マタハラ /北村理美(事務所だより2014年8月発行第49号掲載)

news201408_small 最近よく聞く言葉に「マタハラ」という言葉があります。「マタハラ」とはマタニティハラスメントの略称で、定まった定義はないようですが、妊娠・出産を理由に解雇や雇止めなどの不利益取扱いをされることや、妊娠・出産にあたって職場で受ける精神的・肉体的な嫌がらせのことをいいます。
 妊娠・出産した女性に対する嫌がらせは昔から存在していたものと考えられますが、そのような様々な嫌がらせに対し「マタハラ」という言葉を付けたことによって、今改めて、大きく社会問題として取り上げられています。

 このように、ある社会問題を広く社会に提起し、浸透させるうえで、その社会問題を表す言葉(用語)というものは非常に大事です。その成功例が「過労死」という言葉ではないかと思います。
 本年6月20日、「過労死等防止対策推進法」が成立しました。この法律は、社会から過労死等をなくすことを目的とし、過労死等防止対策を推進する責務が国にあることを明記しています。私は以前、長年過労死問題に取り組んできた弁護士からこんな話を聞いたことがあります。
 過労死は1980年代後半から徐々に社会問題化されていたが、最初はそもそも「過労死」という言葉はなく、「突然死」「急性死」と認識されていた。企業中心の日本社会において、過労による死亡というものを否定したいという圧力は強く、労災はなかなか認められなかった。しかし、「過労死」というネーミングは、働き過ぎによる過労が原因で死亡するということをわかりやすく伝えたものであり、その言葉のわかりやすさで社会に受け入れられ、過労死が社会問題として広がり、過労死の防止を目的とする法律の成立にまでつながった、という話でした。

 また、「セクハラ」という言葉も今では定着していますが、その歴史は決して長いものではありません。セクシャルハラスメント(セクハラ)という言葉は、平成元年に新語・流行語大賞で新語部門の金賞を受賞していますので、その頃から「セクハラ」という言葉が広く社会の中で使われ、セクハラは許されないものであるとの認識が徐々に広がってきたものと思われます。日本で初めてセクハラを理由とした民事訴訟が提起されたのは平成元年8月のことでした。
 その後、「セクハラ」という言葉の広がりもあってか、性的嫌がらせに対する社会の認識も高まり、平成11年施行の改正男女雇用機会均等法には、日本では初めて、セクハラ防止のための事業主の責任が定められました。さらに、平成19年施行の改正男女雇用機会均等法は、事業主はセクハラ防止のために積極的な措置義務を講じなければならないとして、事業主の責任を強化しました。

 話を「マタハラ」に戻します。そもそも、法律には、働きながら妊娠して出産し、子育てをする労働者を守る規定が多々あります。産休・育休の権利が定められていることはもちろんですし、男女雇用機会均等法上、妊娠中や産後1年以内の妊娠中や産後1年以内の解雇は、事業主が妊娠、出産、産休を取得したことなど以外の正当な理由があることを証明できない限り、無効とされています。また、同法は、妊娠・出産等を理由とする不利益な取扱いも禁止しています。
 それにもかかわらず、妊娠を告げたら解雇・降格された、育休を取らせてもらえないといった相談は絶えません。「マタハラ」という言葉がもっと広まることによって、「マタハラ」は許されないものであるとの認識が社会に根付けば、働く女性が安心して子どもを産み育てることのできる社会に近づくのではないでしょうか。

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