年に相談を受けたAさんの場合は、株取引の経験もなく、商品先物取引の経験もなかったAさんが、B社の外務員から勧誘されて先物取引を行い、2004年から2005年にかけて4か月弱の間に、約2800万円の損害を被ったとのことでした。

    Aさんは、友人のアドバイスに従い、B社に宛てて、商品先物取引による損害の賠償を求める請求書を郵送していましたが、B社はそれに応じませんでした。

    Aさんからの相談を受けた後、委託者別先物取引勘定元帳や委託者別証拠金等現在高帳などの取引データをB社から開示してもらい、それを分析したところ、次のようなことが判明しました。   

(1) 116日間という短期間に217回の建玉と337回の仕切玉が行われており、合計554回もの取引が行われている。 → 極めて多い取引回数
(2) 全取引回数を337回、全取引期間を116日として売買回転率を算出すると、0.344日に1回(月平均87.16回)という極めて高い売買回転率になる。
(3) 取引は合計で11種類もの商品に及んでおり、これらの先物の売買数量は延べ3054枚に達し、全部で217回の建玉のうち、取引金額が1000万円を超える高額な建玉が119回もあり(建玉回数の54.84%)、取引金額が5000万円台や6000万円台になる巨額な建玉もある。 → 多すぎる商品数と大量の取引
(4)  いわゆる特定売買比率が72.7%と異常に高く、そのことだけでも、取引の7割以上が、委託手数料の負担がかさむだけの不合理で有害無益な取引だったと評価できる。 → 顧客にとって不利益な取引内容
(5) 差引損益金がマイナスとなっているものが仕切玉全体の60.24%にも及んでいる一方で、差引損益金がプラスとなったもののうち10万円以上の差引益金が発生した仕切玉は仕切玉全体の8.61%にすぎず、50万円以上の差引益金が発生した仕切玉となると仕切玉全体の0.89%にすぎない。 → 顧客にとって不利益な取引内容
(6) 証拠金に余裕をもたせた取引状況になっておらず、30回もの現金による委託証拠金の預託が行われていて、預託した現金の合計は3200万円超に達している。 → 頻繁・高額な証拠金の預託
(7) 差引損金合計(2887万7590円)に占める総手数料(1893万3390円)の割合(手数料損金比率)が65.56%と著しく高率である。

 これらの分析結果から、B社の外務員に勧誘されてAさんが行った先物取引の実態は、Aさんの犠牲の下にB社が手数料を稼ぐことを目的とした過当取引であると判断できました。

 このことは、顧客の利益に配慮すべきB社と外務員の注意義務に反するだけでなく、委託者の犠牲の下に商品取引員が自己の利益を追求するという背任的行為でもあり、社会的相当性を逸脱していると評価できました。

    そこで、こちらからB社に対して、不法行為に基づく損害賠償を求める訴訟を提起し、裁判所で審理が行われました。

    訴訟の中でB社が開示した同社の受託業務管理規則(Aさんの取引当時のもの)では、先物取引の経験のない委託者については、3か月の習熟期間を設け、その期間中は委託者の資質の向上と委託者保護を図るために、当該委託者からの受託は50枚以下を限度とするという原則が定められていました。

    ところが、Aさんの取引開始日に240万円の委託証拠金が預託され、その証拠金額による限度一杯の40枚の建玉が行われ、翌日にはさらに240万円の委託証拠金が追加預託されて、またも証拠金額による限度一杯の40枚の建玉が新たに行われ、取引開始日からわずか一日で、新規委託者保護のための原則が破られるという事態になりました。

    その後も建玉枚数残高は増加し、上限枚数(50枚)の2倍超、3倍超となり、その間に差引損益金累計のマイナスがどんどん拡大しました。

    B社と外務員の行為は、新規委託者についてその保護育成を図るために当初の取引期間において過大な取引を行わないという注意義務を全く無視するものでした。

    Aさんに11種類もの商品先物を取引させていることからしても、B社と外務員が未経験者に対して何らの配慮もしていないことが分かりました。

    また、B社は、主務官庁によって、平成19年と平成20年の2度にわたり、商品取引所法違反を理由に、業務停止処分を受けていました。処分理由は多岐にわたっていましたが、法が規定する不当な勧誘等の禁止に違反する行為が多数認められ、営業部門における法令遵守の徹底が必要と認められたということが、処分理由にあげられていました。訴訟では、これらのことも主張しました。

    このような経過から、訴訟では人証調べに入らずに、裁判所が双方に和解を打診し、Aさんの損害額の7割強をB社が支払うことを内容とする和解が成立しました。

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