月別アーカイブ: 2015年1月

「ブラック」企業について考えてみました/嶋﨑量(事務所だより2013年8月発行第47号掲載)

news201308_small 「ブラック企業」という言葉。ちょっとした流行語になっています。この「ブラック企業」を世に広めたのは、労働相談、労働法教育、調査活動などを若者自身の手で行うNPO法人、POSSEの代表・今野晴貴さんでしょう(*1)
 先日、この今野晴貴さんの講演を聴かせていただく機会がありました。
 弁護士になったばかりの頃、POSSEに依頼されて、何度か私が市民向け(主に若者向け)のセミナーで、労働法の講義をさせていただいたことがありました。私が今野さんのお話を講演で改めて聴かせていただくのは初めてでしたが、色々と考えさせられました。 続きを読む

レトロスペクティブとプロスペクティブ /大塚達生(事務所だより2013年8月発行第47号掲載)

news201308_small レトロスペクティブとプロスペクティブという言葉をご存じでしょうか。
 レトロスペクティブの原語であるretrospectiveには「回想的」とか「回顧的」という意味があり、プロスペクティブの原語であるprospectiveには「将来の」とか「予想される」という意味があります。
 そのことから、レトロスペクティブのことを後方視的と、プロスペクティブのことを前方視的と言い表して使っている場合があります。
 「後方視的」も「前方視的」も聞き慣れない言葉だと思いますが、医療訴訟について論じている文章、特に医療訴訟を批判する文章の中で時々見かけます。
 そこでは、医療現場における医師の思考は前方視的で、医師は現時点で得られた患者に関する情報をもとに、診断と治療方法の選択を行っているということが強調され、悪い結果が生じた場合に、司法がその悪い結果という情報(診断時、治療時にはなかった情報)をもとに、後方視的に過去の医療行為の是非を審査することに対する不満が述べられます。 続きを読む

ワークルール教育について /石渡豊正(事務所だより2013年8月発行第47号掲載)

news201308_small    契約社員やパートであっても有休があることを知っていたのは、正社員で66.2%、非正社員で51.9%。また、非正社員でも時間外割増賃金を請求できることについては、正社員の約3割、非正社員の約4割が知らない。さらに、二人以上で労働組合を作れることを知っていたのは、正社員で27.2%、非正社員14.8%であった。

 これは、公益財団法人連合総合生活開発研究所による第24回「勤労者の仕事と暮らしについてのアンケート」(平成24年12月発表)の結果です。
 このアンケート結果から分かるのは、多くの人々が、ワークルールに関する十分な知識のないまま働いているという実態です。
 現在の日本において、ワークルール教育を受ける機会が不足していることが懸念されます。

 労働者にとって、ワークルール教育は、法律によって認められた自己の権利を知り、それを守るために必須の前提と言えます。従って、労働者にとってワークルール教育が重要であることは論を俟ちません。 続きを読む

アメイジング・グレイス /野村和造(事務所だより2013年8月発行第47号掲載)

news201308_small 夜中についテレビをつけると,英国議会のようなところで、青年政治家が奴隷貿易反対の演説をしていました。「アメイジング・グレイス」という2007年に公開された映画。英国議会の奴隷貿易廃止決議200年ということで作られたとのことでした。
 映画に出てくる主人公は、ハンサムな青年政治家、ウィリアム・ウィルバーフォース(1759-1833)。「アメイジング・グレイス」の作詞者、奴隷貿易船の元船長でその罪を悟って牧師となったジョン・ニュートンではありません。
 映画は少々史実と違うところがあるようですが、インターネット情報を総合すると、ほぼ次のようなものと思われます。


  18世紀、英国のリヴァプール、ブリストル等から武器・商品をアフリカに輸出し、そこで黒人奴隷と交換し、西インド諸島やアメリカ植民地に運び砂糖やラム酒、タバコ・米と交換して、それをイギリスに持ち込むという三角貿易が発展しました。
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公務員と労働契約 -「非正規公務員」の現状-/嶋﨑量(事務所だより2013年1月発行第46号掲載)

news201301_small 民間企業などで働く労働者は、使用者との間に「労働契約」を締結して、その法律関係は労働契約法により規律され、労働者保護が図られています(例えば、解雇に関する労働契約法16条、就業規則不利益変更に関する労働契約法10条など)。
 しかし、公務員については、実務では、「労働契約」が存在せず、民間企業で働く労働者に適用される労働契約法は公務員には適用されないという法解釈が支配的です。*1
 このように、公務員について「労働契約」の成立を否定する考えの論拠は、公法と私法とを峻別し、公務員と国・地方自治体との関係は「公法」であるから、私法とは異なり労働契約は存在しないし労働契約法も適用されないというのです。
 この考え方によれば、民間の労働者とは異なり、公務員は労使合意によって「労働契約」が成立することはあり得ず、国や地方公共団体が一方的に「任用」するに過ぎないとされています。
 ですが、私は、この公法・私法峻別論により公務員関係には労働契約の成立が否定され、労働契約法の規定は全て排除されるという理論が、どうにも腑に落ちないのです。*2 続きを読む