貸し手と借り手どちらの責任/大塚達生(事務所だより2018年9月発行第57号掲載)

 今年に入り、不動産会社スマートデイズ(東京都)によるシェアハウスのサブリース事業の破綻が、様々に報道されています。

 同社は、トイレや浴室が共用の賃貸住宅(「かぼちゃの馬車」というブランド名の女性専用シェアハウス)を次々と建て、家賃収入を得られる投資物件として販売し、購入者(オーナー)との間でサブリース契約を結んでいました(同社が一括借り上げして家賃収入を保証するという仕組みです)。
 購入者は、銀行から購入代金の融資を受け、スマートデイズ社から入る家賃で融資の返済を行う予定でした。自己資金ゼロで不動産投資ができて、長期の賃料収入が約束されるという投資モデルでした。購入者への融資を次々と積極的に行っていたのは、スルガ銀行でした。

 しかし、シェアハウスの実際の入居率は低く、スマートデイズ社は新たな物件の販売で得た資金を、保証した家賃の支払いにあてる「自転車操業」の状態だったようです。
 スルガ銀行が新規融資を止めると、スマートデイズ社は資金繰りが行き詰まり、4月に倒産し、現在は破産手続中です。購入者には、同社から入るべきはずの家賃が入らず、銀行への返済ができなくなりました。

 購入者が負っている銀行からの借入債務の額は、シェアハウス物件の実勢価格を大きく超えているようであり、物件を売却しその代金で債務を完済するというのは難しいようです。結局、銀行には、返済が滞った膨大な貸出金(不良債権)が積み上がったことになります。
 7月16日の報道によれば、スルガ銀行のシェアハウス関連の融資額は2035億円、借り手は1258人にのぼり、融資が焦げ付く懸念から、多額の貸し倒れ引当金を計上したとのことです。
 90年代前半、異常な不動産投機とその破綻、それによる莫大な不動産融資の焦げ付き(不良債権化)について、毎日のように報道されていました。今回のシェアハウス事業の破綻騒動は、それを彷彿とさせる出来事です。

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 スマートデイズ社の行為は、自ら締結したサブリース契約に違反しているので、同社が購入者に対して債務不履行責任を負うのは当然です。しかし、同社は既に破産しており、同社の責任が認められたからといって、購入者にとって問題の解決にはなりません。

 購入者にとっての最大の問題は、スルガ銀行からの融資の返済をどうするかという点です。
 報道によれば、購入者らを支援する弁護団は、「スルガが関与しなければこのような大規模な詐欺的仕組みはあり得なかった。スルガがまともなら、このようなシェアハウスは売れることもなかった。スルガが融資してくれるから、みんな信用して入っていった」と指摘し、スルガ銀行の責任を主張しています。
 また、購入者らは、スルガ銀行の融資審査を受けるにあたり、資産状況を示す資料として、預金通帳等のコピーを販売会社に渡し、手続を任せていたそうですが、預金残高などが、スルガ銀行の融資基準を満たすよう、改ざんされていたケースが数多く見つかっています。

 この点について、スルガ銀行も、社内調査を行い、5月15日、業者による資料改ざんなどの不正が数多くあったこと、相当数の社員が不正を認識していた可能性があることを認めています。このとき、「前年比増収増益を継続しなくてはならないというプレッシャーから、事実上、営業が審査より優位に立ち、営業部門の幹部が審査部に圧力をかけるような状況も生じておりました。」「全般的に、営業成績を重視した結果、目先の成績の追求に走りコンプライアンス意識が低下し、お客様本位の業務運営が不十分になったものと認識しております。」ということも、発表しています。
 6月に行われたスルガ銀行の株主総会では、弁護団の弁護士も株主として出席し、「通帳等の偽造という犯罪行為がないと成り立たない融資。公序良俗違反の金銭消費貸借だ。」「代物弁済による解決しかない。」と発言したそうです。

 ここまでを見ると、融資の貸し手である銀行には、何らかの責任があるのではないかと思えます。

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 ただ、この審査資料改ざんの問題については、別の気になる報道もあります。

 例えば、購入者13人が原告となり、スマートデイズ社、同社役員、建築会社、不動産コンサルティング会社、販売会社などを被告として(銀行は被告になっていません)、あわせて2億円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしたという3月27日の報道です。
 これによりますと、この訴訟の訴状では、不動産コンサルティング会社について、「残高を改ざんする専用ソフトがある」「スルガ銀行の担当者もすでに承知している」などと原告(購入者)に告げて年収資料や預貯金残高を改ざんし、本来なら原告が投資することのできない高リスクの投資物件に投資させたと指摘され、「違法性を有し、故意による不法行為責任を負うことは明らかだ」と書かれているようです。
 つまり、購入者は、年収資料や預貯金残高を改ざんすることについて、不動産コンサルティング会社から説明を受けていたというのです。

 また、これとは別の報道ですが、次のような購入者の話を紹介しています。
 「『私がかぼちゃの馬車を購入した時、手持ちの金融資産は株式350万円のみでした。普通に考えれば、これだけで2億円もの融資をフルローンで引っ張るのは難しい。融資審査を通った後、周りのオーナーからある噂を聞いて、もしかしたら…と感じたんです』。思い切って販売会社の担当者に聞いてみると、恐れていた言葉が返ってきた。『実は株式350万円を現金3500万円に書き換えて提出しました』
 営業マン自ら、オーナーの資産状況に関するプロフィールシートの改竄、つまり金融資産の増殖行為を認めたというのだ。」
 この購入者は、融資審査を通った後、販売会社の担当者に聞いて、担当者が審査資料に虚偽の資産状況を書いたことを知ったというのです。また、当時、そのようなことが周りの購入者たちの間で噂になっていたというのです。

 もし、これらのことが事実だとしたら、これらの購入者には、その段階で融資を受けることを中止し、購入も中止する機会があった可能性があります。
 そうすると、融資の借り手である購入者の側にも過失があったのではないかという問題が生じてきます。

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 スルガ銀行は、事態の重大性に鑑み、第三者委員会を設置して事案の徹底調査と原因究明を進めると発表しました。第三者委員会の調査結果は、8月末までに公表する予定とのことです。
 融資審査資料改ざんの問題について、どこまで解明されるのか注目したいと思います。