弁護士への大量不当懲戒請求/嶋﨑量(事務所だより2019年1月発行第58号掲載)

 弁護士への大量不当懲戒請求が報道されていますが、私自身もこの被害者の一人です。2017年11月以降、同一理由で958件もの大量の懲戒請求を受けています。

 これに対しては、私が原告となり、2018年11月以降、懲戒請求者に対する民事訴訟を提起しており(*1)(事前の和解に応じない懲戒請求者は、順次全員を提訴予定)、この件も各種メディアで報道されました。ご依頼者含め報道をみた皆さまから、お気遣の言葉をお掛けいただきました。ご心配をお掛けして申し訳ありません。この場を借りて、少し背景など説明をさせていただきます。

 弁護士の不祥事などを対象にした懲戒制度は弁護士会が担っていますが、誰もが無料で申立が可能です。その制度を悪用し、インターネットを通じいわゆる「ネトウヨ」が弁護士への懲戒請求が呼びかけ、懲戒請求が行われているのです。

 私への懲戒請求の発端は、私と同じく労働弁護団等で活動する佐々木亮弁護士に対し行われた1000件超の懲戒請求です。佐々木弁護士への懲戒理由は弁護士会の出した「違法である朝鮮人学校補助金支給要求声明に賛同し、その活動を推進する行為は…二重の確信的犯罪行為である」というものでした。
 そもそも佐々木弁護士はこの声明作成にも、朝鮮学校の問題にも一切関与していません。にもかかわらず、佐々木弁護士が狙われたのは、労働弁護士として関わる争議が原因と推測されます。懲戒請求を呼びかけるサイト関連本など「ネトウヨ」御用達となっている青林堂という出版社の労使紛争で、佐々木弁護士は会社と対峙する労働組合の代理人であり、これが原因としか考えられません。

 佐々木弁護士がTwitter上で、この大量の懲戒請求へ抗議していました。これに呼応する形で私もTwitterでたった一度、「何で懲戒請求されてるのか、ほんと謎です。酷い話だ」と発信しました。この唯一の発信が、今度は私への懲戒請求の原因となり、「この件は共謀による脅迫罪として別途告発されている事案である。」とされ大量の懲戒請求がなされました。
 この懲戒請求は、歪んだ正義感から組織的に在日朝鮮人への攻撃の一環として、現実の行動を伴い行われました。その薄気味悪さは筆舌に尽くしがたいものです。
 ブログ上で、私は「テロリスト」「反日勢力」であるとされ、懲戒請求のみならず刑事告訴もされています。「少しでも刃向かうヤツは全て攻撃する」と威迫して、私自身の弁護士としての訴訟活動、表現活動など萎縮させようとしているのでしょう。

 私は、これまでライフワークとして、労働問題だけでなく、生活保護受給者の支援、外国人労働者の支援なども行ってきました。こういった私の活動は、懲戒請求者には「気にくわない」もので、放置すると今後私の弁護士としての活動に対して、さらなる妨害の可能性もあります。

 とはいえ、懲戒請求に法的措置をとると更なる攻撃を生む可能性もあり、「放置」という大人の対応も勧められました。
 ですが、ここで毅然とした法的措置をとらねば、これまで私が労働弁護士として一緒に歩んできた、理不尽に対し必死に抗ってきた労働者の皆さんに合わせる顔がないな、とも思いました。
 しかも、放置すると差別への抵抗や援助をも萎縮させ、「面倒に関わらないでおこう」という風土をも助長します。朝鮮学校の問題に無関係な私でさえ攻撃される現状で、「ネトウヨ」的言動に抗う言動を避けて関わらないで置こうとする空気は、既に一般社会だけでなく弁護士の間にも相当拡がっています(それこそが、彼らの狙い)。毅然とした対応により、現在の歪んだ言論空間を正す契機になればとも思っています。

*1:判例は、根拠を欠く場合ことを知りながらあえて懲戒を請求する場合、懲戒請求自体が不法行為となり損害賠償請求の対象となるとしています。