付添人の役割/石渡豊正(事務所だより2015年1月発行第50号掲載)

news201501_small 少年審判は、非行を犯したとされる少年について家庭裁判所が非行事実や要保護性(少年院送致等の保護処分の必要性)について審理するものです。弁護士は、刑事裁判では弁護人として活動し、少年審判では「付添人」として活動します。刑事裁判における弁護人の役割は、被告人の権利の擁護者ですが、少年審判における付添人については、第一次的には少年審判の目的が適正に実現されるための裁判所の協力者であり、少年の権利の擁護者、代弁者としての弁護人的役割も合わせもっているなどと言われることがあります。

 しかし、実際の少年審判においては、どのようなスタンスで少年と向き合うかは常に頭を悩ます難しい問題です。

 私が付添人に選任されたある少年は、被害者2名に対する傷害などが非行事実となっていました。

 非行事実の内容や生育歴等からすれば、少年院送致の可能性も高い事案でしたから、少年院の意義を説明し、少年院送致への覚悟を持たせるという姿勢も、付添人の活動方針としてはあり得るものと言えました。その方が、少年院送致となった場合の少年のショックも小さく、少年院での生活にスムーズに移ることができるかもしれません。

 しかし、「もう暴力はふるわない。」、「これまでの自分を変えたい。」と涙ながらに話す少年の真剣な表情を見た私は、少年の言葉を信用し、「少年院に行かないように頑張ろう」と励まして少年院回避への希望を持たせ、それに向けた行動をアドバイスしました。少年も私からの注文に応えようと必死に努力しました。

 もっとも、現実に下された審判結果は、少年院送致相当でした。少年は、直ちにはその結果を受け入れることができず、審判翌日の私との面会でも不満の言葉を述べていました。私は、果たして自分の活動方針が正しかったのかと考えざるを得ませんでした。

 ところが、その数日後、驚いたことに、母親を介して私に届けられた少年の手紙には、「石わたべんごしが付添人だったからがんばれたことがたくさんありました。」、「良い子になってもどって来ます。」との言葉が綴られていました。

 逃げたい気持ちを抑えて逃げず、諦めずに審判に正面から向き合ったこと、そして自分の言葉を信じた大人がそれに協力してくれたこと、少年審判に向けたそうした経験それ自体が少年にとって意味のあることだったのかもしれません。

 今回は、少年の言葉を信じて代弁者に徹しましたが、そこに大きな間違いはなかったのではないかと、少年の言葉に励まされました。