ブラック企業被害対策とワークルール教育/嶋﨑量(事務所だより2014年1月発行第48号掲載)

news201401_small 先日、日本労働弁護団主催で、ワークルール教育に関するシンポジウムが開催されました。パネリストとして、道幸哲也教授(放送大学教授・労働法)、上西充子教授(法政大学・キャリアデザイン学)、POSSE代表の今野晴貴氏、神奈川高教組の加藤はる香氏という、多彩なメンバーが参加され、私もコーディネーターとして参加させていただきました。

 このシンポジウムで一番印象深かったのは、複数のパネリストから、単なる労働法の知識だけではなく、自分の権利を主張する意識を育てることの必要性が指摘されていたことです。職場で何らかの権利侵害(解雇・賃金未払い・ハラスメントなど)を受けた労働者のうち、労働組合や弁護士に相談する方は、本当にごく少数派でしょう。今の日本で働く労働者のうち、職場での違法行為に対して権利主張するのは、残念ながら本当にごく一部の「変わった人」なのです。

 ですが、職場での違法行為に対して、当たり前の権利主張をする人が増えていき、それが「普通の人」になれば、日本の職場に蔓延する「労働法無法地帯化」が改善されていくのではないでしょうか。

 たしかに、日本では、基本的な労働法の知識が、まだまだ浸透していません。例えば、多くの労働者は、残業代未払いを無意識に(自分の権利侵害を認識せず)受け入れています。ですから、私は、まずは労働法の知識を社会に浸透させることが必要であろうと考えていました。

 ですが、現在はインターネットなどを活用し、最低限の労働法の知識は簡単に入手できます。「課長だから、残業代がでない」「年俸制だから残業代が出ない」といった常識が誤っているということは、その気にさえなれば、多くの方が入手できる知識なのです。ですから、足りないのは、必ずしも労働法の知識だけではないのです。仮に知識があっても、自分の権利をきちんと主張して良いのだという、権利主張する意識が社会に根付かなければ、労働法がきちんと守られる社会は、実現しないだろうと思います。

 とはいっても、権利主張する意識を含めワークルール教育が社会に浸透し、労働法がきちんと守られる社会なんて、実現するはずがないと悲観的に考える方もいらっしゃるでしょう。

 私は、この問題を考えるときに、いつも「飲酒運転」の問題と比較して考えるようにしています。飲酒運転は、はるか昔から道路交通法違反の犯罪行為でしたが、ほんの20年ほど前までは、社会全体が飲酒運転に対してとても寛大でした。ですが、今では、飲酒運転行為が、死亡事故のような凄惨な交通事故を引き起こす危険性が社会に周知され、その悪質性は社会全体に浸透してきています(もちろん自然にではなく、多くの方のたゆまぬ努力のおかげで)。

 飲酒運転行為と同じように、残業代不払いも刑事罰が予定された犯罪行為です。しかも、日本では、今この瞬間にも、残業代未払い状態での長時間労働によって、過労死の危険に直面している労働者が多数存在します。残業代未払いについても、飲酒運転行為と同じように、社会の意識を変えていくことは、十分に可能なはずです。

 そして、多くの方に、労働法に関する権利意識を根付かせていけば、「労働法無法地帯化」を改善することだって実現できるはずなのです。

 ちなみに、私は、このシンポジウムに「ブラック企業被害対策弁護団」の立場で参加させていただきました。なぜ、ブラック企業とワークルール教育が結びつくのか、疑問に感じる方もいらっしゃるかもしれません。若者を使い捨てにするブラック企業撲滅のためには、ワークルール教育を社会に根付かせて、若者に基本的な労働法の知識と権利主張する意識を根付かせて、労働者自身がブラック企業に対して自ら声を挙げていくことが必要だからです。

 一部の「変わった人」だけが権利主張している現状が、「労働法無法地帯化」を生じさせ、次々に若者を使い捨てにするブラック企業を、はびこらせているのです。


book201311_smallブラック企業被害対策弁護団で、「働く人のためのブラック企業被害対策Q&A~知っておきたい66の法律知識~」(LABO)という本を出しました(私が中心になって、編集・執筆などとりまとめました)。
 全国から46人の気鋭の労働者側弁護士が参加して、法律になじみのない方でも分かりやすいように、実践で活用できるように、強く意識して執筆しており、読みやすい(けれど読み応えのある)本だと自負しています。当事務所からも、私以外にも執筆に多数の弁護士が関わっています。

 ブラック企業の見分け方から労働組合の役割まで、広い分野について網羅していますので、ぜひご自身だけでなくご家族(特に若い方)に、ご一読いただければ幸いです。

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