マタハラ最高裁判決/北村理美(事務所だより2015年9月発行第51号掲載)

news201509S 昨年の夏のたよりで「マタハラ(マタニティ・ハラスメント)」についての記事を書きました。
 それから1年経った現在、「マタハラ」という言葉はあっという間に社会に浸透しました。

 平成26年10月23日、最高裁判所は、妊娠中の軽易業務への転換を「契機として」おこなった降格は「原則違法」とする判断を示しました。この最高裁判決は、マタハラ事件の判決として大きく報じられました。

 そもそも、男女雇用機会均等法9条3項や育児・介護休業法10条には、妊娠・出産、育児休暇等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならないと定められています。
 しかしながら、従前は、事実上労働者側で妊娠・出産等と不利益取扱いとの間の因果関係を立証しなければならず、使用者側が妊娠等を理由としてではなく、経営難や能力不足等の他の事由を理由としたものであると言ってしまえば、妊娠・出産等と不利益取扱いとの間の因果関係を立証することは困難でした。

 このようななか、今回の最高裁判決は、妊娠中の軽易業務への転換を「契機として」おこなった降格は「原則違法」であり、無効であるとした点に大きな意義があります。
 すなわち、労働者側は、妊娠・出産等を「契機」としたものであることさえ立証すれば良いのであり、使用者側で、妊娠・出産等を理由とした不利益取扱いではないことを立証しなければならないと考えられるようになったのです。
 さらに、最高裁判決は、男女雇用機会均等法9条3項の禁止する不利益取扱いに当たらないとする例外も、2つの場合に限ったうえ、その要件も厳しく設定しました。
 
 上記最高裁判決を受け、平成27年1月23日、厚生労働省は、全国の労働局長に対し、従前の法解釈通達を一部改正する旨の通達を出し、いわゆるマタハラの解釈を厳格化しました。
 この通達では、妊娠・出産、育休等の事由を「契機として」不利益取扱いを行った場合は、原則として妊娠・出産、育休等を理由として不利益取扱いがなされたものと判断されること、「契機として」とは、基本的に当該事由が発生している期間と時間的に近接して当該不利益取扱いが行われたか否かをもって判断することなどが明らかにされました。

 さらに、平成27年3月30日、厚労省は、「契機として」の具体例や不利益取扱いにあたらないとされる例外等について詳しく説明した「妊娠・出産・育児休業等を契機とする不利益取扱いに係るQ&A」を公表しました。
 そこでは、「契機として」の具体例として、妊娠・出産・育休等の事由の終了から1年以内に不利益取扱いがなされた場合は、原則として「契機として」いるとされました。

 以上のように、今回の最高裁判決及び通達により、「マタハラ」は問題解消に向けた大きな一歩を踏み出しました。
 しかし、残念ながら働く女性の妊娠・出産を巡る問題はまだまだ改善したとはいえません。理不尽な扱いを受けてもなかなか声をあげることが出来ないのが現状でしょう。「マタハラ」の背景には、男女限らず長時間労働を前提とする日本の働き方という根本的な問題もあると思います。
 出産しても働き続けたいと考える女性が、理不尽に職を失うことが少しでもなくなるよう、今回の最高裁判決、通達を活用して、着実に一歩一歩取り組んでいきたいと思います。

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