パワハラがもたらすもの/北村理美(事務所だより2016年1月発行第52号掲載)

news201601s パワハラ(パワー・ハラスメント)を受けたとして、パワハラを行った当事
者や会社に対して慰謝料などの損害賠償を求めたいという相談をたびたび受け
ます。
 このような場合、パワハラ行為があったことを証明できる証拠(たとえばパ
ワハラが行われている際の録音など)を揃えることができるか、そもそも裁判
で損害賠償が認められるパワハラといえるか等が問題となります。
 損害賠償が認められる違法なパワハラかどうかについては、明確な基準はな
く、個別の事情によって総合的に考えることになるのですが、次の定義は参考
になります。

 厚生労働省「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グ
ループ」の報告(平成24年1月30日)によれば、職場のパワーハラスメン
トとは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内
の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える
又は職場環境を悪化させる行為」をいうと定義されています。
 これによれば、たとえ業務上の指導に不満を感じていたとしても、「業務の
適正な範囲」で行われた業務上の指導は、パワハラには当たらないことになり
ます。

 パワハラの定義については以上のとおりですが、私がここで強調したいの
は、パワハラは、時として一人の人間の命も奪いかねない深刻な結果をもたら
すものだということです。
 パワハラを受けた人間は、人格が全て否定されたように思い、仕事への意欲
だけでなく自信をも失い、時にはうつ病、パニック障害、PTSD(心的外傷後ス
トレス障害)を発症するなど、心身に大きな被害を受けます。パワハラにより
これらの病気を発症し、最悪の場合には自死してしまったり、そこまでではな
くても、その病気と一生付き合わなければならない状況に陥ってしまうことに
もなります。
 また、パワハラは、パワハラを受けた個人だけに被害を与えるものではあり
ません。パワハラが横行している職場は、そこにいる職員のやる気を低下さ
せ、業績低下や人材喪失ももたらし、また、会社自身の法的責任も問われるな
ど、会社にとっても大きな損失となります。

 しかし、上記のようなパワハラについての認識は、パワハラの加害者だけで
なく、会社全体としても、また労働者一人一人の意識としても、まだまだ十分
ではないように思います。 
 労働者を退職させるための手段としてパワハラを組織として意図的におこな
う会社はもってのほかですが、パワハラ被害の訴えがあったときに、きちんと
調査をし、適切な対応を行う会社も少なく感じます。パワハラ被害を訴えて
も、その内容が加害者に筒抜けだったり、会社がパワハラの調査に動くことさ
えしないのも珍しくありません。また、調査に乗り出したとしても、身内意識
が働いたり、事なかれ主義で、問題がもみ消されることも多いでしょう。
 また、個人レベルにおいても、「昔はこのくらいの指導は普通だった」「今
は何でもかんでもパワハラにされて困る」などと考える人も少なくありませ
ん。
 確かに業務上の指導は当然必要ですし、それとパワハラとの区別は難しい問
題です。しかし、パワハラが人の命まで奪いかねないこと、職場全体・会社へ
も大きなデメリットをもたらすことを、会社全体としても、また、会社を支え
る労働者一人一人にもしっかりと認識させ、パワハラの予防・解決をしていく
ことが大切なのではないかと思います。

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