「求人詐欺」問題に取り組もう!/嶋﨑量(事務所だより2016年9月発行第53号掲載)

1 求人詐欺とは?

news201609s 「求人詐欺」問題について、耳されたことはあるでしょうか?
 「求人詐欺」とは、求人票(募集要項)が実際の労働条件と異なる(または、重要な契約内容が十分説明されていない)という問題です。
 例えば、こういったケースです。

  1. ①「正社員」の求人票だったのに、入社後に「半年間はアルバイト」と言われた
    ②「正社員」の求人だったのに、働き始めると「業務委託」だと言われて社会保険にも加入できない
    ③ 求人票には「残業は少ない」と書いてあったのに、働き始めたら月100時間を超える長時間残業があった
    ④ 求人票では「給与25万円」と記載されていただけだが、実際には20万基本給・5万円固定残業代で、長時間残業しても残業代が支払われなかった

 このような「求人詐欺」の被害の件数が近時増大しています。
 例えば、厚生労働省の調査では、ハローワークの求人票の記載内容と実際の労働条件の相違について、求職者からよせられた苦情などの件数は、平成27/26年度いずれも1万件を超えています。
 最近は、この「求人詐欺」被害がメディア等で取り上げられることも増え、私も数多く取材をうけました。

2 被害の深刻さ

 この求人詐欺被害、実は大変深刻です。
 「こんな会社、直ぐ辞めれば良い」と考えるのは正論です。入社時から騙す様な会社は、おそらく他にも労務管理上、問題は多数あるでしょうし。
 ですが、例えば新卒入社で求人詐欺被害に遭ったら、簡単に退職を決断できません。
 新卒採用後に短期間で離職したら、「根性無し」とレッテル貼りされ、次の就職にも影響がでます。騙された労働条件に納得がいかなくても、簡単には辞められないのが普通の人です。
 そして、この被害者心理を理解し周到に行われているのが「求人詐欺」なのです。被害が顕在化しづらく悪質です。
 もちろん、直ぐに退職して次の会社を探す選択をする方もいます。でも、その場合には、「求人詐欺」によって他の就労先を選ぶ機会を奪われており、大きな不利益を被ります(特に新卒採用)。 そして、そういった被害者は、被害回復(少しでも良い就職先を探す)を優先するため、騙した会社に対する責任追及を考える方は殆どいません。

3 実は社会全体が被る被害

 結果として生じる被害は、当事者だけでは済みません。
 「求人詐欺」企業が野放しとなることで、就職市場での不公正な競争(=悪い労働条件を隠して募集する企業が得をして、正しい情報を提供した企業が損をする)が放置されるのです。
 これでは、特に人手不足で悩む業界などで、求人詐欺を出す会社が生き残り、まともな会社が淘汰されてしまいかねません。この現状を放置すると、ますます求人詐欺が増える(まともな会社も生き残るため求人詐欺に手を出す)という悪循環が生まれるのです。

4 「求人詐欺」問題の解決策

 「求人詐欺」問題については、既に法改正に向けた動きも有り、専門的な立法提言などは私自身も専門誌で執筆*1していますが、現在の制度でもできることはあります。
 例えば、企業別組合など既存の労働組合では、ぜひ自社の求人票をチェックする、積極的な企業情報開示を求めるといった取り組みを進めて欲しいです。
 いうまでも無く、就職活動をしている方は潜在的な労働組合員。若年層の労働組合への認知度の低下とこれに対する対策が叫ばれる中、労働組合が積極的に求人詐欺問題に取り組む過程で、労働組合に対する社会全体の認知度・イメージを高める効果も期待できます。

5 最後に

 「求人詐欺」は、考えれば考えるほど理不尽です。労働契約は人が社会生活を行う上で極めて重要な契約です。そこで、賃金・労働時間という基本事項に「詐欺」がまかり通っています。
 食品偽装などを引き起こした企業が、大きな社会的非難を浴びることと対比して考えると、求人詐欺が放置される実態は理解し難いものがあります。
 求人詐欺問題が放置されているのは、労働契約の入口段階から、使用者の言いなりになり、従属的な働き方を強いられていることが顕著に表れているともいえます。
 ですが、前向きに捉えれば、求人詐欺撲滅に取り組むことは、従属的な働き方を強いられる労働者の立場を大きく変える契機ともなりうるはず。ぜひ、様々な団体で、積極的な取り組みを期待*2したいです。

*1  私も労働法律旬報2016年4月下旬号に「偽装求人問題の法的課題と対策-実務家の視点から」という論文を執筆しました。そこでは、少し専門的な立法提言などをしています。

*2  厚生労働省の委託事業として、H28年度新規事業で「求人情報適正化推進協議会」(座長:中央大学阿部正浩教授)が設置され(事業受託機関:全国求人情報協会)、私も15名の協議会委員に選ばれました。ここでは、民間求人の適正化のためのガイドライン作りなどに向けて取組んでいます。

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