刑事裁判」カテゴリーアーカイブ

黙秘/山岡遥平(事務所だより2019年1月発行第58号掲載)

 皆さんは、刑事事件の被疑者・被告人の黙秘について、どうお考えでしょうか。

 真実を語らないなんてけしからん、反省していない、しゃべらないのは疚しいことがあるからに違いない、そう思われる方もいらっしゃるかと思います。私も、弁護士でなかったらそう考えていたかもしれません。

 黙秘が理解を得にくい背景には、やはり、刑事事件という、社会的な「悪」やひずみが顕在化した刑事事件における、「悪」と名指された側の防御手段であるということがあるでしょう。しかし、再審請求がされた袴田事件のように、本当ではない自白をしてしまうこともあるのです。
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窃盗癖(クレプトマニア)/石渡豊正(事務所だより2018年1月発行第56号掲載)

 Tさんは、窃盗罪(万引き)で2度の執行猶予付き判決(懲役刑)を受け、しかも2度目の執行猶予は保護観察付きでした。その2度目の執行猶予中に、再び万引きを行いました。

 Tさんには数百万円もの十分な預金があります。それに対し、万引きした商品は合計約1900円。次に万引きで捕まれば懲役の実刑を受けるであろうことも理解していました。それでも万引きをしてしまったのです。得られる利益と失うものの大きさがあまりにアンバランスで、Tさんの動機はどうしても理解できません。

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無罪判決を受けて/石渡豊正(事務所だより2014年8月発行第49号掲載)

news201408_small 先日、初めて刑事事件の無罪判決を獲得しました。
 事案は、交差点における自転車同士の死亡事故です。
 略式手続(簡易裁判所において公判手続を経ないで罰金又は科料を科する手続)で罰金刑の言渡しを受けた後に弁護人に就任し、異議申立後の正式裁判で無罪判決となりました。
 本件で裁判所が認定した事実は以下のようなものでした。

 被告人は前方に赤信号を認めて交差点手前で約1分停止した後、右方を確認しながら再び歩くほどの速さで徐行し始めた。そして、右方の歩道(下り坂)から被害者の自転車が向かって来るのを確認したため停止した。しかし、被害者は相当の高速度(時速25ないし30キロメートルないしそれ以上)で進行しており、被告人を認めて驚愕のため適切なブレーキ操作やハンドル操作をすることができずに自転車もろとも転倒した。被告人の自転車と被害者の自転車が衝突したとは認定できない。

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最高裁判事の補足意見が訴えかけるもの/大塚達生(事務所だより2011年9月発行第43号掲載)

news201109_small 被告人が犯罪を行ったことを否定しており、被告人による犯罪を裏付ける客観的証拠がないにもかかわらず、被害者だという人の供述に基づいて、被告人が有罪とされてしまう刑事裁判の事例は多い。 被告人の供述(弁解)は「信用できない」として簡単に排斥されてしまうのに対し、「被害者」の供述は信用できるとされがちである。その際の理由付けに使われるのは、「被害者」の供述の内容に一貫性があるとか、真に体験した者でなければ供述できない程の迫真性を有しているといったことが多い。

  だが、そのような場合でも、弁護人の目から見れば、「被害者」が単純な内容を述べているだけで、実際に体験していなくても供述することが可能と思えるような内容にすぎなかったり、あるいは、単に検察官の誘導尋問に乗っかっただけで、本人の口から具体的に語られているとはいいがたい供述であったりということがある。このような場合に「被害者」の供述だけに基づいて被告人を有罪とすることは、危険なことである。 続きを読む

冤罪と自白/野村和造(事務所だより2009年8月発行第39号掲載)

news0908_small 足利事件の菅家さんは、17年半もの苦しみの後、ようやく釈放された。
 控訴審で弁護側は、DNA鑑定の信頼性や自白の客観的事実との食い違いを指摘したが無期懲役判決がなされ、1996年5月最高裁への上告。
 弁護側は、最高裁に、菅家さんの毛髪のDNA型が犯人のものと一致しないとの鑑定結果や科警研DNA鑑定の問題性を指摘した専門家意見などを補充書で提出し、DNA再鑑定の必要性を主張したが、2000年7月、上告棄却。2002年12月宇都宮地裁に再審請求がなされ、2008年2月却下。そして東京高裁でやっとDNAの再鑑定が認められたものである。

  問題があるDNA鑑定について、最新の技術による再鑑定が拒絶され続けてきたことの重要な原因の一つには、自白に対する過信があると思う。
 死刑や無期になるような事件で自らに不利益なことをいうはずがないという思い込みは多くの人々やマスコミだけでなく、裁判官をも支配しているように思える。

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