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  遺言がないとき、どのような基準で遺産は分けられるか

弁護士 野村和造  弁護士 大塚達生


1 遺言書がないとき

 遺産の処分方法を定めた遺言がない場合、相続人は、法律が定める相続分にしたがって、遺産を相続します。
 これを法定相続分といいます。
 被相続人が遺言で相続分を定めた場合、その指定は遺留分を侵害しない範囲で法定相続分に優先します。

2 法定相続分

(1) 法定相続分/配偶者と子が相続人である場合

 この場合の法定相続分は、次のとおりです。
  配偶者 1/2
  子   1/2

【子が複数いる場合】
  子が複数いる場合、子のそれぞれの相続分は、1/2を子の人数で等分にしたものです。
(例1) 子が2人
   配偶者 1/2
   子A  1/2 × 1/2 = 1/4
   子B  1/2 × 1/2 = 1/4

【嫡出子と非嫡出子がいる場合】 
 嫡出子と非嫡出子(婚姻関係のない男女間の子)の両方がいる場合でも、嫡出子と非嫡出子の相続分は同じです。
 かつて、民法で、非嫡出子の相続分を嫡出子の1/2と定めていました(平成25年改正の前の900条4号但し書前段)。
 しかし、この規定は、平成25年9月4日、最高裁大法廷によって、「遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していた」と判断されて、その効力を否定され、その後、平成25年11月の民法の一部改正によって削除されました(詳しくは注1)

【代襲相続がある場合】
 代襲相続がある場合は、代襲者の相続割合は、代襲される者の相続分を代襲者の数で等分したものです。
(例2) 子2人(A、B)のうち1人(B)は死亡し、Bの子が2人(C、D)。
   配偶者 1/2
   子A  1/2 × 1/2 = 1/4
   孫C(Bを代襲)   1/2 × 1/2 × 1/2 = 1/8
   孫D(Bを代襲)   1/2 × 1/2 × 1/2 = 1/8

(例3) 子2人(A、B)のうち1人(B)は死亡し、Bの子が2人(C、D)いたが、そのうちの1人(D)が死亡し、Dの子が2人(E、F)。
   配偶者 1/2
   子A   1/2 × 1/2 = 1/4
   孫C(Bを代襲)   1/2 × 1/2 × 1/2 = 1/8
   ひ孫E(Bを代襲すべきDを再代襲)   1/2 × 1/2 × 1/2 × 1/2 = 1/16
   ひ孫F(Bを代襲すべきDを再代襲)   1/2 × 1/2 × 1/2 × 1/2 = 1/16

(2) 法定相続分/配偶者と直系尊属が相続人である場合

 この場合の法定相続分は、次のとおりです。
   配偶者   2/3
   直系尊属  1/3
   
【直系尊属相続人が複数の場合】
 直系尊属相続人が複数の場合(両親ともに存命の場合など)、直系尊属のそれぞれの相続分は、1/3をの直系尊属の人数で等分にしたものです。
(例4) 両親ともに存命
   配偶者  2/3
   父A   1/3 × 1/2 = 1/6
      母B     1/3 × 1/2 = 1/6

(3) 法定相続分/配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合

 この場合の法定相続分は、次のとおりです。
  配偶者   3/4
  兄弟姉妹  1/4
     
【兄弟姉妹が複数いる場合】
 兄弟姉妹が複数いる場合、兄弟姉妹のそれぞれの相続分は、1/4を兄弟姉妹の人数で等分にしたものです。
(例5) 兄弟姉妹が3人
       配偶者 3/4
    兄A     1/4 × 1/3 = 1/12
    姉B     1/4 × 1/3 = 1/12
    妹C     1/4 × 1/3 = 1/12

【全血兄弟姉妹と半血兄弟姉妹の両方がいる場合】 
 ただし、父母の両方を同じくする兄弟姉妹(全血)と、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹(半血)の両方がいる場合は、一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、両方を同じくする兄弟姉妹の1/2となります。
(例6) 兄弟姉妹が3人(A、B、C)いるが、このうちCは、被相続人の父とその後妻の子であり、被相続人とAとBは、被相続人の父とその前妻の子。
       配偶者        3/4
    兄A(全血)  1/4 × 2/5 = 1/10
    姉B(全血)  1/4 × 2/5 = 1/10
    妹C(半血)  1/4 × 1/5 = 1/20

【代襲相続がある場合】
 代襲相続がある場合は、代襲者の相続分は、代襲される者の相続分を代襲者の数で等分したものです。
(例7) 兄弟姉妹3人(A、B、C)のうち1人(A)は死亡し、Aの子が2人(E、F)。
     配偶者 3/4
     姪E(Aを代襲)   1/4 × 1/3 × 1/2 = 1/24
     甥F(Aを代襲)   1/4 × 1/3 × 1/2 = 1/24
  姉B   1/4 × 1/3 = 1/12
  妹C   1/4 × 1/3 = 1/12

(4) 相続放棄した人がいるとき

 相続放棄をした人は、初めから相続人にならなかったものとみなされます。
 その人は初めから相続人ではなかったものとして、相続順位や相続分が決められます。
 相続放棄した人の子が代襲相続をすることもありません。

3 法定相続分の修正

(1) 特別受益の持戻し

 共同相続人の中に、被相続人から、遺贈や贈与(贈与については、婚姻・養子縁組のための贈与、生計の資本としての贈与に限ります)を受けた者がいるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産(この中には遺贈した財産が含まれています)の価額に、その贈与の価額を加えたものを相続財産とみなします(みなし相続財産)(注2)
 そして、そのみなし相続財産に各人の相続割合を乗じて各人の相続分を計算し、上記の遺贈や贈与を受けた人については、計算した相続分から、遺贈や贈与の価額を控除し、その残額をもって、その人の相続分とします。
 これがマイナスの数字になった場合、その分を他の相続人に戻す必要はありませんが、他の相続人の遺留分を侵害している場合は、侵害された相続人からの遺留分減殺請求(2019年7月1日以降に開始した相続における場合は遺留分侵害額請求(注4))に応じなければなりません。
 なお、この計算を行うにあたり、相続財産の中の負債は考慮しません。負債は、法定相続分に応じて分担することになります。

(例8) 相続人は配偶者(A)と子2人(B、C)。被相続人が相続開始の時において有した資産は2400万円で、負債は1000万円。被相続人は生前、Bに生計の資本として1200万円を贈与していた。
  (ⅰ) 相続財産(資産のみ)+生前贈与=みなし相続財産
      2400万 + 1200万 = 3600万
  (ⅱ) (ⅰ)をもとにした法定相続分は
      配偶者A 3600万 × 1/2 = 1800万
      子B   3600万 × 1/4 = 900万
      子C         3600万 × 1/4 = 900万
  (ⅲ) 生前贈与額を(ⅱ)から控除すると
      配A   1800万
      子B   900万 - 1200万 = △300万
      子C   900万
  (ⅳ) (ⅲ)を相続割合として表すと
     配偶者A 18/(18+9) = 2/3
     子B 0
     子C 9/(18+9) = 1/3
 (ⅴ) 現実にある相続財産(資産のみ)2400万を、(ⅳ)の割合で分配する。
      配偶者A 2400万 × 2/3 = 1600万
      子C   0 (生前贈与は返さなくてよい)
      子C            2400万 × 1/3 = 800万

 このような差引計算(持戻し)は、当然に行われるというものではなく、遺産分割に際して、特別受益(生前贈与・遺贈)を受けた相続人に対し、他の相続人が請求することによって、初めて行われます(注3)
 ただし、被相続人が差引計算(持戻し)を免除する意思表示をしていた場合は、行われません。この被相続人の意思表示は、特別の方式を必要とせず、遺言でも差し支えありません。
 また、平成30年民法(相続分野)改正により、婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用の建物又はその敷地を遺贈又は贈与した場合、差引計算(持戻し)を免除する旨の意思表示をしたものと推定することとなりました(注4)
 もっとも、差引計算(持戻し)を免除する場合でも、遺留分の規定に反することはできません。

(2) 寄与分

 <寄与分の制度>
 相続人が、相続財産の形成に貢献したり、被相続人の世話をしたことは、相続分を決める上で評価されないのでしょうか。
 事業の手伝い、療養看護、財産の給付、その他の方法により、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした相続人には、寄与分というものが認められます(民法904条の2)。
 寄与分が認められると、その相続人には、法定相続分とは別にその寄与分が分配されます。
 つまり、相続開始時の遺産から寄与分を控除したものを相続財産とみなし(みなし相続財産)、これに指定相続分(遺言による相続分の指定がある場合)または法定相続分の割合を乗じて、各相続人の相続分を算出し、寄与者については、それに寄与分を加えたものを最終的な相続分とします。

 なお、平成30年民法(相続分野)改正により、相続人以外の親族が無償で被相続人の療養看護等を行った場合には、一定の要件のもとで、相続人に対して金銭(特別寄与料)の支払いを請求することができるようになりました(2019年7月1日施行)(注4)

 <寄与分を決める方法>
 寄与分をいくらにするかは、相続人全員の協議で決めます。
 金額で決める方法と、遺産全体に対する割合で決める方法とがあります。
 協議がまとまらない場合や協議ができない場合は、寄与分を主張する相続人が、家庭裁判所に調停または審判の申立をして、家庭裁判所で決めることになります。
 寄与分の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した額を超えることができないとされ、遺贈の方が優先します。
 遺言により端的に相続分の指定や遺贈をすれば寄与分の問題は起こりません。

 2019年7月1日以降に開始する相続における特別寄与料については、まず特別寄与者と相続人の間で協議し、その協議が調わないとき、または協議ができないときに、家庭裁判所に対して、協議に代わる処分を請求することができます(ただし、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6箇月を経過したとき、又は相続開始の時から1年を経過したときは、請求できません)。

4 遺産分割

(1) 遺産分割のやり方

 相続財産には、不動産、現金、預貯金、有価証券など、いろいろなものがあります。
 これらの相続財産を相続分に応じてどの相続人にどう帰属させるかが、遺産分割です。
 被相続人が遺言で分割方法を指定し又は指定を第三者に委託したときは、それに従って分割します。
 そのような分割の指定がないときは、遺言で分割を禁止した場合を除き、共同相続人全員の協議で分割することができます。
 この協議によって定められた分割の結果が法定相続分と異なっていても、協議がそれでまとまるということであればかまいません。

 共同相続人の中に未成年者や成年被後見人が含まれているとき、その未成年者や成年被後見人は法定代理人によって遺産分割の協議に参加することになります。
 ただし、その法定代理人も共同相続人となっている場合は、遺産分割における未成年者や成年被後見人の利益と法定代理人の利益が相反するため、法定代理人は未成年者や成年被後見人の代理人として遺産分割の協議に参加することができません。この場合は、家庭裁判所に未成年者や成年被後見人の特別代理人を選任してもらい、その特別代理人が遺産分割の協議に参加することになります。

 遺産分割の協議がまとまったときは、協議書をきちんと作っておく必要があります。
 当事者間で協議がうまくまとまらなければ家庭裁判所の調停を利用し、それでもだめなら家庭裁判所に遺産分割の審判を申立てることになります。

(2) 遺産分割による配偶者居住権の取得

 平成30年民法(相続分野)改正により、遺産分割における分割方法の選択肢の1つとして、被相続人の配偶者が、相続開始時に被相続人所有の建物(配偶者以外の者と共有していないことが必要)に居住していた場合、終身または一定期間、配偶者に建物の使用を認めることを内容とする配偶者居住権を取得させることが可能となりました(遺言による遺贈で取得させることも可能)(2020年4月1日施行)(注4)

 なお、同じく平成30年民法(相続分野)改正により、配偶者は、相続開始時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合、遺産分割により建物の帰属が確定するまでの間(ただし相続開始のときから最低6か月間は保障)、建物を無償で使用する権利(配偶者短期居住権)を有します(配偶者が相続放棄をした場合は、建物の所有者による消滅請求を受けてから6か月を経過する日まで、配偶者短期居住権を有します)(2020年4月1日施行)(注4)

(3) 遺産分割の前に遺産に属する財産を処分した場合

 相続が開始してから、遺産分割の前に、共同相続人の一部が、遺産に属する財産を処分してしまった場合、平成30年民法(相続分野)改正により、共同相続人の全員(その処分をした共同相続人を除きます)の同意があれば、処分された財産を遺産とみなして遺産分割の対象とすることができるようになりました(2019年7月1日施行)(注4)

(4) 遺産分割の前の預貯金払戻制度

 平成30年民法(相続分野)改正により、相続された預貯金債権について、生活費や葬儀費用の支払い、相続債務の弁済などの資金需要に対応できるよう、遺産分割の前にも払戻しが受けられる制度が創設されました(2019年7月1日施行)(注4)
 具体的には、①預貯金債権の一定割合(金額による上限あり)については、家庭裁判所の判断を経なくても、金融機関の窓口における支払いを受けられるようになるとともに、②預貯金債権について、家庭裁判所の仮分割仮処分の制度が設けられます。


注1 嫡出子と非嫡出子
 法律は、婚姻届けを提出した夫婦の間の子を嫡出子とし、そうでない子を非嫡出子として、区別しています。
 そして、かつての民法900条4号但し書き前段は、複数の子の中に、嫡出子と非嫡出子の両方がいる場合、非嫡出子の相続分が嫡出子の1/2になると、定めていました。
 この規定については、法の下の平等を定めた憲法14条に違反するのではいかという問題が以前から提起され、最高裁大法廷は、平成7年7月5日に合憲の判断をしたものの(15名の裁判官のうち合憲意見が10名で違憲意見が5名)、平成25年9月4日に判断を変更し、この規定は遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたとの判断をしました(裁判官14名で審理され、全員一致の判断。)
 ただし、この平成25年9月4日の最高裁大法廷決定は、この違憲判断は、平成13年7月当時からこの決定までの間に開始された他の相続につき、民法900条4号但し書前段の規定を前提としてされた遺産分割審判等の裁判、遺産分割協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼさないとしています。
 この最高裁の判断の変更を受けて、平成25年11月21日に国会で民法の一部を改正する法律が成立し(同年12月11日公布)、非嫡出子の相続分が嫡出子の1/2になるとの部分が削除され、この改正後の民法900条の規定は、平成25年9月5日以後に開始した相続について適用することとされました。

 以上を整理すると、嫡出子と非嫡出子の法定相続分は、次のとおりになります。

【平成13年7月から平成25年9月4日の間に開始した相続について】
 平成25年9月4日最高裁大法廷決定に基づき、平成25年改正の前の民法900条4号但し書き前段は適用されず(憲法違反の法律は無効となるので)、嫡出子と非嫡出子の法定相続分は同じです。
 ただし、すでに裁判、合意等によって法律関係が確定的となったものについては、それが同改正前の民法900条4号但し書前段の規定を前提としたものであっても、その法律関係はそのままです。

【平成25年9月5日以後に開始した相続について】
  平成25年改正の後の民法900条が適用され、嫡出子と非嫡出子の法定相続分は同じです。

注2 遺贈と贈与
 遺贈(いぞう)とは、遺言によって財産を無償で与えることです。
 贈与は生前の行為であり、贈与を受ける人との間の契約であるのに対して、遺贈は死後の行為であって、契約ではありません(遺贈する人の単独行為です)。
 遺贈を行うのに、遺贈を受ける人の承諾はいりません。
 また、遺贈は、相続人に対してもできますし、相続人以外の人に対してもできます。

注3 特別受益に関する証明書の作成
 このように特別受益があることにより相続分ゼロとなる場合があるため、特別受益を受けたとの証明書を作成して登記手続などに利用するということも行われています。
 「特別受益証明書」とか「相続分の無いことの証明書」などというものです。
 実際は遺贈も贈与も受けていないのに、これらの書類への署名・押印を求められた場合は、安易に署名押印せず、本当に相続分ゼロでよいか、よく考える必要があります。

注4 民法(相続分野)改正による制度変更(平成30年改正)
 平成30年の民法(相続分野)改正については,こちらの記事をご覧ください。
 相続法が変わりました(事務所だより2019年8月発行第59号掲載)