欠陥建築被害>建築士の責任

  建築士の責任

弁護士大塚達生


1 建築士の損害賠償責任

(1) 設計に係る建物を法令又は条例の定める基準に適合させる義務に違反した場合
(2) 設計契約に反する設計を行った場合
(3) 工事監理者である建築士が工事監理を怠った場合
(4) 工事監理を行い、工事が設計図書のとおりに実施されていないと認めたが、その後の義務を怠った場合
(5) 設計者または工事監理者が、建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務に違反した場合

2 名義貸し建築士の責任


1 建物士の損害賠償責任

 建築士は、建築物に関し、設計、工事監理その他の業務を行います(建築士法2条1項~4項)。
 建築士は、これらの業務を行う中で、損害賠償責任を負うことがあります。

(1) 設計に係る建物を法令又は条例の定める基準に適合させる義務に違反した場合

 建物の設計者である建築士は、設計に係る建物を法令又は条例の定める建築物に関する基準に適合させる義務を負っています(建築士法18条1項)。
 設計者である建築士がこの義務に違反したことによって、建物が法令又は条例の定める基準に適合せず欠陥が生じた場合、建築士に対して、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)を行うことが可能です。
 なお、建築士が建築主と設計契約を結んでいた場合は、建築士は、その契約に基づき、建築主に対して、建物が法令又は条例の定める基準に適合するよう設計する債務を負っています。
 建築士がその債務を履行せず、それによって建物が法令又は条例の定める基準に適合せず欠陥が生じた場合、建築士に対して、債務不履行に基づく損害賠償請求(民法415条)を行うことも可能です。

(2) 設計契約に反する設計を行った場合

 建築士が建築主と設計契約を結んでいた場合、その契約に基づき、建築士は建築主に対して直接、設計を行う債務及びそれに付随する債務を負っています。
 建築士が、これらの債務の本旨に従った履行をせず、それによって建物に欠陥が生じているときは、建築士に対して、債務不履行に基づく損害賠償請求(民法415条)を行うことも可能です。
 例えば、建築主と建築士の間で、具体的な性能・仕様等を確保することが合意され、それを実現するための設計を行うことが合意されたにもかかわらず、これとは異なる設計(当事者間であらかじめ了解されていた範囲内の変更といえるようなものではない)が行われ、予め合意された設計内容により得られるはずの性質(性能、仕様等)を欠く場合には、これにより建築主が被った損害について、建築士は債務不履行に基づく損害賠償義務を負うことになると思われます。
 この場合、契約内容・合意内容を無視して、一般的な効用・安全性・構造耐力を口実にして欠陥を否定することは、できないと思われます。(注)

(3) 工事監理者である建築士が工事監理を怠った場合

 「工事監理」とは、その者の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認することをいいます(建築士法2条7号)。
 工事監理者である建築士は、自分の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認する義務を負っています(建築士法2条7号)。
 工事監理者である建築士がこの義務に違反したことによって、工事が設計図書のとおりに実施されていないことを見逃し、建物に欠陥が生じた場合、建築士に対して、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)を行うことが可能です。
 なお、建築士が建築主と工事監理契約を結んでいた場合は、建築士は、その契約に基づき、建築主に対して、工事監理を行う債務を負っています。
 建築士がその債務を履行せず、それによって工事が設計図書のとおりに実施されていないことが見逃され、建物に欠陥が生じた場合、建築士に対して、債務不履行に基づく損害賠償請求(民法415条)を行うことも可能です。

(4) 工事監理を行い、工事が設計図書のとおりに実施されていないと認めたが、その後の義務を怠った場合

 建築士は、工事監理を行う場合において、工事が設計図書のとおりに実施されていないと認めるときは、直ちに、工事施工者に対して、その旨を指摘し、工事を設計図書のとおりに実施するよう求め、工事施工者がこれに従わないときは、その旨を建築主に報告するという義務を負っています(建築士法18条3項)。
 工事監理者である建築士がこれらの義務のいずれかに違反し、それによって工事が設計図書のとおりに実施されず、建物に欠陥が生じた場合、建築士に対して、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)を行うことが可能です。
 建築士が建築主と工事監理契約を結んでいた場合、その契約に基づき、建築士は建築主に対して直接、工事監理を行う債務及びそれに付随する債務を負っています。
 工事が設計図書のとおりに実施されていないと認めるときは、直ちに、工事施工者に対して、その旨を指摘し、工事を設計図書のとおりに実施するよう求め、工事施工者がこれに従わないときは、その旨を建築主に報告するということも、この債務の内容となります。
 建築士が、この債務を履行せず、それによって工事が設計図書のとおりに実施されず、建物に欠陥が生じた場合、建築士に対して、債務不履行に基づく損害賠償請求(民法415条)を行うことも可能です。

(5) 設計者または工事監理者が、建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務に違反した場合

 「欠陥建築・欠陥住宅の被害を受けたら」のページでも説明しましたが、建物の建築に携わった設計者、施工者及び工事監理者に対し、建物の基本的な安全性を損なう瑕疵について、不法行為に基づく損害賠償請求を行うことが可能な場合があります。
 設計者、工事監理者である建築士は、このような損害賠償責任を負うことがあります。

 平成19年7月6日最高裁第二小法廷判決は、次のように判示しています。

「建物の建築に携わる設計者、施工者及び工事監理者(以下、併せて「設計・施工者等」という。)は、建物の建築に当たり、契約関係にない居住者等に対する関係でも、当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負うと解するのが相当である。そして、設計・施工者等がこの義務を怠ったために建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命、身体又は財産が侵害された場合には、設計・施工者等は、不法行為の成立を主張する者が上記瑕疵の存在を知りながらこれを前提として当該建物を買い受けていたなど特段の事情がない限り、これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負うというべきである。」

 そして、平成23年7月21日最高裁第一小法廷判決は、この平成19年最高裁判決にいう「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは何なのかについて、次のように判示しています。

「居住者等の生命、身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい、建物の瑕疵が、居住者等の生命、身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず、当該瑕疵の性質に鑑み、これを放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合には、当該瑕疵は、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当すると解するのが相当である。

 この平成23年最高裁判決によって高裁に差し戻された後の平成24年1月10日福岡高裁判決は、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵の存在を認め、設計及び工事監理者らには瑕疵の存在につき確認すべき注意義務を怠った過失が認められるとして、損害賠償責任を認めています。

2 名義貸し建築士の責任

 建築士の中には、建築確認申請用の図面と書類を作成し、確認申請を代行して行う場合に、工事監理については引き受けておらず、実際に工事監理をしないのに、確認申請書の工事監理者名欄に自分の氏名を記載する人がいます。
 工事監理を行わないにもかかわらず、確認申請書上の工事監理者として名義を貸す行為です。
 工事監理が行われていないため建物に欠陥が発生した場合、工事監理者として名義を貸した建築士は損害賠償責任を負うのでしょうか。
 かつての地方裁判所、高等裁判所の判決は、建築士の不法行為責任を認めるものと認めないものとに分かれていました。
 しかし、名義貸しの場合でも建築士の不法行為責任を認めた最高裁判決が、平成15年11月14日に出ました。
 これにより、その後の裁判実務は、この最高裁判決に従って行われています。

【最高裁第2小法廷平成15年11月14日判決】
 裁判所HP・判例検索システムの最高裁判所判例集に掲載された要旨

1 建築士は,その業務を行うに当たり,建築物を購入しようとする者に対する関係において,建築士法3条から3条の3まで及び建築基準法(平成10年法律第100号による改正前のもの)5条の2の各規定等による規制の潜脱を容易にする行為等,その規制の実効性を失わせるような行為をしてはならない法的義務があり,故意又は過失によりこれに違反する行為をした場合には,その行為により損害を被った建築物の購入者に対し,不法行為に基づく賠償責任を負う。

2 一級建築士又は二級建築士による設計及び工事監理が必要とされる建物の建築につき一級建築士が建築確認申請手続を代行した場合において,建築主との間で工事監理契約が締結されておらず,将来締結されるか否かも未定であるにもかかわらず,当該一級建築士が,建築主の求めに応じて建築確認申請書に自己が工事監理を行う旨の実体に沿わない記載をし,工事監理を行わないことが明確になった段階でも,建築主に工事監理者の変更の届出をさせる等の適切な措置を執らずに放置したこと,そのため,実質上,工事監理者がいない状態で建築された当該建物が重大な瑕疵のある建築物となったことなど判示の事情の下においては,当該一級建築士の上記行為は,建築士法3条の2及び建築基準法(平成10年法律第100号による改正前のもの)5条の2の各規定等による規制の実効性を失わせる行為をしたものとして当該建物を購入した者に対する不法行為となる。


 契約内容・合意内容と異なる工事につき瑕疵があるとした判決

 平成15年10月10日最高裁第二小法廷判決は、建物建築工事請負契約において、請負人と注文者の間で、建物の耐震性を高めるために、一部の主柱につき、当初の設計よりも太い鉄骨を使用することが特に約定されていたという事案について、この約定よりも細い鉄骨を使用した主柱の工事につき瑕疵があるとしました。

 原審の大阪高裁平成14年10月15日判決は、請負人には主柱に約定よりも細い鉄骨を使用したという契約違反があるが、実際に使用された鉄骨であっても、構造計算上、居住用建物としての安全性に問題はないとして、その主柱に係る工事について瑕疵があるということはできないとしました。

 しかし、上記の最高裁判決は、この高裁判決の判断は是認できないとし、約定よりも細い鉄骨を使用した主柱の工事につき瑕疵があるとしました。

 この最高裁判決は、契約目的物がもつ(建物の安全性という)通常の効用の点では何ら問題がない場合にも、合意の内容と不一致があれば瑕疵にあたることを明らかにしました。

 この最高裁判決が判示したことは当然の理にすぎませんが、これは契約というものに対する理解が乏しく、後になってから「問題はない。」「支障はない。」と言えば済むと安易に考えている建築業界の人々への警鐘ともいえます。

 この最高裁判決の考え方は、建築主と建築士の間で、具体的な性能・仕様等を確保することが合意され、それを実現するための設計を行うことが合意されたにもかかわらず、これとは異なる設計(当事者間であらかじめ了解されていた範囲内の変更といえるようなものではない)が行われ、予め合意された設計内容により得られるはずの性質(性能、仕様等)を欠く場合にも、あてはまるものと思われます。

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